Jリーグ今季最大のサプライズ。ファジアーノ岡山は「J1昇格」の切符をつかめるか。

いよいよラスト5試合となった今季のJ2で、最大のビッグサプライズとなっているクラブがある。昨季を11位で終えたファジアーノ岡山だ。

今シーズンより指揮を執る木山隆之監督は、フィジカルとハードワークを前面に押し出したソリッドなスタイルを構築し、37節を終えて3位と終盤戦においても昇格戦線に食い込むチームを作り上げた。

当コラムでは、クラブ史上初となるJ1昇格へ突き進む岡山をピックアップし、昇格争いに絡む要因やチームを支えるキーマン、そして残り少なくなったリーグ戦のゆくえを占っていきたい。

直近5試合の基本システム

まずは、直近リーグ戦5試合での基本システムおよびメンバーを見ていこう。

守護神は開幕後に湘南ベルマーレより加入し、シーズン途中からレギュラーとなった堀田大暉で、最終ラインは右から対人に強く、大声でのコーチングも売りの柳育崇、攻守に頼れるファイターのヨルディ・バイス、ロングスローの使い手でもある徳元悠平の3人。

中盤はこの夏ブラウブリッツ秋田より迎え入れた輪笠祐士がアンカーに入り、インサイドハーフは右が豊富な運動量で攻守に貢献する田中雄大、左がバランサーの河井陽介という組み合わせ。ウイングバックは右が正確な右足が光る河野諒祐で、佐野航大がU-19日本代表のため離脱中の左はFW登録のハン・イグォンと両サイドに対応する成瀬竣平が起用されている。

2トップは巧みなポストプレーで起点になるミッチェル・デュークとパンチ力のある左足が魅力のチアゴ・アウベスが主に起用され、前線からのプレッシングでも貢献する齊藤和樹、今夏にサンフレッチェ広島より期限付き移籍で獲得した永井龍、ウイングバックと兼任するハン・イグォンらがポジションを争う。

終盤戦でも昇格争いに絡む要因は?

開幕から上々の滑り出しに成功し、終盤戦になっても昇格争いに絡んでいる大きな要因は、今季より指揮を執る木山隆之監督の存在だ。8月度の月間優秀監督賞を受賞した指揮官は、攻守に明確なコンセプトを打ち出してチームをひとつに束ねている。

攻撃のコンセプトは、最終ラインからのロングボールとサイドを有効活用して揺さぶる形を織り交ぜたスタイルだ。ボール保持者がスペースを見つけ、フリーの味方にどんどんパスを供給しながら局面を前に進めていくのが特徴。柳とバイスというキック力に優れたセンターバックからのロングフィードと迫力あるサイドアタックの二段構えで崩していく。

守備のコンセプトとしては、コンパクトな守備ブロックの構築と連動したハードプレスが挙げられる。インサイドハーフの田中と河井が広範囲をカバーするハードワークで戦術の根幹を担い、2トップも献身的なプレスで後方の味方を助ける。得点源として活躍中のチアゴ・アウベスも例外ではなく、イレブン一人ひとりに自己犠牲の精神が植え付けられているのだ。

加えて、シーズンが進むにつれて戦術的な引き出しが増えてきている点も見逃せない。3バック採用以前の基本形だった4-2-1-3を状況に応じて現行の3-5-2と使い分けることが可能となっており、夏場の補強と積極的なターンオーバーにより選手層もグッと厚みを増した印象だ。総力戦となる終盤戦を戦い抜くにあたり、心強い点だと言えるだろう。

コンセプトを体現するキーマンたち

指揮官がコンセプトを体現するうえで欠かせないのが、自身の理想に適った選手たちである。本セクションでは、チームを支えるキーマンたちを紹介していきたい。

まずは、エースのチアゴ・アウベスだ。清水エスパルス、サガン鳥栖、ガンバ大阪を渡り歩いてきたストライカーは、開幕から3トップの左ウイングに定着。中央または2トップの一角にポジションを移してもシャープな左足の破壊力は変わらず、37節を終えてリーグ2位の16ゴールをマークするなど充実のパフォーマンスでチームをけん引する。

切れ味鋭いドリブルに加え、意外性のあるロングシュートは“飛び道具”となるだけに、終盤戦でのさらなる活躍に期待だ。

そして、DFながらチーム3位となるリーグ戦6得点をゲットしているバイスも不可欠な存在である。

前所属の京都サンガでも奮闘していたファイターの実力はリーグ屈指で、鋭い縦パスとロングフィード、タイミングをずらした頭脳的な直接フリーキックなど攻撃センスは新天地でも健在。本業の守備でもタイトなチャージで攻撃の芽を摘んでおり、8月度のリーグMVPに輝いた背番号23は頼もしい大黒柱だ。

中盤に目を移すと、ふたりのルーキーがインパクトを残している。

FC町田ゼルビア所属の佐野海舟を兄に持つ高卒ルーキーの佐野航大は、インサイドハーフ、ボランチ、トップ下、ウィング、ウィングバック、サイドバックを高レベルでこなすマルチロールとして指揮官の信頼を掴んだ。U-19日本代表にも選出されている有望株は、日本のこれからを担うプレーヤーになる可能性を秘めている。

早稲田大学から加入した田中雄大は正確なパスワークとプレースキックがストロングポイントであり、ピッチを駆け回る運動量も大きな強み。エリア内へ侵入する動きも巧みで、小柄ながらヘディングのセンスもある万能型MFは、1年目から確かな存在感を示している。

次節の結果次第では自動昇格も……

長丁場のリーグ戦も残り5試合となり、J1自動昇格圏内となる2位・横浜FCとの勝ち点差は5。厳しいとはいえ、数字的には十分逆転可能であり、ここから1試合も落とせない戦いが続く。

一つひとつの試合が大切になるなかで、特に重要視しなければならないのが、次節のベガルタ仙台戦(4位)だ。今月6日に元ジュビロ磐田の伊藤彰監督を招聘し、目標とするJ1復帰へ向けて大きなアクションを起こした仙台は、J2トップクラスの攻撃力を誇る。

37節を終えて34失点(リーグ3位)の堅守を武器とする岡山としては、先制を許す展開は避けたいところ。まずは守備から入り、得意とするセットプレー&ロングスローを軸にゴールへ迫りたい。

「J STATS」によれば、仙台は後半0~15分または30~45分に失点が多いというデータがあるだけに、基本形の3-5-2ではなく、より守備に重きを置いた3-4-2-1を採用し、後半にチアゴ・アウベスを投入して試合を決めにいくプランもあり得そうだ。古巣対決となる木山監督の采配にも注目が集まる。

なお、2位の横浜FCは、ラスト5試合でV・ファーレン長崎、大分トリニータ、ロアッソ熊本といった昇格争いを展開中のクラブと多く対戦する。次節の仙台戦次第では、岡山の自動昇格の可能性が現実味を帯びてくるだろう。

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ここからは気候的にも走りやすい季節となるだけに、ハードワークを基調とする岡山にとっては追い風となる。

着実に増えた戦術的な引き出しと持ち味の堅守を活かし、自動昇格となる2位以内に入ることができるか。あるいは、6位以内に入り、J1参入プレーオフを勝ち抜いて昇格の切符を手にすることができるか。残り少なくなったリーグ戦のゆくえを注視していきたい。

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