私は「げぼく」…猫6頭との生活で知った尽くす喜び 嘔吐物の処理、一日数回のトイレ掃除もなんのその【杉本彩のEva通信】

6頭の猫と暮らす杉本彩さん

猫という生きものは本当に不思議な魅力を持っている。高齢になればなるほど、その存在感と魅力が増す。酸いも甘いも知っているような雰囲気を醸し出し、人生の先輩のように感じることもある。ものおじしない貫禄やすべてを悟ったような表情を見せるので、「先生」とさえ呼びたくなるくらいだ。我が道をいく、媚びない猫の生き様から学ぶことも多い。

そんな猫と人間との関係性は、とても興味深い。以前私が読んだ絵本で、とても心に残った大好きな作品がある。「わたしのげぼく」というタイトルだ。タイトルの「わたし」は猫で、「げぼく」は飼い主の4歳の男の子。物語は猫の視点で語られている。飼い主の男の子は猫の世話をすると言いはり、一生懸命に猫に尽くすので、「わたし」にとって男の子は「げぼく」のような存在だ。かしこくて素速い猫の目には、幼い男の子はどんくさくてよく泣くうるさい子どもでしかないが、よく遊んでくれるし、やさしく撫でてもくれる。男の子が宝物のようにしているオモチャを猫に壊され大泣きしたり、猫と男の子のなんでもない日常が描かれている。何か特別ドラマティックで感動的なことが起こるわけでもないので、読者を泣かせようという、あざとい意図は感じない。

物語は、終わりに向かって時間軸がグンと先へ進み、当然だが猫は先に老い、男の子は大人へと成長する。その時間の流れがとても自然で温かい。猫の語りは、どこまでも淡々としていて上から目線だが、時が経つにつれ「げぼく」への愛情が静かに伝わってくる。その関係性は、最後まで穏やかでやさしくて、読んでいるうちに心が愛で満たされて、気がつけば涙が溢れていた。

猫と暮らし、猫を愛している人なら、犬と人との関係性とはまた違う、この絶妙な距離感と関係性に共感される方が多いのではないか。

私もその一人。完全に猫様たちの「げぼく」だ。毎日ひたすら猫のためにゴハンを用意し、一日に何度もトイレ掃除をする。うちには6頭の猫様がいらっしゃるので、清潔を保つため、一日何度もトイレ掃除が必要だ。一日中トイレがきれいかを気にしているような感覚だろうか。トイレは砂派とシート派がいらっしゃるので、どちらでもお好みに合わせて設置してある。

ごはんもそれぞれ好みが違うし、同じものが続くと プイとそっぽを向く猫様も。飽きずに食欲がわくよう、いろんな種類をそろえておく。もちろん体に良くて猫様の舌を満足させるものでなければならない。缶詰にドライフード、ときには新鮮なお刺身、ときには旬の天然魚を焼いてさしあげる。低温調理した鶏胸肉やササミもお好みだ。高齢で食欲にムラのある猫様、グルメで好みが難しい猫様には、さらに配慮が必要である。

そして、猫様にお仕えする、私たち「げぼく」の大切なお仕事がもう一つ。それは嘔吐物の処理だ。とにかく猫様はよく嘔吐される。病気でなくても、それが猫様の体質であるゆえ、どんな所で嘔吐されても腹を立てたりしてはいけない。靴の中や、窓のサッシや、家具の裏側など、とにかく「なぜわざわざ掃除しづらいその場所に?」と、猫様に問いたくなることも度々だ。目に触れにくい場所での嘔吐は、下手したらカラカラの化石のようになってから発見してしまうことも。そもそも猫様は、なぜこんなに嘔吐されるのか。それは、ザラつくブラシのような舌で、ご自身が体を隅々まで舐めてきれいにされるので、毛玉を吐き出されるのは当たり前。胸焼けした時は草を食べて嘔吐し、自ら体調を整えておられる。ついつい食べすぎてしまったり、お腹が空いてせっかくガツガツ食べたのに、それも残念なことに消化不良で嘔吐される。また、空腹時には胃酸や胆汁の嘔吐もある。病気が原因でないかぎり、吐いた後もケロッとしていて元気でおられるが、吐くときの様子や嘔吐物に、いつもと違う異変があれば動物病院へお連れしたほうがよい。

また、猫様の体調の変化をいち早く見逃さないためにも、スキンシップにもなるブラッシングをして差し上げる。ブラッシングの大好きな猫様においては、背中を向けてお待ちになる。そしてもう充分だと思われたら、さっさとどこかへ行ってしまわれる。膝の上にお乗りになるのも、腕枕でお眠りになるのも、抱っこを要求して胸に飛び込んでこられるのも、すべては猫様の気分次第。おんぶを求め不意打ちで背中に飛びつかれたら、爪が引っかかって洋服に小さな穴があくこと間違いなし。薄着の時は皮膚まで届いてしまう。「痛い!」と悲鳴を上げながらも、猫様を振り払ってはいけない。腰を曲げてぶら下がらなくていい角度にしたら、安全な場所に移っていただく。

こうして遠慮のない主張の強い猫様という存在に「忍耐力」を鍛えられ、「尽くす喜び」を教えられたように思う。そんな猫様だが、痛くてもしんどくても、猫様自体が忍耐強いため、私たち人間はどんな時であろうと、「今大丈夫なのか」「何か不調はないか」と、猫様の状態を注意深く観察し、できるかぎり早めに体調の変化に気づいてあげたい。

さて、大変な動物愛護家であり、猫の保護活動も積極的にされている漫才コンビ「ミキ」の亜生さんと、先日お話しする機会があった。亜生さんがこうおっしゃってるのがとても印象的だった。「猫たちと暮らしてから自分がやさしくなった」と。昔は人に冷たいと言われることもあったそうだが、猫と暮らしているうちに、人の気持ちにも配慮し寄りそえるようになったのだとか。当協会のYouTube「Evaチャンネル」のスペシャル対談で、そんなお話しをしてくださった亜生さんに、私は深く感銘を受けた。きっと亜生さんの心の中に、もともとあった「おもいやり」と「やさしさ」の種が、猫と暮らすことでどんどん大きく成長し、「愛」という花を咲かせたに違いない。心の中に愛の花がいっぱい咲いているステキな人だなぁと感じた。まるで「げぼく」のように、猫に尽くす亜生さん。そのマインドに触れ、私も尽くす喜びを感じながら、猫たちの「げぼく」であり続けようと改めて心に誓った。(Eva代表理事 杉本彩)

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 杉本彩さんと動物環境・福祉協会Evaのスタッフによるコラム。犬や猫などペットを巡る環境に加え、展示動物や産業動物などの問題に迫ります。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。  

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