スズキ、MotoGPラストシーズンの母国グランプリに新空力デバイスを投入/MotoGP第16戦日本GP

 3年ぶりの開催となったMotoGP日本GPの初日、スズキの新パーツが登場した。テールカウルの空力デバイスである。テールカウルの空力デバイスといえば、ドゥカティが第12戦イギリスGPに投入したそれが記憶に新しい。ドゥカティのものは、4枚の平たいウイングが一部が重なるようにテールカウルからやや斜め上部に生えているような形状である。

 一方、今回日本GPでお目見えしたスズキの空力デバイスは、テールカウルから先端がかぎ爪のように曲がった2枚のウイングが生えているような形状だ。この空力デバイスを使用したのはファクトリーライダーのアレックス・リンス(チーム・スズキ・エクスター)である。初日の走行を終え、取材の中でリンスはその新しい空力デバイスについての印象をこう述べている。

アレックス・リンス(チーム・スズキ・エクスター)/2022MotoGP第16戦日本GP

「ブレーキング時にリヤの安定性が増したように感じた。コーナー進入時にちょっとハードにブレーキングできたように思うんだ。タイヤの接地感が増したみたいだ。少なくとも揺れは減った」

 なお、今大会にワイルドカードとして参戦しているスズキのテストライダー、津田拓也(チーム・スズキ・エクスター)は初日セッションではこの新しいデバイスを使用しなかった。ちなみに津田は今回急きょ、普段テストで走らせているマシンではなく、右足首の怪我により欠場したジョアン・ミル(チーム・スズキ・エクスター)のマシンで参戦することになったという。

津田拓也(チーム・スズキ・エクスター)/2022MotoGP第16戦日本GP

 これまでのテストではその空力デバイスがどんな印象だったのか、と津田に質問すると「大きな差はないんですけど、リヤに少しトラクションがかかりやすくなるという点が、ポジティブな点です。それ以外は大きく車体のセッティングを変えることなく走れます。いいパーツだと思っています」と答えている。テールカウルの空力デバイスによりダウンフォースが発生することで、ブレーキング時の安定性が増し、トラクションのかかりがよくなったということだろう。

 この空力デバイス投入についてはちょっとした裏話があった。リンスが語ったところによれば、この空力デバイスは本来、テストライダーである津田が使う予定だったという。しかし、それを知ったリンスは“取り引き”を申し出た。

アレックス・リンス(チーム・スズキ・エクスター)/2022MotoGP第16戦日本GP

「すごく面白かったんだけど、昨日(木曜日)のほんとに最後の方で、彼らはツダがそれを使うことを望んでいると知ったんだよ。そこで、僕は日本人スタッフたちのところに行って、『ちょっと待って、僕に使わせてよ』って言ったんだ。彼らはそうしたくなかったから『わかった、取引しよう』と言った。『序盤に僕のタイムがよかったら、試してみようよ』って。彼らは『わかった、オーケー』と答えたよ(笑)」

 かくしてリンスは、フリー走行1回目で新空力デバイスを試すことができた、というわけだ。リンスが持ち掛けた“取り引き”が空力デバイス使用に至ったのかはさておき、リンスが確かにこのセッション序盤から順調にタイムを詰め、度々上位のポジションにつけていたことは確かである。

 ただ、「最後にソフトタイヤを入れたとき、2、3周したら黄旗が出たんだ。だからタイムを詰められなかったんだよ」ということで、最終的にリンスは13番手に甘んじる結果となった。

アレックス・リンス(チーム・スズキ・エクスター)/2022MotoGP第16戦日本GP

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