会社員の副業、雑所得と事業所得の違いとは? 確定申告が必要になるケースと開業届について税理士が解説

「給料以外に収入があるけれど、これって何か手続きしないとダメなんですか?」ですって? なんて……嘆かわしい!

「給料だけでは将来が不安」とか、「趣味に使えるお金が欲しい」など、最近は会社員の方でも副業を考える方が増えています。しかし、いざ給与以外の収入が入ってきた時に、その金額を申告しなければいけないのか、わからなくて困るという方が多いかもしれません。

お笑い芸人で本物の税理士である税理士りーなが、副収入があった場合の税の取り扱いについて、わかりやすく解説します。


給料以外に収入が発生した時に申告が必要なケース

内職や業務委託などの副業で給与以外の収入が発生した場合、多くの方は所得(もうけ)の区分が「その他の所得」=「雑所得」になります。

雑所得は、その仕事をする現場までの交通費や、その仕事をするために必要だった道具代や消耗品の代金など、その収入を得るために支出した「経費」を、収入から差し引いた金額になります。収入を得るために支出した「経費」の金額を自分で集計し、収入から差し引くことで、実際に自分の手元にいくら「もうけ」として残ったのかを計算するのです。

雑所得 = 収入金額 ― 必要経費

これが、所得税の計算で使う「雑所得」の金額になります。一方、給与の場合は、経費のように引いてもらえるものが計算できないので、もうけの計算をする時に一定の計算式に当てはめ、経費のようなものを引いた金額を概算で算出します。

所得税のルールでは「年末調整で所得税の精算が終わっている給与があれば、それ以外の所得の合計が20万円を超えるなら確定申告が必要」となっています。つまり、本業の給与をくれる会社で「年末調整」という所得税の計算をやってもらっている方は、副収入が雑所得のみで、その雑所得が20万円以下なら所得税の確定申告をしなくても良いということです。

また、これは別の職場から給与をもらっている場合も同じ判断基準になります。2ヵ所目の職場からアルバイト代をもらっているケースです。

A社がメインの勤務先で、B社で月に4回程度アルバイトをしていたとします。この時も、20万円以内かどうかが判定基準になりますが、年末調整の時に給与所得の経費の計算式をA社の方で使って引いてしまているので、B社のもうけを計算する時は、計算式も使えず経費を引くことができません。1月から12月の1年分の収入の金額で「20万円以内かどうか」を判定してください。また、B社のようなサブの勤務先の収入と雑所得の両方がある場合は、B社の給与収入金額と雑所得の金額を足した金額が20万円以内かどうかで判断します。

つまり、毎月の副収入のもうけ(雑所得)が1万5千円程度なら、1年で18万円となり20万円以内なので、所得税の確定申告は不要ということになります。

給与収入の有無によって取り扱いが変わる!?

ここまでは「年末調整を済ませた給与がある場合」でしたが、年末調整済みの給与収入がない場合は判定金額が変わります。

給与収入が全くない場合、雑所得の金額が48万円以内であれば所得税の確定申告が不要です。これは、所得税の計算をするときに、「全員が引けます!」という「基礎控除」という金額があり、この基礎控除の金額が48万円なので、所得税の計算をする時にもうけが48万円以内なら、全てのもうけを基礎控除で引いてしまえば0円になり、税金がかかる部分の金額が無いということなので、所得税の申告はしなくてもよいということです。

他にも、所得税の確定申告が不要となるケースもありますが、これら「申告不要」のルールは所得税の確定申告についてですので、住民税については別途申告が必要なケースがあります。お住まいの自治体にご確認ください。

申告が必要になった時、まず何をする?

これらの判定を経て、「さぁ、申告が必要だ」となった場合、まず何をすべきでしょうか?

