運用キャリア30年超えのファンドマネジャーが明かす、投資家は経済指標よりも金利に注目すべき理由

連日のように、米国の利上げに関するニュースが取り上げられていますが、金利が変わることは投資家にとってどのような影響があるのでしょうか?

そこで、運用キャリアが30年を超えるファンドマネジャー・堀井正孝 氏の著書『改訂版 金利を見れば投資はうまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)より、一部を抜粋・編集して金利について解説します。


「インフレ防止→利上げ」という世界共通の課題

1 世界的な物価の上昇

インフレに悩むのは、米国だけではありません。

日本では、ここ数年、輸送費、電気代、食料品など値上げが相次いでいます。ガソリン代に関しては、2022年1月、ガソリン価格抑制補助金の支給が開始されたほど高騰しました。

さらに、2022年2月、ロシアのウクライナ侵攻により、燃料・エネルギー関連の資源価格が高騰しています。特に、原油をロシアからの輸入に頼る欧州には、コロナショックでの影響が残る中、原油高という新たな負担がのしかかっています。

■日米欧に共通する「インフレ→利上げ」の歩み

インフレとは
インフレーション「inflation」の略で、モノやサービスなどの値段(物価)が継続して上昇すること。

良いインフレは、物価が上昇、企業利益の上昇、給与の上昇、消費拡大でまた物価が上昇という好循環が生まれ、景気を拡大させるので、一般的には緩やかなインフレが望ましいと言われます。一方、悪いインフレは、物価だけが上がり、企業利益も給与も上がらず、消費は減退するという悪循環をもたらし、景気を停滞されることになります。

2 「利上げ」への道のりは三者三様

過度な物価上昇を止めるには、消費を抑える、景気を減速させるしかありません。買う人が少なければ、景気が良くなければ、価格が下がるからです。

金融政策としては、「利上げ」です。

つまり、インフレが進む日、米、欧は、利上げへ向けて歩み始めるしかありません。

しかし、一歩間違えると、景気後退に陥ります。米国、ユーロ圏、日本の経済より、国家事情もインフレ要因も異なる日米欧が、今後「景気を減速させるに留める利上げ」を行えるかが課題となりそうです。

上がるのか、下がるのか、知りたいと思いませんか

1 怖いのは下落、避けられないのも下落

客観的に見れば、投資家心理とは、とてもわかりやすく、また興味深いものです。投資において一番の恐怖は、価格の下落です。

しかし、下記のグラフからわかるように、景気後退局面では、株式、商品をはじめとするほぼ全ての市場が下落しています。景気が後退したら、価格の下落は避けられません。

■リスク性資産市場の価格推移

とはいえ、「景気とは循環する」もので、良い時もあれば悪い時もあると誰しもわかっています。しかし、いざ投資を始めると、買った直後に相場が下がった(高値つかみ)、売った(損切り)直後に相場が上がったという苦い経験があるはずです。損切りせずにじっと待てばいつか相場は戻るとわかっているのに、いつ戻るかはっきりしない不安と含み損が増え続ける心理的プレッシャーに勝てない結果です。

心がけるべきは、いかに損を少なくするか、です。

2 景気のセンチメントを知る

それなら、景気の後退を予測し、できる限り高値つかみを避け、買い場・売り場を探りたいと思いませんか。もし損をしても最小限で済みます。そのためには、まず、今が景気のサイクルのどこに位置するのかを把握することです。今がわかれば、次が予測できます。

景気の「気」は気持ちの「気」です。要は、センチメント(市場心理)が景気に表れます。

例えば、本屋の経済コーナーで新刊本のタイトルを見てみてください。「デフレ」「崩壊」等、経済にとってマイナスとなる言葉が目立つなら、景気は悪いはずです。「FX」「割安(大化け)株」等、投資のノウハウ本が並び、投資意欲の高まりを感じるなら、景気が回復し始めていると思われます。だんだんと、「日経平均4万円」等、景気を楽観視する言葉が溢れ始めたら景気はピークです。そして「撤退」等で景気減速を感じ、いずれ「デフレ」「崩壊」等のタイトルに戻ります。本のタイトルから景気を感じることができるのです。

金利は、より正確にセンチメントを表します。金利動向から今の景気を把握すれば、きっと投資での大きな失敗を回避できるはずです。

「経済指標」で景気を判断しようとしていませんか

1 改定される経済指標

経済指標は、各国政府や中央銀行が発表する経済に関する統計で、経済状況を構成する要因(物価、金利、景気、雇用、貿易など)を数値化したものです。これらは経済の状況や変化を把握するために重要な指標です。

しかし、経済指標から今の景気を判断するのは、意外に難しいのです。なぜなら、米国GDPや雇用統計など、(1)発表時期が遅い(既に過去のデータ)、(2)速報 → 改定 → 確定と数値が何度も修正される、という指標が多いからです。それらは、今までの景気・経済を確認・判断する上では非常に有効ですが、分析に時間を要する、分析結果で見解が分れるなど、残念ながら“今”を反映しにくいという特徴(難点)があるのです。

もちろん、今の景気を判断する上で有効な経済指標もあり、米国の「ISM製造業景況指数」はその1つです。これは、のちほど本書に何度も登場します。

つまり、経済指標は、判断したい景気・経済によって、指標を使い分け、分析する技術を要する専門性の高いデータなのです。

データが修正される経済指標の例

米国GDP(国内総生産)
「一定期間の間に国内で生み出された物・サービス等の付加価値の合計金額」と言われ、名目GDPと実質GDP(名目GDPから物価変動の影響を除いたもの)があります。GDPデフレーター(名目GDP ÷ 実質GDP)のプラス率が大きければインフレ、マイナス率が大きければデフレを意味します。発表は国により多少異なりますが、四半期ごとに速報値が発表れ、1ヵ月後に改定値が、更に1ヵ月後に確定値が発表され、速報から確定まで2ヵ月もかかります。

失業率や非農業者就業者数などの米国雇用統計
全米において、家計や40万件程度の企業や政府機関を対象に調査した雇用に関するデータで、金融政策の決定において重視される指標の1つです。これらは、翌月第1金曜日に速報として発表され、1ヵ月後に改定されるほか、毎年1月には前年の改定されたデータに対し更に年次改定(12ヵ月分が一斉に変更)が行われ、改定幅が大きいこともしばしばあります。金融市場は特に最初公表される速報値で一喜一憂させられます。

2 金利は景気の“今”を表す

金利は、その種類に関わらず、いずれも、(1)日次でデータの取得ができる(速報性)、(2)データが改定されない(確実性)、ことに加え、(3)個々の企業の影響を受けやすい株式などと違い個別要因が少ない、ことから“今”を反映しやすいという特徴があります。

つまり、金利は、経済指標に比べてシンプルでわかりやすく、過去はもちろんですが、“今”の景気を判断することに非常に適したデータなのです。

著者:堀井 正孝

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