「ケツ舐め記者」と誹謗する金平茂紀の正体|山口敬之【WEB連載第17回】 9月17日、金平茂紀氏はFacebookにこう投稿した。《この国にも「ケツ舐め記者」という連中が少なからず棲息していて、権力者、独裁者、ご主人様の局所を舐めて、その対価として「ご褒美」をもらって、それを得意げに広報し、「独自」「スクープ」とかのワッペンを自分で貼りつけて(中略)男性にも女性にも、もちろんいます、「ケツ舐め記者」は》。金平氏は、一体何様のつもりなのか。

気に入らない記者を揶揄する誹謗ターム

TBSの報道番組「報道特集」のキャスターをまもなく「クビ」になる金平茂紀が9月17日、実在する女性記者を性的に侮蔑する投稿をした。

私は32年ほど報道の世界に身を置いているが「ケツ舐め記者」という単語は耳にしたことがない。金平の造語か金平の界隈で通用する、気に入らない記者を揶揄する誹謗タームなのだろう。

最初の投稿で金平は、元NHKの政治部記者、岩田明子氏が書いた『文藝春秋』の記事のリンクを最後に張り付けていた(のちに削除)。女性の「ケツ舐め記者」が岩田氏を指すことは、明白である。

岩田氏といえば、NHK政治部の女性記者で、暗殺された安倍晋三元総理の番記者を長く務め、NHKの中では「最も安倍元総理に近い記者」と呼ばれていた。

TBS政治部にいた私も、森・小泉内閣で安倍氏が官房副長官を務めていた頃から安倍番を拝命していたから、岩田氏のことはよく知っている。同じ政治記者として、またテレビジャーナリストとしてある種のライバルだったし、第三者からは「犬猿の仲」とも言われていた。

そういう経緯だから、私と彼女は官邸や外務省などを舞台に長い間、外交・内政・拉致問題など様々な同じ案件を取材し、切磋琢磨してきた。国会や自民党本部、外務省記者クラブなどで気が遠くなるほど長い時間を一緒に過ごし、国内出張はもちろん安倍氏の訪米の同行取材で一緒になったこともある。

彼女の取材手法はよく知っているが、決して金平の言うような、女であることを武器にして政治家を籠絡するタイプの記者ではない。

たとえ比喩的な表現だとしても、もし保守的な政治家や論客が金平のように実存する女性記者を「ケツ舐め記者」と決め付け、露骨に侮蔑する性的なことをSNSで書いたら袋叩きに遭っていただろう。

日頃女性の権利を殊更に主張し、自民党の政治家の片言隻句を取り上げて激しく追及してきた金平は、一体何様のつもりなのか。

森元総理の女性に関するちょっとした発言を狂ったように騒ぎたててオリンピック委員会会長辞任にまで追い込んだ金平の仲間・望月衣塑子ら左翼記者は、独身の女性記者に対する金平の「ケツ舐め」発言は無罪放免なのか?

怒りの感情をコントロールできない金平

下劣な比喩表現を敢えて言い換えるならば、「食い込む」という表現が近いように思う。そういう意味では、確かに岩田氏は安倍元総理やその周辺に「食い込んで」いた。

記者が政治家に食い込むと何がいけないというのか。
金平の文章はこう続く。
《その対価として「ご褒美」をもらって、それを得意げに広報し、「独自」「スクープ」とかのワッペンを自分で貼りつけて》

要するに、食い込んだ政治家から得た情報を「独自」「スクープ」などと言って報道することが気に入らないというのだ。

そして金平の駄文はこう続く。

《男性にも女性にも、もちろんいます『ケツ舐め記者』は》

「男性にも」の1人は明らかに私だろう。私はTBSの後輩記者から、金平が私のことをつい最近も「ケツ舐め記者」と罵倒していたという証言を得ている。

金平は、TBS社内では怒りの感情をコントロールできないことで有名だ。気に入らないことがあると、自分の上司でも部下でも、時間と場所を選ばず大声で罵倒し、激昂する金平を私も何度も見た。

だから今回も私への怒りが制御できずに、愚劣な表現で私を誹謗中傷しようと思ったのだろう。卑劣で哀れな人物だ。そして、金平の幼稚な怒りの末の卑猥な侮蔑が女性である岩田氏にまで及んだとしたら、それは大変申し訳ないことだ。