所得税の確定申告は、毎年1月分から12月分のもうけを、翌年3月15日までに申告することとなっています。給与所得の場合は年末ごろに職場から渡される「源泉徴収票」という用紙に、所得税の申告に必要な情報がすべて書かれています。職場ごとに、申告する年分の源泉徴収票を用意してください。勤務先の数だけ源泉徴収票が必要です。

給与以外の所得については、1年分の収入金額とそこから差し引く「収入を得るために必要だった」経費の金額を集計してください。経費についてはレシートや領収書など、支払った経費を証明する書類(証憑書類)を5年間保管してください。収入から経費を引くということは、それだけ税金を安くするということです。証拠もなしに勝手な金額を経費とできないよう、2022年から証憑書類の保管が規定されています。

証憑書類は経費を支払ったという証明になり、その分税金が安くなりますので、収入に対応するものは捨てずに保管して、1年分を集計しましょう。当然ですが、プライベートな証憑書類は収入に関係しないため、経費にはなりませんよ!

確定申告は税務署で申告書の用紙をもらって記入するか、ネットから国税庁の「e-Tax(イータックス)」というサイトを使って申告書の作成ができます。給与所得の入力欄に源泉徴収票の内容を、雑所得の入力欄に1年分集計した収入金額と必要経費の金額と、各種控除や住所などの情報を入力すると申告書の作成ができます。

事業所得と雑所得の違い

さて、雑所得として年間20万円を超えるようになり確定申告が必要な場合、「開業したほうが良いのでは?」と思われる方も多いと思います。その違いについて解説します。

雑所得を「事業所得」といえるようにするには、現行の法律では次の条件が必要です。

(1)事業として一定の規模でずっと行っている(生計が立てられるぐらい)
(2)「開業届」を税務署に提出している

基本的には、税務署に「開業届」という用紙を提出するだけで「私は事業主です」と名乗ることができるようになるのですが、ある程度の規模がなければ「雑所得でしょ?」と言われてしまうということです。

それでは、開業届を出して「事業主です」と言えるようになると、何が起こるのでしょうか?

・雑所得でなく事業所得で申告をすることになる
・収入金額がどんなに少額になっても、毎年確定申告をしなければならない
・事業としての収支を帳簿につけなければならない
(青色申告の承認を受けた方は複式簿記のきっちり帳簿、白色申告の方は単式簿記のざっくり帳簿)
・青色申告なら55〜65万円、白色申告なら10万円をもうけの金額から引いてもらえる
・経費を使いすぎて利益が出ず逆にマイナスになった場合、そのマイナスを他のもうけから引いてくれる
・青色申告の場合はマイナスを3年間繰り越してプラスになったときに差し引きしてくれる

このように違いを見ると、事業所得として申告ができた方が、税金の計算上おトクになるということがわかります。このおトクな制度を悪用して税金を安くしようとしていた会社員が多く出てきたので、これを取り締まろうというのが、8月にパブリック・コメントが提出され話題となっている「事業収入300万円以下は雑所得」というルール改定です。

特に給料がメインの収入の方は、今年の2022年(令和4年)分からもうけ金額が300万円を超えなければ「事業じゃないよね?」と言われるように、ルールが変更になる可能性がありますので、注意が必要です。

副業で開業届は出すべき? 出すとどうなる?

「事業収入300万円以下は雑所得」とするルールが無かった昨年までの確定申告では、事業所得のお得な制度が活用できるので、会社員の副業でも「早めに開業届を出しておこう」という方がほとんどでした。しかし、副業収入300万円以下となり雑所得でしか申告ができないなら、開業届を出したとしても「帳簿をつけなければならない」「事業主として毎年確定申告しなければならない」と手間が増えるのに、「雑所得として計算される」とうことになります。

つまり、帳簿をつけて準備したのに、手間だけかかっておトクな事業所得の制度は全く使えないということです。なんて……嘆かわしい!

まだ、最終的にどのような取り扱いになるか確定はしていませんが、「パブリック・コメント」の内容を見ると、上記のようになる可能性が高いというのが現状です。今後の動向に注目しておきましょう。

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