「餌やり禁止」が一人歩き… 長崎市の動物愛護条例 共生の理念周知、道半ば

8月から地域猫活動を始めた東愛さん(左)と娘の優花さん=長崎市本原町

 20日から動物愛護週間が始まった。人と動物の共生を目指し、長崎市は県内初となる動物愛護条例を7月1日に施行。生活環境被害を減らすために野良猫に餌を与える際のルールが定められたほか、多頭飼育の届け出が義務化された。条例による変化や効果を、地域猫活動に取り組むボランティアや同市に聞いた。

 15日の夕暮れ時。長崎市本原町の墓地に続く階段。水が4リットル入ったペットボトル2本と猫の餌、掃除道具などを抱えた母と娘が一段一段上っていく。すると1匹の猫が「にゃー」と鳴きながら足元に擦り寄った。同市扇町のヨガ講師、東愛さん(43)と高校2年の娘、優花さん(16)は慣れた様子で餌を与え始めた。
 通学路で出合うおなかをすかせた猫。優花さんは「どうにかできないか」と悩ましかった。その思いに愛さんが応え、同市が実施している「まちねこ不妊化推進事業」に地元自治会の協力も得て申し込んだ。7月末に選定され、8月中旬から自宅近くの橋口町や本原町で地域猫活動を始めた。
 約20匹の野良猫を確認。活動開始から1カ月間で11匹を捕獲し、不妊・去勢をして地域に戻した。毎日朝夕に餌を与え、掃除をしている。今年3月頃から地域の猫を観察してきた母娘はある変化に気付いた。
 以前は餌を与えている人がいたが、条例施行のタイミングでぱったりと止まった。不適切な餌やりを禁止している条例が要因と思われる。一方で餌をもらえなくなった猫は痩せ細り、餓死とみられる死骸も確認されたという。
 県動物愛護推進員で長崎さくらねこの会の山野順子代表はこうした状況に懸念を示す。「確かに不適切な餌やりは良くないが、条例は人と動物の共生が目的。餌やり禁止という言葉ばかりが一人歩きしている」と感じる。不妊・去勢をして餌やりや掃除などの管理を同時に進める地域猫活動なら違反にはならない。
 自身が地域猫活動を続ける同市魚の町では約40匹いた野良猫が約5年間で14匹まで減った。野良猫の寿命は短く、不妊・去勢が完了すると猫は確実に減る。山野代表は「ふん尿被害で迷惑がられていた猫たちは今では地域でかわいがってもらい穏やかに暮らしている」と話す。

飼い主のいない猫への餌やり基準の概要


 同市動物愛護管理センターによると、条例施行をきっかけに一部の自治会では地域の課題として猫に向き合い始めた。一方で環境被害を受けている住民からは「餌やりを禁止しているのに罰則がないのはおかしい」という声も寄せられるという。島﨑裕子所長は「条例の理念を理解してもらえていない。時間はかかるかもしれないが、粘り強く周知していきたい」と話す。
 同市によると、本年度のまちねこ不妊化推進事業の予算は雌300匹、雄100匹分でこれまでで最も多い。だが申し込みを始めると、157件1470匹分の申請があり、選定できたのは26件にとどまった。
 山野代表は「長崎市の予算は確かに十分とはいえないが、県内には行政の協力がほとんどない市町もある。人と猫が共生するには、野良猫の数を減らす必要がある。行政の協力は必要だし、県民の皆さんには自分事として地域猫活動に取り組んでほしい」と訴える。


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