カルビー、主力商品のポテトチップスに「環境や人権に配慮したパーム油」の認証マーク表示へ

カルビーは14日、主力商品であるポテトチップスのパッケージに、今月から、環境や人権に配慮したパーム油を使用していることを証明する「RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証マーク」の表示を始めると発表した。同社はグループ全体で、国内のパーム油使用量の約5%に相当する年間約4万トンのパーム油を製品のフライ工程などの調理油として使用している。製造過程では輸送上の問題などから、認証油と非認証油が混合する「マスバランス方式」を採用しているものの、今年4月時点で国内の全工場(14拠点)で使用する油を認証油に切り替えていた。今後は商品にマークを表示することでパーム油の抱える課題を消費者に訴求するとともに、農園や搾油工場に遡るトレーサビリティや人権デューディリジェンスの仕組みの構築をさらに進める。(廣末智子)

パーム油は、アブラヤシの果実から採れる油の総称で、食品はもとより化粧品や洗剤などの消費財の原料としても幅広く用いられる。単位面積当たりの収穫量が多く、生産効率が高いことからも世界最大の油脂原料とされ、約80%がインドネシアとマレーシアで産出される。しかし、近年、不法な森林伐採などによる環境破壊や、農園での強制労働、児童労働などの人権侵害が大きな問題となっている。

RSPOはRoundtable on Sustainable Palm Oilの頭文字を取ったもので、生産者や商社、メーカー、小売などパーム油産業に関わる多様なステークホルダーによって構成される非営利組織。WWF(世界自然保護基金)の呼びかけで欧州の企業やマレーシアパーム油協会が議論を始めたのがきっかけで、2004年に設立され、熱帯雨林の保護や労働者の権利などに配慮して生産されるパーム油を対象に国際的な認証制度を展開している。

認証制度はサプライチェーンにおける管理方式の違いなどによって分けられ、農場から流通段階に至るまで、認証油と非認証油が混ざらないよう徹底する方式が理想ではあるものの、日本では特に、輸送段階でタンクを分けないといけないといった管理の難しさなどから、認証油と非認証油の混合だが、認証農園と搾油工場から供給された認証パーム油の数量が保証されるモデルであるマスバランス方式を採用する企業が多い。

森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロにコミット 独自の調達方針策定

こうしたなか、カルビーは2020年1月にRSPOに加盟。21年3月には、マスバランス方式の認証パーム油が購入できる認証を取得し、7月から購入を開始。今年4月には国内全工場のパーム油を認証油に切り替えるとともに、年間4万トンのパーム油を使用する企業として「カルビーグループ パーム油調達方針」を策定。この中で「森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ」にコミットし、「2030年までに認証パーム油の100%使用」の目標を打ち出していた。

認証マークは、RSPOのヤシの木のマークに、認証油と非認証油との混合であることを示す「MIXED」の注記が入ったもの。同社によると、「商品に使用されるパーム油由来の成分のうち95%以上を認証油とする」などの基準を満たした商品に使用可能となるもので、今月から「うすしお味 (60グラム、80グラム)」「コンソメパンチ(60グラム)」「のりしお(60グラム、80グラム)」など4種類、6品目に、マーク入りの新パッケージを導入。順次、対象商品を拡大する。

将来的には非認証油の混ざらないパーム油調達も視野

後藤綾子執行役員、伊藤秀二・社長兼CEO、井上真里マーケティング本部ポテトチップスチームアシスタントブランドマネジャー

発表は同社が毎年、この時期に開催している「サステナビリティに関する記者懇談会」の中で行われた。席上、伊藤秀二社長兼CEOは、エネルギーや原材料が高騰し、ウクライナ危機による地政学的リスクや円安の大幅な進行、そして気候変動など自然資本への負荷や人権問題が企業活動に大きな影響を及ぼしている現在の世界を、1949年の同社の創業時に重ね合わせ、「創業者が戦後の混乱の中で食ビジネスを始めたのと同じぐらい、食ビジネスの大きな転換期、変動期にきている」と危機感を表明。その上で、「継続的に食ビジネス全体の生産性向上を進め、われわれ単体だけでなく、農業、水産業、流通業、そして最終消費者も含めて、さまざまな社会課題を解決しながら新たな価値を提供していく。そのための正しい循環を回していきたい」と述べた。

また、認証パーム油の使用について、同席した後藤綾子執行役員、サステナビリティ推進本部本部長は、現在、サプライヤーを巻き込んで信頼関係の構築や協業体制を推進しているところで、今後は、農園や搾油工場までのトレーサビリティの担保や、人権デューディリジェンスの仕組みの構築に力を入れる考えを説明。

さらに、「サプライチェーンの上流で起こっている問題が、消費者に身近な問題として伝わり切れていないと感じている」ことから、今回初めて、パッケージの表面に認証マークを配置した経緯にも触れ、従来のFSC認証マークやバイオマスマーク、紙製容器包装マークなども含めたさまざまな“環境ラベル”を通じて「お客さまに選択肢を提供し、環境や人権の問題に対する理解や納得を獲得していきたい」と語った。

なお記者との質疑応答の中で同社は、現在のマスバランス方式による認証パーム油を、農場から流通段階に至るまで、認証油と非認証油が混ざらないよう徹底された認証パーム油へと変更していくことについて、「現状では、タンカーやタンクを一つひとつ別のものにしないといけないといったハードルが高く、国内では製油メーカーでも難しいと聞いている」とした上で、「将来的には考えていきたい。同業他社との協業も含めてその方向に進んでいくのではないか」とする見通しを示した。

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