北海道生まれの100万円パター 宇宙も目指す!?北広島・ワールド山内

今回紹介するのは、北広島の企業「ワールド山内」。一般消費者にはなかなかなじみのない企業だが、一部のゴルフファンは耳にしたことがあるかもしれない。その理由は、去年発売した「100万円のパター」。一般的な売れ筋のパターは約3万円ほどであることを考えると、破格の値段だ。さらに、今後は航空産業、さらには宇宙事業への参入を目指すという。その技術と戦略に迫る。

【条件が厳しい北海道のものづくり それでも評価を受ける理由とは】

北広島のワールド山内。創業67年、金属加工などを手掛ける会社だ。

2020年と21年度の売り上げはともに16億円を超え、コロナ禍でも落ち込むことはない。北海道内はもちろん、北海道外の企業からのリピート発注が会社を支えている。

これは炭素繊維メーカーで世界シェア1位の東レから受注している、カーボン樹脂を製造する際に乾燥させる機械の部品だ。均等に乾くようにするには空気が流れる隙間の精度が重要。用途に応じてパンチングの穴の大きさなどを変え風量を微妙に変える。

山内社長は、「わざわざ滋賀県のメーカーが輸送コストをかけて北海道の企業に頼むメリットがあるということ。すべて内製化しているので納期を短縮できる。輸送の時間をかけてもトータルで当社が早い。さらに10年以上の取引で不適合がほとんどない。絶対の信頼がある」と胸を張る。

北海道企業が受注を得るには、「輸送時間」というハンデがあるため、生産の効率化・スピードが重要だ。ワールド山内の強みの一つが、「全工程を自社でできること」。「切削」「溶接」「塗装」など、全てを自社で行う。

山内社長が開発したこのシステム。工場内の製造工程を「見える化」した。製造にかかった時間、いつ出来上がるのか、多品種小ロットの製品の状況がひと目で分かる。

山内社長は「スタートからゴールまでいろいろな製造カテゴリーの工程を一社でやっている会社は全国でも少ない。一社でやることでコスト・期間で優位性が出る。品質にも自信がある」と話す。

【プロゴルファーや世界トップジュニアも魅了!?100万円のパターとは】

去年、全国にその名をとどろかせたのがコロナ禍でスタートしたオリジナル高額パターの製造。地元・北広島出身の小祝さくらプロなどが使っている。

自社ブランド「ワールドクラフトデザイン」。完全受注生産で社長自らフィッティング。ひとりひとりにカスタマイズする。1本100万円からと一般的なパターが3万円程度なのに比べ高額だが、これまでに100本以上売れている。

特注のステンレスを通常の5倍の時間をかけて削る。1本のパターの製作に1週間かかるのだという。

やわらかな打感と打音が特徴で、純回転が多く転がりが良いとのこと。ゴルフ歴4年の番組ディレクターが体験。ディレクターは「手に伝わってくる感触が違うことは分かるが、どっちが良いかは私のレベルでは分からない」と首を傾げた。

ただ、トップレベルの選手にとってこの違いは重要なようだ。発売からまもない夏には地元・北広島出身の小祝さくらプロがこのパターで優勝。

さらに、このパターの愛用者で世界大会で優勝した少女ゴルファーの須藤弥勒さん。

須藤さんは「私の独特な打ち方に合わせて作ってもらった。前に使っていたパターと同じ型で同じ重さなのに倍転がる。手放せない」と話す。

須藤弥勒さんのパター

このパターのこだわりは、素材の成分まで指定した特注のステンレスの塊を「鋳造」や「型押し」ではなくひとつひとつマシンで「削り出し」していくことだ。

仕上げは0.2mm幅で削り、底のソール部分だけで17時間かかる。通常のパターの何と5倍の時間だ。山内社長は「早く削ろうとすると、熱で表面が硬くなってしまう。当社のパターは削る前の母材と、削ったあとの製品が同じ硬さで同じ柔らかさ。材質が維持されている」と話す。

ソールの形状は、どんな勾配にも合う「球体」の加工。「微妙な丸み」は削り出しでしか作れないという。

金属加工への絶対的な自信。今後もさまざまな新分野を開拓し、事業を構築したいという。超高級の焼き肉台も開発中で、約10万円で売り出す考えだ。山内社長は「どの業種も売り上げ構成の10%を超えない状況でいろんな業種をやりたい。そうするとある業種で景気が悪くなっても、他で伸びる業種がある」と話す。

【14億円の新工場で航空宇宙産業へ 自社ロケットの構想も!?】

6月に完成した新工場。総工費は14億円だ。航空機部品などの供給を目指すという。

ワールド山内が主導し設立した、「札幌エアークラフトサプライヤークラブ=SACSUC」。今年の春、札幌近郊の製造業が集結した。ワールド山内の他に池田熱処理工業、札幌エレクトロプレイティングなど。得意分野を結集し、北海道に航空機部品製造の拠点を築く。

航空産業はピラミッド型になっていて、航空機メーカーの下に「ティア1」としてIHI、川崎重工、三菱重工などの大手重工企業。ワールド山内はその下の「ティア2」に参入し、エンジン部品などの供給を目指す。コロナ禍で航空需要は激減したものの、アフターコロナでの成長産業と見込んでいる。

航空機部品の製造にはさまざまな認証が必要で、これが大きな壁だという。そのために大型の設備投資が必要となった。

来月、航空機の部品製造で実績がある横浜の企業に4人を研修に出し、ノウハウのすべてを学ぶ。当初は、OEMでの部品製造で実績を積む計画だ。この日ワールド山内を訪れたのは、JAXA宇宙航空研究開発機構の担当者。全国の航空産業クラスターを調査し、中核となる企業にヒアリングをしている。ポイントは、コアの技術、人材や地域とのかかわり、などだ。

視察に来た藤島さんは「北海道で一番熱い企業だ。ワールド山内が中核企業として引っ張っていくのではと期待している」と話した。

航空産業の次はロケットの開発だ。夢は宇宙へ。山内社長は「2030年までにはワールド山内としてロケットを飛ばす。できないと思ったらそれで終わりなので『やるぞ』と。それだけだ」と話す。

【MC杉村太蔵さんの一言】

MCの杉村太蔵さんは「できないと思ったらそれで終わり」という山内社長の言葉に共感したという。年商16億円の会社が14億円の投資をする、リスクを負ったチャレンジ。これまで培った技術力を元に、宇宙で活躍する未来に期待したい。
(2022年9月24日放送 テレビ北海道「けいナビ~応援!どさんこ経済~」より)

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