弧を描きつつ

 空には白い筋がしばらく残っていた。西九州新幹線の開業を記念して、長崎市の上空をブルーインパルスが飛行したのを見上げ、歓声を上げた人も多いだろう。地上では風のように新幹線が駆け抜け、上空には美しい筋や弧が描かれた▲人の半生や一生は、時に「直線」と「弧」に例えられる。目的地まで寄り道をせずに一直線に進む人もいれば、ぐるりと弧を描くように回り道をする人もいる▲長崎-武雄温泉の66キロを最速23分で結ぶ-。滑らかな走りとは対照的に、新幹線開業へと至る道は、苦難の人の半生を思わせる「弧の軌跡」そのものだろう▲30年ほど前、佐世保市を経由しないルート案が発表され、市議会も財界も「はしご外し」と猛反発した。ここ十数年を顧みても、民主党政権の時に諫早-長崎のわずかな未着工区間が「白紙」にされたこともある▲それから3年ほどで起工に至り、胸をなで下ろしたものの、幅が違う線路をひと続きに走れる車両の開発断念で、がっくり肩を落とした。ぐるりと曲線をたどった先に、新幹線としては日本一短い66キロの軌道がある▲これからの道筋も一直線でないのは分かっている。弧を描きつつ、どう生かすのか知恵の絞りどころだろう。“顔”に赤いラインを引いた新幹線かもめには、私たちの未来も同乗している。(徹)

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