河合奈保子の存在を決定づける作品には常に “編曲家 大村雅朗” が携わっている!  9月21日「河合奈保子 Masaaki Omura Works~大村雅朗作品集~」リリース!

編曲は大村雅朗。聴いてヒットを確信した「スマイル・フォー・ミー」

大村雅朗という編曲家の名前を初めて知ったのは八神純子の「みずいろの雨」(1978年9月5日リリース)だった。当時私は小学6年生。音楽に関する細かいことなどまだ理解できていなかった頃だが、なんだかゾワゾワする感じのイントロ、そして唸るようなギターのアウトロがとてもカッコよく思えた。それをきっかけに八神純子の作品にハマっていった。

それから2年後、私は河合奈保子という歌手を好きになる。明るく元気なキャラクター、そして伸びやかな歌声がとても魅力的だったのだが、シングルでリリースされる曲はマイナー調のものが続き、どことなく彼女の良さを活かしきれていない気がしていた。

しかし、5枚目のシングル「スマイル・フォー・ミー」(1981年6月1日リリース)を初めて聴いたとき、駆け上がるストリングスと弾けるようなブラスセクションのイントロで、「これは奈保子の代表作になるはずだ!」と確信した。そして編曲に大村雅朗の名前を見たとき、「あっ! これは絶対にヒットする!」と確信した。

私の確信通り、「スマイル・フォー・ミー」は初のオリコンTOP10入りを果たし、それまでの奈保子の作品の中で最高の売り上げを記録する。どこを切っても明るさしか出てこない曲に、「Naoko」と書かれたハートをあしらったマイクスタンドを前にくるくる回る奈保子。彼女の明るいキャラを最大限活かしきったあの曲が売れないはずはない。

松田聖子の「青い珊瑚礁」も同様に大村雅朗による編曲だが、やはりイントロでの駆け上がるストリングスは印象的だった。弾ける夏を連想させるし、何よりこれからアイドルとしてブレイクしていこうとする松田聖子自身にもリンクしていたような気がした。

歌手・河合奈保子の節目に大村雅朗あり

その後大村氏は奈保子作品にいくつも関わっていくのだが、“大村雅朗” というと世間的には松田聖子の作品のイメージがかなり強いと思う。しかし、奈保子が歌手としての存在を決定づける代表的な作品には常に大村氏が携わっているのである。

まず、1982年7月にリリースされたアルバム『サマー・ヒロイン』。パーン!とはち切れそうな元気と明るさを存分に詰め込んだ「I My Me Mine」のような曲があるかと思えば、「帰れない」「Please Please Please」のような、センチメンタリズムに溢れた曲があったり、奈保子の表現力を堪能できる。このアルバムは「けんかをやめて」の少し前にリリースされていて、キラキラしたアイドルサウンドに一旦区切りをつけた節目の作品だと思っている。

1983年1月にリリースされたアルバム『あるばむ』では竹内まりや、来生えつこ・たかお姉弟が提供した作品をアレンジ。先にシングルでリリースされた「Invitation」など、レディとして少しずつステップアップしていく奈保子をうまく表現し、初のアルバムチャート1位を獲得した。

同年6月にリリースされたアルバム『スカイ・パーク』では全曲編曲を担当。当時の奈保子にとって初の16ビートのディスコサウンド(「アリバイ」)は印象的だったし、石川優子作詞・作曲によるタイトル曲「Sky Park」は、奈保子が伸びやかな声で優しく歌うスローバラードで、おそらくファンの間で一番支持されているアルバム曲だ。

八神純子とのコンビネーションは抜群の安定感

そして印象が一番強烈だったのは1983年6月のシングル「エスカレーション」。大胆なモーションで恋を仕掛ける女の子、という内容の曲を、それまでの爽やかな奈保子のイメージを大きく崩すアグレッシヴなアレンジで挑んだ。奈保子作品の中で最大のヒットとなったので、ご存じの方も多いだろう。

さらに、奈保子が20歳の誕生日にリリースしたアルバム『ビューティフル・デイ』では大村氏が作曲も担当。その曲「Twenty Candles」は「エスカレーション」路線をさらにスリリングに展開した曲で、転調も交えたスビード感あふれるサウンドに、奈保子が手堅い歌唱力で応えている。また、松尾一彦による作曲の「Bossa−Nova」は、アダルトな雰囲気を漂わせたアレンジになっている。

大村氏が奈保子に関わった最後の作品、1984年にリリースされたアルバム『Summer Delicacy』では八神純子による作品も編曲。元々相性の良かった八神純子とのコンビネーションなので抜群の安定感。八神純子自身も歌っている「夏の日の恋」は、どちらも大村氏によるアレンジなので、聴き比べるのも楽しい。

いよいよリリース「Masaaki Omura Works~大村雅朗作品集~」

ところで、大村雅朗のアレンジを言葉で例えると私は「Solid」という言葉が浮かぶ。「硬い、頑丈な」「中身の詰まった」「隙間のない」などの意味がある言葉だが、シャキシャキとした感触、それでいて様々な音色がギュッと詰まった感じのサウンドが私にはとても心地良かった。それだけに、大好きな奈保子の作品で大村氏のサウンドを楽しめるのは本当に嬉しかった。

そんな大村氏が奈保子に関わった楽曲を集めたCDが『Masaaki Omura Works~大村雅朗作品集~』としてリリースされるという。なんという贅沢。このことをネットニュースで知った私は「ヒャッホゥ!」とマンガのような声を上げてしまった。

「河合奈保子=アイドル」、世間的にはそういう定義で認識している方が多いと思う。それはそれで間違いない。しかし、彼女が高い歌唱力と表現力を携えた歌手だということを、この作品集のリリースをきっかけに、ぜひとも知っていただきたい。もちろん、奈保子の魅力を最大限に活かしてくれた、大村雅朗の丁寧かつ大胆なアレンジメントも堪能していただきたい。

ちなみに「Solid」には「硬い、頑丈な」「中身の詰まった」以外にも意味がある。

「確かな、信頼できる、頼りになる」

―― むしろ、これが一番大村雅朗にぴったりな意味かもしれない。

カタリベ: 不自然なししゃも

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