福地桃子&岡山天音インタビュー!『あの娘は知らない』で託された役柄を目一杯“生きた”二人の撮影秘話

岡山天音 福地桃子

監督・井樫彩✕福地桃子✕岡山天音

『あの娘は知らない』は、9月上旬の静かな海辺の町を舞台にした喪失と再生の物語。旅館・中島荘を営む中島奈々(福地桃子)は、幼くして家族を亡くし、誰にも打ち明けられない思いを抱え、繰り返す波のような日々を送っている。そんな彼女のもとに、喪った恋人の足跡を追った青年・藤井俊太郎(岡山天音)が現れる。

監督は、『溶ける』(2016年)が第70回カンヌ国際映画祭シネフォンダシオン部門に正式出品された井樫彩。福地桃子にあて書きする形で脚本を執筆した井樫は、公私さまざまに思うことを詰め込み、開発に3年かけたオリジナル脚本を映画化した。

主演の福地は、NHK連続テレビ小説『なつぞら』(2019年)でヒロイン・なつ(広瀬すず)が引き取られた柴田家の長女・夕見子を演じて話題に。大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(2022年)では三浦義村(山本耕史)の娘で北条泰時(坂口健太郎)の妻になるしっかり者の初、今夏ドラマ『消しゴムをくれた女子を好きになった』(日本テレビ系)で主人公(大橋和也)に思いを寄せられるヒロイン・さとみを演じて注目された。

一方の岡山は、この夏も多くの作品に出演。ドラマ『恋なんて、本気でやってどうするの?』(関西テレビ・フジテレビ)では恋に振り回される青年、映画では『キングダム2 遥かなる大地へ』で信と同郷のチンピラ兄弟の兄・尾平 、『さかなのこ』で高校時代の主人公に絡む不良の籾山、『百花』で主人公の勤めるレコード会社の部下、『沈黙のパレード』(すべて2022年)で事件の鍵を握る居酒屋の常連客の一人、そして舞台「VAMP SHOW ヴァンプショウ」では仲間の和のために秘密を持つ男を演じ、作品に流れを生み出した。

この2人がいることで作品が思わぬ角度で反射する。そんな不思議なきらめきを目撃した夏から秋。『あの娘は知らない』のスクリーンでその2人に出会った。人生には“恋愛”という要素もあるが、彼らが醸成する世界には、そんな型にはまったものでは説明できない“愛”があるように感じた。

「現場でたくさん支えていただいたお礼を、やっと伝えられました」

―福地さんは『消しゴムをくれた女子を好きになった』で中学生役を、岡山さんは『さかなのこ』で高校生を演じていますが、違和感のなさに驚きました。本当に役の幅が広いお二人です。

岡山:どうなんですかね(笑)。望まれるなら、いつまででも、何歳の役でもとは思います。(『さかなのこ』で共演した)柳楽優弥さんも30歳を過ぎてますもんね。

福地:私も演じることを期待していただけるなら、何歳の役でもありがたいなと思います。

―共演は初めてですか?

岡山・福地:はい。

―俳優としてのお互いの印象は?

岡山:とても繊細な人。本当に真摯で、その小さい体が押しつぶされないか心配になるくらい、役や作品、組、現場にある一つひとつと向き合っている。純度がそうさせるのかなと思いますけど、そうやって真摯に向き合う佇まいが、すごく印象に残っています。

福地:天音さんは、見えないところでものすごくいろいろなことを考えていて、常に種を蒔いている印象があります。きっと、それが思いもよらない時に花を咲かせることもたくさんあるんだろうなと思いました。現場では本当に細かいところまで支えていただいて、奈々というキャラクターができたのも、俊太郎さんを演じたのが天音さんだったからだと思っています。現場でたくさん支えていただいたお礼をやっと伝えられました。本当に心強かったです。

岡山:いやいや。こちらこそありがとうございます。ちょっとキュンとしました(笑)。

「文字通り“役をいただいた”という感覚」

―この作品は、起承転結で描かれるドラマではなく、お二人が、またはお二人を取り巻く人々が醸す空気が描き出すものだと思います。だからこそ作品のニュアンスを掴むまでが大変だっただろうなと思いました。役に入る前にお二人でやられたこと、もしくは井樫監督を含めてやられたことはありますか?

岡山:僕は、福地さんとの本読みから合流しました。でも福地さんはそれ以前から関わっていたんですよね?

―井樫監督とは、どんなお話をされたんですか?

福地:まず、この企画が始まった時に監督とお話する機会をいただき、その時に話したことを踏まえて脚本にしていただいたので、この3年は自分と向き合う時間がすごく多かった気がします。脚本が作られ、いろいろなことが形になっていくのを目の当たりにし、天音さんとお会いした。こんなに間近で映画作りを見させてもらうのは初めてでしたし、本当に勉強になりました。

―岡山さんは、ある程度、世界観が固まったところに加われたわけですね。井樫監督とのお仕事はいかがでしたか?

