もう一つの「鉄道創業の地」、桜木町を訪ねて

 【汐留鉄道倶楽部】今年は新橋~横浜間に日本最初の鉄道が開業して150年。当時の新橋駅はその後貨物専用の汐留駅(1986年廃止)となり、現在は開業当時と同じ位置に「旧新橋停車場鉄道歴史展示室」として外観が忠実に再現されている。2階は企画展のスペースとなっており、11月6日までは「鉄道開業150年記念 新橋停車場、開業!」を開催中だ。

 弊社からも歩いて行けるため、興味のある企画展には足を運んできた。一方、もう一つのターミナル・横浜については、現在のJR桜木町駅の場所ということ以外、ほとんど何も知らなかった。利用したことはあったが、節目の年にあらためて訪ねると、駅とその周辺は〝鉄道博物館〟のようになっていて驚いた。

 

1871年製造とは思えないほどピカピカになった110形。外からも見えるようにガラス張りの窓際に置かれているため、少し撮影しづらかった

 JR根岸線で、横浜から一駅。2階のホームから1階の改札口に降りる階段の壁面を見てまずはびっくり。歴代の桜木町駅を撮影した写真が、5枚の大型壁画で年代順に再現されている。改札階の壁も、初代桜木町駅(初代新橋駅と同様に、米国人建築家ブリジェンスが設計)とその周辺を描いた大判錦絵のレプリカや、島口暉生氏による同駅など歴史的建造物の細密画、さらには券売機の変遷が分かる写真や、ブルートレインを撮影しようとホームで待ち構える子どもたちの写真など、マニア心をくすぐる展示物であふれていた。

 南改札口を出ると、そこはまさに〝第2展示場〟だった。コンコースの柱の側面を使って、「鉄道創業の地・桜木町駅」「初代横浜駅と発着場の情景」など、テーマごとに紹介。限られたスペースに、レールの断片や古い工具などの実物、写真や錦絵から人物を手前に切り出した「半立体模型」(飛び出す絵本のようなもの)なども配置し、随所に見せる工夫がなされていた。内容も歴史にとどまらず「鉄道が発信する文化」「鉄道旅行のお楽しみ」など幅広く、見応えがあった。

 これだけでも充実した展示内容だが、新南口からすぐのビルの1階の「旧横浜鉄道歴史展示(旧横ギャラリー)」に、創業時に英国から輸入された蒸気機関車10両のうちの1両、「110形」が鎮座している。1918年まで現役で働いた後、技術者育成の教材として車体の一部が切開され、2019年までは青梅鉄道公園で保存展示されていた。20年の「旧横ギャラリー」開設にあたり、切開部分などをきれいに修復のうえ移設された。創業時の中等客車(復元)を従え、細く長い煙突も誇らしげに、今にも走り出しそうだ。ギャラリー内には駅コンコースと同様のパネル展示や、当時の駅周辺を再現した模型などもあり、創業時の雰囲気を十分に味わうことができた。

 

柱を活用した色鮮やかな展示スペース。駅コンコースを急ぎ足で行き交う人にも、ちょっと立ち止まって見てほしい

 駅の改札内の壁面やコンコースの展示は14年までに整備され、2年前の「旧横ギャラリー」の開設とあわせ、新橋(汐留)に負けず劣らず、創業の地にふさわしい姿になった桜木町駅とその周辺。そんな中、忘れてはならないのが新南口前にひっそりと建つ「鉄道創業の地記念碑」だ。高さ5、6メートルはありそうな鋼鉄製(?)の三角柱で、1967年の竣工からすでに50年以上が経過している。表面の文字も判読しにくくなっているが、よく見ると「我が国の鉄道は、明治5年(1872年)旧暦5月7日、この場所にあった横浜ステイシヨンと品川ステイシヨンの間で開通し、その営業を開始しました。」とあった。新橋までの本開業の数か月前に「仮開業」していたという〝鉄道あるある〟が、しっかりと刻まれている。創業の地の「本家」は新橋ではなく横浜、と主張したかったわけではないだろうが…。

 ☆共同通信・藤戸浩一 桜木町と言えば、昨年春に駅前広場から運河パークまでの都市型ロープウェイ「YOKOHAMA AIR CABIN」の開業が話題になった。せっかくなので、横浜臨港線跡の「汽車道」を見下ろしながら、つかの間の空中散歩を楽しんだ。

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