FIRE目指し32歳で8500万円を貯めた会社員男性「いつ実行するか悩んでいる」

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、32歳、会社員の男性。未成年の頃からFIREに憧れ、32歳にして8,500万円の資産を築いた相談者。いつ実行するかを悩んでいると言いますが、FPのアドバイスは? FPの秋山芳生氏がお答えします。


FIRE(アーリーリタイア)したいしたいです。

未成年のころからFIREを想定して株式を中心に運用してきました。「30歳までには仕事を一度辞める」という目標をもって大学卒業後に就職し、実際に一度会社へ退職の申し出をしましたが、引き留めにあい、また私自身も将来への不安から仕事を継続して今に至ります。

FIREへの強い想いはまだあるので、あとはいつ実行するかを悶々と悩んでいます。ご相談に乗って頂けると幸いです。なお、支出「その他」は、旅行や趣味の費用です。

【相談者プロフィール】

・性別:男性、32歳、会社員、独身

・実家で両親・妹と同居。母(会社員・月収30万円)妹(会社員・月収40万円)父(リタイア済み)です。健康状態は問題なし。

・住居の形態:親の家で同居(東京都)

・毎月の世帯の手取り金額:50万円

・年間の世帯の手取りボーナス額: 80万円

・毎月の世帯の支出の目安:20万円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:3万円

・食費: 5万円

・水道光熱費:-円

・教育費:-円

・保険料:-円

・通信費:5,000円

・車両費:-円

・お小遣い:-円

・その他:11万5,000円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額: 30万円

・ボーナスからの年間貯蓄額:50万円

・現在の貯金総額(投資分は含まない): 1,000万円

・現在の投資総額: 7,500万円

・現在の負債総額:0円

秋山:ご相談いただきありがとうございます。ファイナンシャルプランナー兼FP YouTuberの秋山芳生です。今回の相談者さまは、アーリーリタイア(FIRE)を希望している32歳の独身男性です。32歳の若さで、7,500万円の運用資産に加え、1000万円の現金貯蓄があるので、総資産は8,500万円。アーリーリタイアは夢物語ではなく実現性が高いように思いますが、いまいち踏み切ることができないようです。FIRE実現に向けて色々な不安を洗い出し、実行するために考えなければいけないことを一緒に整理していきたいと思います。

理論上はFIRE達成可能だけれども…?

FIREの実現性を考える上で、「4%ルール」というものが知られています。資産を主要な株式インデックスと債券で50%ずつ運用しながら、総資産の4%を取り崩していけば30年後でも資産が0になる確率は極めて低く、平均値ではむしろ資産は8倍に増えるというものです。この「トリニティスタディ」と呼ばれる米国のトリニティ大学の研究結果をもとに考えてみると、相談者様の運用資産7,500万円の4%は300万円になりますので、年間300万円以内の支出で生活できれば実現可能性があることになります。

月の生活費は20万円で、ボーナス80万円から30万円を使っていることを考えると、年間の支出は270万円なので300万円におさまっています。

セオリー通りにいかない要素を整理する

ただし現在は、ご実家暮らしなので家賃や光熱費は発生していません。その分お金が貯まりやすく、貯蓄・投資がしやすい環境にあったと思います。ただ、残念ながらご両親もお亡くなりになる日は来てしまいます。いつかは自分自身で家の管理コストや光熱費が発生することは考えておきましょう。

さらに、以下のポイントを考えると短絡的に判断できないと思われます。

◆米国と日本の違い
トリニティスタディは米国での運用と税金、インフレ率を考慮しながら、S&P500に連動した株式インデックスの投資と米国債権による運用を前提にしているので、日本では為替の影響や税率などが異なってしまうこと。

◆ライフステージやライフイベントによる生活費の変化
ライフイベントによる支出の変化を読み込めていないこと。例えば、先ほどご指摘したご両親の他界や、相談者さまのご結婚や家族が増えた場合の生活費の増加があること。