岡山:そうですね。同世代で、厳密には少し年下ですけれど、かっこいい人だなと思いました。キャラクターを生み出しているので、井樫監督の中には藤井俊太郎の背景や、どういう道を辿ってきたかというはっきりしたイメージがあるはずなんです。でも、その俊太郎という役を僕に預けてくださった。

助監督さんが、俊太郎の背景を監督に確認したことがあったんです。その時「そうですが、どちらでもいいです」みたいな返事をされていて、演じている僕の解釈に委ねてくれた。文字通り“役をいただいた”という感覚。本編に描かれていない部分は僕が埋めるものと受け取りました。

もちろん監督の想いが乗っかっている山場などはお話をうかがいました。でも委ねてくださる懐の深さと、ちゃんとテーマから逸れずに一つの作品として作り上げるところがすごいんですよ。思いの丈が深かったり、不安だったりすると、ふつうコントロールしたくなってしまうと思うのに。

「お風呂に入るシーンで、気持ちがつながったという感覚があった」

―面白いですね。この映画では、奈々と俊太郎の関係性についても、なぜ俊太郎が旅館に残り続けるのか、二人はどういう気持ちの変化を遂げるのかなど、明解には描こうとしません。井樫監督は、観客にも物語を委ねているのが刺激的です。恋人の面影を追って旅館を訪ねた俊太郎には、奈々に会って以降、何らかの気持ちの変化があったと思います。でも奈々が俊太郎に恋心を抱くことはまずない。奈々の、そして俊太郎の気持ちはどんなふうに変化していったのでしょうか?

岡山:俊太郎は、いなくなってしまった彼女の残像に囚われて視野が狭くなっている状態で、奈々さんの旅館に辿り着きました。極端な言い方をすると、最初は奈々さんも風景と同化して見えていたんじゃないかと思います。一見、飄々として見える俊太郎ですが、それくらい切羽詰まっていたと思います。

時間とともにものをきちんと見られるようになっていき、奈々さんを認識していく……、奈々さんが彼の中で1人の人間になっていくというか。イメージとしてそういう感じはありました。

福地:私は、冒頭の出会いのシーンが印象的で、再始動するきっかけだと思いました。人と関わることをやめてしまい、奈々という役割を演じながら日常を過ごしている彼女にとって、俊太郎さんとの出会いは、もう役割を演じる必要はない、自分として生きて良いと教えてくれるものだったんだろうなと。二人の出会いは偶然でしたが、もう少し一緒にいるという選択は、たぶん奈々の心が希望したことなんだと思います。

人が誰かと一緒にいることに目的は必要なく、興味を持ったものに関わっていったらそうなった。その感じがすごく自然だったし、俊太郎さんから“人のために使ってくれるエネルギー”を感じ取れた。だから奈々はそれまで人に言えなかった話を俊太郎さんにしたんだと思います。

―俊太郎から“人のために使ってくれるエネルギー”を感じたシーンとは? 具体的に教えていただいてもいいですか?

福地:二人が旅館のお風呂に入るシ―ンです。仕切りがあるので顔は見えていませんが、初めて真っ直ぐ目を見て話している感覚がありました。脚本でもあそこはすごく好きなシ―ンで、二人が一緒にいることに何の疑問を挟む余地もなく、気持ちがつながったという感覚があったんです。私は、そこに奈々の気持ちが動くのを感じました。

―クランクイン後はお二人にかなり委ねられていたんですね。ただ井樫監督は委ねながらも、ところどころに配置した海、タバコ、風呂、サンダーソニアの花など何かのメタファーを、お二人の道標にしていたのではないかと、拝見していて思いました。その配置には意味があるけれど、それぞれのやり方でたどり着いても、着かなくてもいいくらいの感じだったのかなと。監督からそんな話を聞いた、またはご自身で感じた部分はありましたか?

福地:井樫監督からお話があったわけではないんですが、演じている時に、この映画の中に登場するタバコって、その人にとって何か身につけておきたいアイテム、お守りみたいなものだったのかなと思いました。みんながそれぞれに信じている何かを感じるためのアイテムだったとすると、すごくしっくりきたというか。今回、登場人物の多くがタバコを持っているので。

―奈々と俊太郎のシーンでも登場しますね。そう考えると確かにしっくりきます。そういった部分も、どんな意味が含まれているのか考えながら観てもらえるといいですね。

取材:文:関口裕子
撮影:落合由夏

『あの娘は知らない』は2022年9月23日(金・祝)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開

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