かくいう私は、これまで何度も金平から愚にもつかない品性下劣な誹謗中傷を浴びせられているから慣れっこになっている。

しかし、今回は金平の文章を読んで、別の意味で非常に驚いた。

それは、金平茂紀こそ、部下が政治家に食い込んでとった情報に「独自」「スクープ」というワッペンをつけて報道させていた張本人だったからだ。

私を8回にわたって表彰した金平

金平は2005年5月から3年ほどTBS報道局長を務めた。この間、金平は私を8回にわたって表彰している。そうした社長賞を除く7枚の表彰状は全て、「報道局長・金平茂紀」と記名、捺印されている。

例えば「官房長官に安倍晋三氏起用のスクープ」と題した2005年11月の表彰では、金平はこんなことを書いている。

「あなたは、自民党幹部に食い込んで取材を敢行し、新内閣の要である官房長官に安倍氏を起用することをつかみ、速報しました。マスコミ他社を圧倒するスクープで、TBSの取材力を大いに知らしめました」

営業局長や制作局長のように収益や視聴率といった客観的な指標が明確なセクションのトップと違って、報道局長の社内評価は部下である記者たちの「スクープの質と量」によって大きく左右される。

だから金平は自分が報道局長をやっていた時は、所属する全ての記者に対して「情報ソースに食い込んで」「独自情報をスクープする」ことを大いに称揚していたのだ。

その証拠に、金平名で私に出された表彰状では、自分の出世にかかわる「スクープ」という単語が頻出する。

︎■2006年1月31日
【極秘日朝協議のスクープ】
「あなたは、外務省の斎木審議官が極秘に出国し、中国・瀋陽で北朝鮮のソン・イルホと会談していたことを報じました。日朝交渉を軌道に乗せるための舞台づくりという重要な会談のスクープとなりました」

■2006年5月23日
【「横田めぐみさんの夫はキム・ヨンナム氏」のスクープ】
「横田めぐみさんの夫が韓国人拉致被害者ではないかという観測が広がり国際的な取材合戦が繰り広げられる中、日本政府が極秘裏に行ったDNA鑑定の結果をいち早く入手し、めぐみさんの夫をキム・ヨンナム氏と判断した政府の見解を、他社を圧倒する速さで速報しました。さらに、直後のニュースでもその詳細を報じ、TBSテレビ報道の声価を大いに高めました。よってここに報奨します」

■2007年6月19日
【「日米首脳会談の内幕報道」のスクープ】
「あなたは(中略)アメリカが拉致問題を切り離して(北朝鮮への)制裁を解除する方針であることをスクープしました。更に、ブッシュ大統領が『安倍首相の困ることはしない』と日本に配慮して見せる発言をしていたことなど、首脳間の具体的なやり取りも報じました。外交の深淵に迫るこれらの報道は、他メディアも追随し大きな反響を呼びました」

私はTBS報道局在籍中幾度となく表彰され、その時々の報道局長による表彰状の文面をたくさん読む機会があった。

しかし金平が報道局長を務めていた3年間の表彰状は一種独特だったのをよく覚えている。それは金平個人の出世欲を色濃く映した、極めて内向きの文面だったからだ。

例えば記者である私は、政府や行政が隠しがちな真実を国民に伝えるために仕事をしているのであって、「TBS の取材力を大いに知らしめました」「TBS報道の声価を大いに高めました」などと褒められても、「そんなことのために睡眠時間を削って取材しているわけじゃない」と強い違和感があった。

そして金平の「外交の深淵に迫る」などという歯の浮くような表現も、「自分が質の高い報道を生み出す、いかに素晴らしい報道局長であるか」を会社の上司にアピールする意図で書かれているような気がしてならなかった。

究極のダブルスタンダード

私は自分の取材成果について、「独自」「スクープ」などと自称したことは一度もない。そんな自画自賛のタイトルをつけるのは、報道局長である金平やその部下である政治部長や政治デスクだ。

要するに金平は報道局長時代には、自分の同僚や後輩の記者が他社に先駆けてオリジナルな情報を入手すると、「独自」「スクープ」などのワッペンを付けて派手に報道した上で、「食い込んで」情報を取ってきた記者を大いに称揚していたのである。

いくつもの表彰状が示す金平の「実績」を踏まえてもう一度駄文を読み返すと、金平が口汚く批判しているのは、他ならぬ報道局長時代の自分自身であることがわかる。

《権力者、独裁者、ご主人様の局所を舐めて、その対価として「ご褒美」をもらって、それを得意げに広報し、「独自」「スクープ」かのワッペンを自分で貼りつける》

わずか数年前、自分でやっていた「ケツ舐めさせ」は完全に頰被りをして、権力に抗う正義のジャーナリストを気取る金平茂紀。

次の記事では、記者時代の金平茂紀こそ、究極の「ケツ舐め記者」であったことを証拠と証言を持って証明する。

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山口敬之

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