かもめ発進 歴史刻む “誕生日”に沸く長崎 <西九州新幹線開業ドキュメント>

西九州新幹線かもめの出発前、鉄道ファンや関係者でいっぱいのJR長崎駅のホーム=23日午前6時5分、長崎市尾上町

 西九州新幹線かもめは23日、走り出し、長崎県にとって新たな歴史の1ページが刻まれた。在来線特急かもめに別れを告げた同日未明からの「開業初日」を追った。

 午前0時 長崎駅構内のカウントダウンボードの数字が「0」に。食事帰りに通りがかった福岡市の会社員男性(47)は、その瞬間をスマートフォンのカメラに収め、ご満悦。
 0時32分 特急かもめ最後の回送列車が同駅を出発。見送った長崎市東山町の公務員、瀬川信幸さん(52)は「友達と離れ離れになる感じ」と寂しそう。
 0時45分 JR九州社員らが時刻表などの張り替え作業を開始。「始発までに終わらせる。ここからが勝負」
 3時40分 同駅西口に新幹線の一番列車の自由席を狙う鉄道ファンが250人超。先頭を確保した横浜市の樫野央彦さん(55)は「21日午後3時から並んでます」。
 5時55分 新大村駅で地元の会社員、猶原康宏さん(43)と長男七星君(8)が新幹線と記念撮影。「長崎までどれだけ短い時間で着くだろう」と期待した。
 6時17分 長崎発の一番列車が出発。長崎大卒の河原清勝さん(69)は妻幸代さん(68)と「歴史的瞬間」を見ようと、兵庫県から前夜に駆けつけた。人だかりができたが「前の人が撮影するスマホの画面で見えました」。
 7時31分 武雄温泉発の一番列車が長崎駅に到着。東京都の中尾一樹さん(56)は、長崎発の一番列車を新大村で降り、武雄温泉発の一番列車で長崎に戻ってきた。「パーフェクト」と満足げな表情。
 7時50分 長崎駅の総合観光案内所はオープン前にミーティング。スタッフが円陣を組み、「出発進行!」と気持ちを一つに。
 8時37分 同駅東口では新駅ビル建設が続き、クレーンの稼働音や鉄骨を打つ音が響く。若い男性旅行客は、そびえ立つ骨組みを見上げ「すごっ」。
 8時55分 同駅東口で長崎自動車の観光ルートバスの愛称命名式。868点の中から選ばれたのは長崎市の三木智美さんの「ハートストーン号」。
 10時 愛知県の男性(64)が長崎市内の開業記念さるくコースに参加。ガイドの田中和行さん(70)に「和華蘭文化をご存じですか」と尋ねられ、「わからん文化?…分からん」。
 11時15分 大村市松原2丁目のトンネル付近。撮影に来た同市玖島2丁目の主婦、西永ひとみさんはこの日で還暦。「最高の誕生日」と喜んだ。
 11時45分 長崎駅発着のかもめを見下ろす“一等地”にあるマンションの一室。久保崇明さん(78)と妻より子さん(74)は友人3人を招き、発着時刻が近づくたびベランダに出て見守った。合間には「博多までフルがいい」「長崎市の人口減に少しは歯止めがかかるのか」など談議に花を咲かせた。
 正午 諫早市の小長井駅。この日に運行開始した観光列車「ふたつ星4047」を約150人が小旗を振って歓迎した。市立小長井中の生徒らが手作りのフルーツバス停キーホルダーを乗客にプレゼント。
 午後0時20分 佐賀市の佐賀駅。壁に置かれたチラシを見た女性公務員(60)は「私たちに恩恵はない」と淡々と語った。ただ「盛り上がっている武雄や嬉野の人たちのことを考えると、あんまり言っちゃいけないのかな」と複雑な心境をのぞかせた。
 0時24分 大村市役所駐車場。ヘリコプターで上空から新幹線を眺めるツアーに参加した親子が戻ってきた。平戸市の廣井悦子さん(42)は「一生忘れられない」と興奮。小学2年の新平君(8)も「空から見る新幹線もかっこよかった」と目を輝かせた。
 1時34分 新大村を通過した車内。寝ていた女性は隣の男性に「もう新大村過ぎたよ」と声をかけられ、「えっ、もう?」
 1時35分 この日から佐世保線に導入された「振り子型車両」の博多発特急みどりが佐世保駅に到着。写真に収めようと、子どもと訪れた女性(42)は「新幹線が来ていれば県北はもっと盛り上がっていただろうな…」と残念そう。
 1時40分 雨が降る中、予定より10分遅れでブルーインパルスの機体が長崎市上空に姿を現すと、長崎水辺の森公園には歓声が沸き起こった。演目が減り、「がっかり」という声も漏れた。
 2時46分 長崎駅構内は大混雑。JR社員が走り回って対応に追われていた。

乗車券を求める人などでごった返す駅構内=23日午後2時48分、JR長崎駅

 4時48分 長崎市の大浦天主堂やグラバー園に続く坂道で果実やジュースを販売する女性スタッフは「新幹線(の効果)で、もっと人通りが増えるかな」。
 5時27分 同市の稲佐山観光ホテルに宿泊客が続々とチェックイン。スタッフ総出で迎え入れた。23、24両日はほぼ満室となり、柴田賢裕宿泊支配人は「良い滑り出し」。
 5時55分 長崎駅の混雑が落ち着き始め、萱嶋創駅長は疲れた声で「たくさんの方に利用してもらった。うれしい悲鳴です」。
 6時10分 同市大黒町のカフェ「NGS COFFEE」は満席状態。店長の大谷和広さん(31)は「予想以上にお客さんが来て、ピークがないくらい途切れなかった」と振り返った。
 8時5分 閉店時刻を過ぎた長崎駅の土産売り場で片付けが始まる中、飲食コーナーは活気づいていた。諫早市の中年夫婦は「ちょっとは福岡並みになった」と笑顔。「酔ったから少し褒め過ぎたかな。でも期待してます」。新幹線のある明日に希望をつないだ。

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