絶妙なバランス感覚!B'z の躍進は「太陽のKomachi Angel」から始まった  新しいディケイドの始まりの年に躍り出た魅力あふれるバンド

1990年、新時代の幕開け

かつて日本ではCDが売れて売れて仕方ない時代があった。「CDバブル」と称される空前の音楽好況は1998年をピークに反転し、以降は今日に至るまで多少の浮き沈みはありつつも衰退を続けている。

華やかなる「CDバブル」の起点については諸説あるが、ここでは「おどるポンポコリン」(B.B.クイーンズ)が史上初めてCD単体でのミリオンヒットを記録した1990年を推したい。

新しいディケイドの始まりでもある1990年は、新時代の幕開けを予感させる年でもあった。前年末に半世紀近く続いた東西冷戦が終結。プロ野球の世界では野茂英雄、佐々木主浩、与田剛、佐々岡真司といったルーキーたちが活躍し、歩調を合わせるように、音楽業界もまた次代を担う若手アーティストが次々とブレイクを果たした。

「浪漫飛行」の大ヒットで “イロモノバンド” の世評を覆した米米CLUB、「笑顔の行方」でたちまちトップアーティストの仲間入りを果たしたDREAMS COME TRUE、そして日本を代表するモンスターバンド・B'zが一躍ヒットチャートの常連となったのも、まさにこの年であった。

瞬く間に頂点に登り詰めた B'z「太陽のKomachi Angel」

TM NETWORKのサポートメンバーだった松本孝弘が、同じ音楽制作会社に所属していた稲葉浩志と共にB'zを結成したのが1988年のこと。そのわずか1年半後、5枚目のシングル「太陽のKomachi Angel」では早くもオリコン週間1位を獲得するのだから、瞬く間に頂点に登り詰めたといっても過言ではない。

それにしても不可思議なタイトルである。イケイケのロックバンドが「Komachi」とはこれ如何に。それも「Komachi Angel(小町エンジェル)」って……。何も知らずにタイトルだけ見たら、コミックバンドだと錯覚してもおかしくはない。

ところが音を聴いて、また度肝を抜かれる。稲葉浩志のキレキレのハイトーンボイスと松本孝弘のアグレッシブなエレキが絡み合うサウンドは、当時ほとんどの日本人にとって初めて触れる斬新さに満ちていた。

レコードからCDへと本格的に移行しつつあったこの時代。デジタルの鮮やかさとアナログ的な無骨さを兼ね備えたB'zの音楽が、斬新さを求める若者たちに支持されたのは必然であった。だからこそ、はっきり言って “カッコよさ” とは対極にあるタイトルのインパクトに驚かされたのだ。

ぶっ飛んでいるのはタイトルだけではない。

 あの娘は 太陽のKomachi Angel
 やや乱れて Yo! say, yeah, yeah!

―― すごい、並のロックバンドには逆立ちしても思い付かないフレーズだ。これを日本一ワイルドでイケてる男がシャウトしながら歌うのだから、もうワケが分からない。

前作「BE THERE」で週間3位を記録するなどブレイク間際まで来ていた大事な時期に、いわば勝負曲という位置付けでリリースした本曲。頭の硬い上層部であれば、もっとストレートにカッコいい歌詞への書き直しを要求したに違いない。

カッコよさとルーズさの絶妙なバランス感覚こそがB'zの魅力

ただ、もし稲葉がそれを受け入れて無難な内容でリリースしていたら……。少なくとも現在におけるB'zの栄光は無かっただろうし、特典なしでのシングル13作連続ミリオンセラー達成という空前絶後の大記録もきっと生まれていなかっただろう。

思うにB'zの魅力の何割かは、稲葉浩志が創り出す奔放な歌詞にあるのだ。考えてみれば稲葉のような完璧超人が気取ったラブソングばかり歌っていたら、少し嫌味に感じてしまうかもしれない。ところがB'zはただカッコいいだけではなく、トリッキーな遊び心を持つバンドであることを早い段階で示し、ファンもその奔放さを含めてバンドの魅力だと受け入れたのだ。

カッコよさとルーズさの絶妙なバランス感覚とでも言うべきか。あの時代、洋楽ロックの影響を受けた実力派バンドは他にもいたが、B'zが抜きん出た成功を収めた理由の一つはこの “ギャップ” にあったのではなかろうか。

現在も続いているシングルオリコン連続首位が「太陽のKomachi Angel」から始まったのも、その後の活躍を示唆しているようでならない。

日本で一番カッコいい57歳、稲葉浩志

この曲に限らず、特に初期B'zの曲にはぶっ飛んだ歌詞が多い。初のミリオンセラーとなった「LADY NAVIGATION」の “地球に弾ける頬” “いつでももぎたてのベジタブル”とか、「ねがい」の “世間をののしりゃご老人” あたりが有名だが、同様の例は枚挙にいとまがない。

かつての稲葉は歌詞を書く際にまずメロディに適当な英詞を付け、そこから日本語に変換していた… と聞いたことがある。この独特の手法が、狭い枠に囚われない変幻自在な言葉選びを可能にしたのだろう。

ライブで「太陽のKomachi Angel」を演奏した時にはサビで観客が “Angel!” と掛け声を叫ぶのが恒例となっているが、その時の稲葉、松本の楽しそうな表情、そしてファンの恍惚とした表情は、まさしくバンドとファンの信頼関係を象徴するシーンだといえよう。

そんな稲葉も9月23日に誕生日を迎えた。なんと御年57。言うまでもなく、日本で一番カッコいい57歳である。

B'zは8月にニューアルバム『Highway X』をリリースするなど、デビューから30年以上経ってもその勢いは衰え知らず。これからも最高のロックンロールを提供し続けてくれることだろう。

カタリベ: 広瀬いくと

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