大学発ベンチャーの「起源」(65) bitBiome

微生物のゲノム解析をスピードアップし、先端医療に貢献するbitBiome(同社ホームページより)

bitBiome(ビットバイオーム、東京都新宿区)は、早稲田大学発のバイオ分析ベンチャー。創業者で取締役 CSO (最高科学責任者)の細川正人同大理工学術院先進理工学研究科准教授が開発した微生物シングルセル解析技術「bit-MAP」を利用して微生物ゲノムデータベースを構築するため、2018年11月に設立した。

たった1個の微生物でゲノム解析が可能に

細川CSOは2019年に「文部科学大臣表彰若手科学者賞」、2019年にJST(科学技術振興機構)の「さきがけイノベーション賞」を受賞した気鋭の研究者だ。

これまで微生物をゲノム解析するには、ターゲットの微生物を環境から単離して培養する必要があった。一方、「bit-MAP」は微小なカプセルに微生物を1細胞ごと閉じ込めて、細胞膜を破壊、DNAを抽出・増幅し、次世代シーケンサー(NGS)で全ゲノムを個別解析する。たった1個の微生物で解析できるため、培養自体が不要になるという。

「bit-MAP」によるゲノム解析のプロセス(同社ホームページより)

これまでに発見された微生物の種類は、地球上に存在する全微生物の0.001%以下とみられており、ゲノム解析がスピードアップすることで未知の微生物の解析が進みそうだ。未知の微⽣物の全ゲノムを1細胞レベルで解読・機能解析してゲノムデータを蓄積することで、医療や製薬、合成生物学といった分野での技術革新が期待されている。


最先端のがん治療で微生物ゲノムが注目

最も注目されているのが、最先端の医療分野だ。最新の研究で、免疫力を向上してがん細胞を消滅させる最先端の「がん免疫療法」の成功率に腸内細菌が深く関わっていることが分かった。がん免疫治療薬は薬が効いて3年間生存できれば、5年、10年と再発せずにいられる可能性が高い。しかし、がん免疫治療薬の効果がある患者は2割前後に留まっており、この割合を上げるために腸内微生物のゲノム分析が注目されている。

最も致死率の高い膵がんでも、口腔内や腸内の微生物遺伝子を腫瘍マーカーとして利用することで早期発見につながる可能性があると、東京医科大学と国立国際医療研究センター、欧州分子生物学研究所の共同研究チームが2022年4月に発表している。

bitBiomeは2019年11月に国立がん研究センターと共同研究契約を締結。がん患者の便をbit-MAPで解析することで、がんと腸内細菌叢の因果関係を調べている。

現在、微生物関連製品の市場規模は医療や医薬品だけでなく、食品、農業、化粧品、サプリメントなどを含めて10兆円を超えているという。ゲノム解析された微生物が増えることで、新たなビジネスチャンスを開拓できる可能性が高い。

2022年9月にはJST、 新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) 主催の「大学発ベンチャー表彰 2022 」で「経済産業⼤⾂賞」を受賞した。同社が進めているシングルセルゲノム解析による世界最大・最高解像度の微生物ゲノムデータベースの構築が、国の重点産業とされるバイオものづくり分野に貢献すると評価されたのだ。国も同社の先見性と可能性に期待をかけている。

文:M&A Online編集部

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