暗闇からのつぶて

 そうだよねえ…と、うなずく人も多いだろう。石川啄木に一首がある。〈気の変(かわ)る人に仕(つか)へてつくづくと わが世がいやになりにけるかな〉。100年以上も前に詠まれたが、いつの時代にもこの手の不平不満はある▲気が変わることは誰にでもあるにせよ、人をうんざりさせるほどの気分屋の心は、なかなか推し量れない。車のハンドルを握ると、何やら気が荒くなる人もいる。酒が入ると、何やら…。挙げれば切りがない▲ネットに書き込みを始めると、人が変わる場合も少なからずあるらしい。プロ野球の広島東洋カープに誰かが「ケロカス」という言葉を浴びせかけ、中傷している。広島原爆からの連想か、「ケロイド」と「カス」を組み合わせたとみられる▲試合に負ければ「ケロカス弱すぎ」などと使われ、被爆者からも怒りの声が上がっている。では、書き込んだ当人が日常的に、周りの誰かを差別的な言葉でののしっているかといえば、そうではあるまい▲推し量りづらい心を想像すれば、ネット上で「見知らぬ誰か」でいられるからこそ地金が出るのだろう。匿名という暗闇からつぶてを投げつけるような、心ない言葉の切っ先が痛い▲ケロイドを負った人がどんな人生を歩んだか。よく知って、それから書き込むかどうかを考えるといい。暗闇の住人よ。(徹)

© 株式会社長崎新聞社