「7番房の奇跡」 韓国映画のリメイクが大ヒット、えん罪の父と娘の愛に涙 【インドネシア映画倶楽部】第44回

Miracle in Cell No.7

「まんまと涙を流してしまいました。展開はありがちで先が読めるのですが、うまく乗せられてしまう、という感じでしょうか。いい作品だと思います」(横山裕一さん)と、お薦め! 韓国映画のリメイクだが、インドネシアらしい情景が味わい深く盛り込まれている。

文と写真・横山裕一

2013年、日本でも公開された同名の韓国作品のインドネシアでのリメイク版。公開3週目に入るが依然多くの劇場で上映され、350万人以上の観客動員をさらに更新しているヒット中の作品でもある。

物語は知能障害を持つ父親ドドと娘イカ(カルティカ)の親子愛がテーマ。自転車で風船売りを生業とするドドとしっかり者の小学生の娘・イカは線路脇の粗末な家に住む貧しい暮らしだったが、お互いに病気で亡くした母親を大切に想う強い絆で結ばれていた。ある日、事故でプールに落ちた少女をドドが助けようとしたところ、発見者にうまく説明できないためドドが少女を殺害し暴行したと無実の罪をきせられ逮捕、死刑判決を受けてしまう。

雑居房に入れられ、娘に会いたがるドド。同じ房の受刑者がドドに命の危機を救われたことをきっかけに、他の同房の仲間と協力して、娘イカを房内に連れ込んでドドと再会させる。限られた状況ながら親子で過ごせ喜ぶ二人。その姿を見るうちに同房の仲間たちもドドのために無実の罪を晴らせないかと考え始める……。

韓国映画のリメイクとはいえ、監獄の中に娘を連れ込むという日本ではあり得ない設定が何故かインドネシア映画では頷けてしまうのは皮肉なことだ。日々のニュースで、逮捕された大物政治家の監房がホテル並みの豪華な内装だったことが明らかになったり、テロリストなどが獄中で看守との取引などで携帯電話を入手して、獄外の部下に指示を出していたなどを見聞きしているためかもしれない。

監督は「愛の章句」(2008年公開)や「スカルノ」(2013年公開)、「ハビビ&アイヌン」シリーズなど、宗教性の強い作品や偉人伝の大作からコメディや話題作まで幅広い作品を手掛けるハヌン・ブラマンティオ監督。韓国作品のリメイク作ながら、出所後の監房仲間をイスラム従事者にしたり、主人公親子の貧しい生活環境などをジャカルタらしい設定に溶け込ませている。特に前半の親子の自宅が印象深く、線路脇の家の寝床で会話をしていると窓越しに電車の明かりが駆け抜けていくシーンなど、貧しい生活ながら親子の愛情深さをうまく表現している。

主人公の父親・ドド役を演じるのは、フィノ・G・バスティアンで、今作品を鑑賞すると、同じくフィノ主演で子供との愛情を描いた作品『伊達な仕立て屋』(Tampan Taylor/2013年公開)を思い起こさせる。店と家を失ったが腕は確かな仕立て屋である貧しい父親と息子が幸せを掴むまでの物語で、舞台である中央ジャカルタのパサールスネン駅周辺と親子愛の物語がうまく溶け込み、味わい深いタウンムービーとして成立した印象深い作品だった。「7番房の軌跡」も前半の作りはハヌン監督がこの作品を意識したのかと思えるほどで、「伊達な仕立て屋」では親子を支える女性として出演した女優・マルシャ・ティモシーが「7番房の奇跡」にも主人公の亡き妻役で回想シーンに登場している。

大ヒット作品 「ワルコップ」シリーズやインドネシア武術ヒーロー映画「ウィロ・サブルン」(2018年作品)などにも出演した人気俳優、フィノ・G・バスティアンは今回、知的障害ながら娘への愛情深い父親を熱演している。脇を固める監房の仲間に「ワルコップ」の共演者らがチームワークよく友情シーンを作り上げ、登場当初は悪役を演じる実力派の俳優トゥク・リフヌ・ウィカナも味のある役回りをこなし、豪華な出演陣で安心して楽しく鑑賞できる。前述のようにインドネシアらしい前半から監獄でのシーンに物語が移るにつれて、徐々に韓国映画らしい展開内容へと移行していく点も見どころかもしれない。

再審による裁判、権力者の陰謀など現実的な部分と、ラストシーンに向けてのファンタジーな部分がうまく絡み合って、最後は感動の涙を誘う。日本などで本家韓国版を鑑賞したことがある方は、見比べてみるのもいいかもしれない。(英語字幕あり)

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