石木ダム全用地収用3年 「対話で解決」進展なし 佐世保市は事業の遅れ懸念

岩下さん(右)の意見を聞く大石知事(左手前)=9月7日、東彼川棚町東部地区コミュニティーセンター

 長崎県東彼川棚町での石木ダム建設計画で、県が土地収用法に基づき、反対住民13世帯の宅地を含む全ての建設予定地を取得してから20日で3年を迎えた。県は「行政代執行」で住宅などを強制撤去できる状況だが、大石賢吾知事は「対話による解決」を目指し、就任半年で住民と4度面会。同じテーブルにはついたが、理解を得られず進展は見えない。利水を予定する佐世保市からは、事業が遅れれば同法上、住民に買い戻す権利が生まれないかと懸念する声も出ている。
 3月10日、就任間もない大石知事は抗議の座り込み現場を訪れ、住民らに「一緒に解決できるよう話し合いに向け調整したい」と頭を下げた。知事と住民の面会は、2019年に中村法道前知事が県庁で会って以来2年半ぶりだった。大石知事は4月20日に再訪し、住民と約1時間現地を歩いた。墓地にも出向き、持参した線香を供え手を合わせた。
 8月10日、3度目から話し合いが始まった。事業の主な目的は川棚川の治水と同市の利水。大石知事が自然災害への備えや、地権者の8割が既に移転に応じている現状を理由に理解を求めたのに対し、住民の岩下和雄さん(75)は「必要性について納得いく話し合いを続けて」と要望。だが9月7日の話し合いは、双方の主張が平行線をたどり、岩下さんは「最初から必要と言うのなら、すぐにでも行政代執行すればいい」と突き放した。
 必要性を巡っては20年10月、住民らが国に事業認定取り消しを求めた訴訟で、最高裁は住民側の上告を退け、必要性を一定認めた。それでも住民側は治水、利水両面で県と市の説明に納得していない。
 県が掲げる完成目標は25年度。大石知事は8月の定例会見で、いつまで話し合うのかと問われ「期限を区切ることはできない」と明言を避けた。「行政代執行は最後の手段」とも述べ、前知事の姿勢を踏襲した。
 これに住民の石丸勇さん(73)は「話し合いは代執行する前準備で、雰囲気をつくりたいだけではないか」と不信感を隠さない。
 来年9月、事業認定から10年を迎える。土地収用法では「認定の告示の日から10年を経過しても収用した土地の全部を事業の用に供しなかったとき」は元所有者が買い戻せる-とする。朝長則男市長は今月11日、市などが主催した石木ダムの推進大会で、この「買受権」に触れ、「ここ1年が正念場だ」と語気を強めた。県側は、事業の遅れは住民による妨害が原因で「買受権は発生しない」とするが、判例がないとして「仮に裁判になったら何があるか分からない」と警戒感も示す。


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