◆退職後の社会保険料や税金など
退職すると収入が減りますが、住民税は昨年の収入に対して請求されます。昨年分が6月以降に請求されるので、あらかじめ準備しておく必要があります。また、会社勤めの場合の社会保険料は厚生年金として源泉徴収されていますが、退職後の国民年金保険料(令和4年土は月額1万6,590円)は自分で納付しなければなりません。

FIREしてからやりたいことを整理しましょう

ここで、視点を変えてFIREして何をしたいのかを考えてみましょう。FIREしたリタイア生活後に待っているのは、仕事の無い大量の時間です。この自由な時間をどのように過ごしたいのかが定まっていないと、逆に暇を持て余してしまうかもしれません。ありあまる時間の使い方や、FIREして達成したいことなどを整理しておくことは、「いざFIREする」というときの大きな原動力になると思います。

FPをしていると、FIREしたいという相談を多くいただきますが、相談者様がFIREの実現性が高い状態でも、この「やりたいこと」が見つかるまで2、3年悩まれる方も多いのが実態です。FIREを目的にするのではなく、FIREはご自身が幸せになるための手段だと考えた時に、FIREして何をなし得ていきたいのかを考えておくとよいでしょう。

好きなことを活かせる「サイドFIRE」を目指しては?

おすすめなのは、FIREの中でも「サイドFIRE」と呼ばれる好きな副業を生きがいにしながら、少しの収入と運用益でバランスをとりながらFIREする方法です。FIREのRはリタイアメントの意味なので、副業のような仕事をすることはFIREではないという人もいますが、あくまで会社勤めで時間拘束をされることをリタイアすると考えれば良いと思います。自分の力で、他の人の役に立ちながらお金ももらうことができれば、こんなに楽しいことはありません。実際、私のクライアントや相談者さまにも、経済的に自立しFIREを達成した人が多くいますが、何らかの仕事を通じて人の役に立つことを続けています。

そう考えると、FIRE前の今のうちから人に貢献できることは何か、自分のできることは何かを探し始めるのも良いかもしれません。副業など収入源が複数あることで、生活の安定度は高まりますし、ライフイベントの変化にも対応しやすくなるので、FIREしやすくなるでしょう。

また、FIREをしたからといって、もう2度と仕事に戻れないわけではありません。「働いてもいいし、働かなくても良い」という自由な選択ができる状態がFIREだと思いますので、「こうでなくてはならない」という縛りそのものが不要なのではないでしょうか。

ライフステージの変化は年齢に比例するわけではない

イギリスの組織論学者のリンダ・グラッドン教授による名著『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』によれば、人生100年時代の中では、ライフステージは以下のように激しく変化していくとされています。

自らの針路を幅広くとって模索する「エクスプローラー」
自由と独立を重視して小さなビジネスを営む「インディペンデント・プロデューサー」
さまざまな仕事や活動に同時並行で関わる「ポートフォリオ・ワーカー」

これらは、「学生」「社会人」「退職後の老後」という年齢によってステージが切り替わるのではなく、100年という長い期間の中で、何歳になってもステージが様々に変化していくことをあらわしたものです。

そうであれば、まずはFIREをして自分の針路を探してみるのも良いと思いますし、いつかは仕事に戻る可能性も考えて「自己投資」を続けることは重要だと思います。人の役に立つ自分でいることは、生きがいにもなりますし、収入を生む力の源にもなります。まだまだ人生は長く変化し続けていくと思います。

むしろ、当初想定していた通りに人生は運ばないことを前提に考えましょう。そして、柔軟に環境の変化や収支の増減に合わせて対応できる自由な考え方をもっていれば、いざFIREを達成しても、変化に合わせて人生を切り拓いていけるはずです。

まだ32歳と若く、可能性は無限大です。FIREで自由な時間を活かすことができれば、ご相談者さまにとってかけがえのないチャンスや有益な時間になると思います。どこか参考になれば幸いです。

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