【#あちこちのすずさん】グミの実頬張り、口中真っ赤に 疎開先で出会った大親友

 戦時下の日常を生きる女性を描いたアニメ映画「この世界の片隅に」(2016年)の主人公、すずさんのような人たちを探し、つなげていく「#あちこちのすずさん」キャンペーン。読者から寄せられた戦争体験のエピソードを、ことしも紹介していきます。

(女性・91歳)

 戦時中、横浜で女学校に入ったばかりだった13歳の私は、両親と姉と共に親戚のつてを頼って、長野県に疎開。養蚕小屋の1階に間借りして、ガス、電気、水道なしの暮らしが始まりました。

 2階には収入源のお蚕さまがいて、シャリシャリ桑の葉を食べる音がしました。それまで空襲警報が出れば、すぐ避難できるように気を張り詰めていたので、布団で手足を伸ばして寝られるありがたさに感謝しました。

 横浜では、空襲警報のたびに授業が中断したので学業は遅れていました。村の学校で「疎開者は頭が悪い」と言われたのが悔しく、猛勉強しました。

 家を貸してくれたお宅に、1級上の祥子ちゃんという娘さんがいました。片道1時間以上の登下校を共にするうち、大親友になりました。

 畑の側のグミの実を頰張り口中真っ赤にして笑い合ったり、小川に足を浸して小さな秘密を打ち明け合ったり。大自然の中で、楽しい日々を過ごしました。

 終戦を迎え、横浜へ戻る日、祥子ちゃんは見送りに来てくれました。私も彼女も駅までは無言だったのに、乗る列車が着くと2人してわんわん泣き出してしまいました。

 あんなにも心を開いた友は、彼女ひとり。今もあの面長のお下げ髪と、かけがえのない日々を思い出します。私にとって疎開の思い出は懐かしく、その地は大切な古里なのです。

© 株式会社神奈川新聞社