労働生産性上げる為、人への投資を 【日本経済をターンアラウンドする!】その1

西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

・先進国の中で労働生産性が低い日本。

・労働生産性が向上すれば賃金に振り向ける原資が確保できるし、賃金上昇につながる。

・イノベーションを起こす以前に、ダイバーシティのある職場で労働生産性を上げることが大前提。

円安、物価高、経済停滞などなど経済的にも苦境が続く日本経済。そして、参議院議員選挙が終わり、「黄金の3年」を迎えた岸田政権。そうした中で、日本経済の課題に向けて危機感は共有されつつある。そうした中で「日本をターンアラウンドする」連載企画を始めることにする。

筆者は日本経済をターンアラウンドする「ターンアラウンド計画」を策定した(以下図)。

「オワコン化」した日本経済を救うにはこうした多くの取組みが必要になってくる。それぞれ考察していきたいが、第一回として焦点を当てたいのはやはり「生産性」である。

▲図 【出典】株式会社ターンアラウンド研究所作成

低い労働生産性をどうにかしないと・・・

以前にも書いたが先進国の中で労働生産性は低い。2021年度の日本生産性本部の分析報告によると、「日本の1人当たり労働生産性は、78,655ドル。OECD加盟38カ国中28位」である。もちろん韓国より低く、ギリシャやポーランドと同程度である。アメリカと比較しても、56%というほどである。

▲表 【出典】新しい資本主義実現本部/新しい資本主義実現会議、会議資料

労働生産性とは何か。以下の図で示したように、労働生産性=付加価値/労働投入量という式で表される。付加価値は売上高―売上原価、労働投入量は労働者数のようにイメージしてもらえるとわかりやすいだろう。この指標は、労働者が付加価値を生み出すため、どれくらい効率的に行動できているかを示すものになる。なぜ重要なのかと言うと、労働生産性が向上すれば賃金に振り向ける原資が確保できるし、賃金上昇につながるからだ。

▲図 【出典】筆者作成

業種別にみていくと、やはり産業によって大きな差が見られる。

▲表 【出典】経産省HP「規模別・業種別での労働生産性の比較」より筆者がデータ加工

業種で見ると、大企業だと学術研究 専門・技術サービス業、情報通信業、不動産, 物品賃貸業の順。中小企業だと卸売業、情報通信業、学術研究 専門・技術サービス業の順である。もちろん生産性を高める余地があるのは多くの産業になる。ただ、生産性の高い産業に集約する、労働者を移動させていくような産業構造改革を促すのも必要だろう。

といっても、今後、期待できそうな情報通信業でさえ、労働生産性も国際比較をすると低い。日本生産性本部の研究によれば「日本は主要先進7カ国の中で労働生産性上昇率が最も低く、他国に大きな差をつけられている」とのこと。これは深刻である。また、自慢の製造業では1995年~2000年ではOECD諸国でもトップクラスであったのが、2015年以降をみる順位を落とし、15~18位をさまよっている状況である。

働き方改革の徹底できている?仕事をしている現場の風景

日本の場合は、労働者の能力は高いとされているので、労働生産性が低い理由は、第一に、ビジネスパーソン・従業員・労働者にとって働きにくい職場環境、第二に、仕事のやり方、大きくこの2つに問題があるということだと考えられる。

以下に生産性が低い現場をまとめてみた。

▲図 【出典】筆者作成

・仕事のやり方が旧来通り、DXが進まない

・組織文化が権威主義・前例踏襲主義・完璧主義に浸っている

・仕事の中身が「ブルシット・ジョブ」(意味のない仕事、つまらない仕事)ばかり

・ルールや不文律が職場や仕事をがちがちに支配、過剰管理

とまとめられる。

こうした特徴がある現場で、付加価値を高められるのだろうか?

答えはNOである。組織文化、高度成長時代の成功体験にもとづくこれらの特徴に加え、企業の意思決定の遅さといった特徴があり、結果として、生産性が低いままになる。イノベーションを起こす以前に、ダイバーシティのある(多様性のある)職場で、多様な価値観を議論・対話して、無駄な時間をなくして、楽しく・意欲をもって仕事ができるようになる、労働生産性を上げることが大前提になる。

生産性革命のための「人的投資

経済界では、現在、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方が叫ばれている。前例・習慣や不文律やルールに従いすぎないで、デジタル化によってつまらない作業から解放され、仕事に真剣に向き合え、自由な発想をもち、オープンに議論・対話でき、楽しく仕事し・成長でき、個々人のモチベーションを上げていかないといけない。

失われた30年を経た今、世界市場で商品・サービスが勝てなくなった。資源もなにもないのだから、人に投資し、その能力を最大限に生かし、人と人の相互作用で労働生産性を上げていき、イノベーションを促すべきだろう。今こそ、「生産性革命は未来への投資である」という亡き安倍晋三元首相の遺志を継ぐべき時は今なのだろう。岸田政権に期待したい。

(続く)

トップ写真:東京のビジネスマン(イメージ) 出典:Photo by Frédéric Soltan/Corbis via Getty Images

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