140円での米ドル売り後にさらなる円高−−早過ぎた利確の失敗を回避できた3つの理由

為替相場は相変わらず、激しい値動きが続いています。米ドル/円相場は、9月に入ると一気に140円の大台を超えると、そのまま145円に近付くまで一段高となりました。

こうした中で、こんな話を聞きました。

「140円を超えたところで米ドル買いのポジションを決裁したんです。利益は出たのですが、その後さらに米ドル高になったから、米ドルを売るのが早過ぎたと反省しています」

要するに、もっと大きな利益を上げられたはずなのに、「儲けそこなった」ということで、損をしたわけではないので、「うらやましい不満」と言っても良いかもしれません。それにしても、このように大幅な米ドル高・円安が続くと、「さすがにもう終わりも近いだろう」と考えるのも人情でしょう。ただ、そんな「感覚トレード」は、実は回避できた可能性があることについて今回は説明したいと思います。


相場の加速or反転見極めの「基本」

まずは基本的なところから。140円を米ドルが超えてきたのは、9月に入ってからすぐのタイミングでした(図表1参照)。それまでの米ドル高値は7月に記録した139.4円だったので、要するに米ドル高値更新の直後だったのです。

それまでの米ドル高値を更新すると、普通なら米ドル高はすぐには止まらず、むしろ新たな米ドル高値圏に入ったことで加速する傾向があります。逆に米ドル高値更新に失敗した場合は、これまでの米ドル高値が「一番天井」、そしてそれを更新できなかった今回の米ドル高値が「二番天井」であることを確認した形となり、典型的な米ドル高一巡による相場反転パターンとなります。

以上のような「相場の基本」からすると、今回の場合は米ドル高値を更新し、140円の大台を超えたら、さらに米ドル高が広がる可能性が高いわけですから、米ドル買いポジションを急いで決済するという判断にはならないでしょう。

米ドル買いポジションの決済、いわゆる利確(利益確定)を急ぐ必要が出るのは、米ドル高値更新に失敗し、「二番天井」の可能性が出てきた場合でしょう。この場合、米ドル下落リスクが浮上するわけですから、利益が出ているうちに米ドル買いポジションの決済を急ぐというのはおかしくないでしょう。

これまで述べた「相場の基本」について少し整理しましょう。

相場は高値、あるいは安値を更新すると、更新した方向に加速するのが普通です。逆に高値更新に失敗した場合は「二番天井」、安値更新に失敗した場合は「二番底」と呼びますが、これは相場が反転する場合の典型パターンとして知られています。

次につなげるため成功も失敗も検証が必要

次に、「基本」から少し踏み込んだ観点から見ていきましょう。そもそもこの9月前半は、一方向へ相場が大きく動く傾向があるということです。それを知っていたら、米ドル高は加速する可能性があったわけですから、やはり米ドル買いポジションの決済を急ぐことにはならなかったと思います。

米国では9月の第一月曜日がレイバーデーの祝日になっています。これが2022年の場合は9月5日でした。プロのトレーダーの中には、このレイバーデーまでが実質的な夏期休暇と位置付けている人が多いとされ、このためレイバーデー明けからトレードが本格化することから、相場は一方向へ大きく動く傾向があることが知られてきました。

このような相場の季節的な傾向を「アノマリー」と呼びますが、私は9月に入って140円を超えてから一気に145円突破寸前まで米ドル高急加速となったのは、まさに「レイバーデー・アノマリー」通りの展開だなと感じていました。

最後は、より専門的な知識で確認してみましょう。図表2は、2022年3月からの米ドル/円のチャートに米国の金利を重ねたものですが、かなりきれいに重なって推移してきたことがわかるでしょう。これを見ると、140円を超えた米ドル高・円安となったのは米金利が大きく上昇したからだということになります。そして、そんな米金利の見通しについて、8月下旬から大きな変化が起こりました。

8月下旬、世界の金融市場関係者は、米国の金融政策の最高責任者であるFRB(米連邦準備制度理事会)議長のパウエル氏の発言について固唾を飲んで見守っていました。その発言は、当初は30分程度の予定だったらしいのですが、結果的には8分といった拍子抜けするほどのショート・スピーチで終わりました。ただ短いスピーチではあったものの、多くの市場関係者は、これを受けて予想以上にFRBは大きく金利を上げそうだと受け止めたのです。

図表2で見たように、米ドル高・円安は米金利上昇に連れた結果でした。その米金利がさらに大きく上昇する見通しとなったら、米ドル高・円安も加速する可能性がある一方で、下落リスクは低下したと言えるでしょう。


今回はなぜ140円を超えてからの「早過ぎた米ドル売り」が、「儲けそこなう」結果を招いたかについて説明してきました。「儲けそこなった」とは言っても、利益は出たようですから、決して悪い話ではなく、紹介したようなことが分かっていたら、もっと大きな利益を出せるチャンスだったということです。

逆に、140円から米ドル売りで入り、あっという間にも145円近くまで米ドルが急騰すると、こういうケースを「踏み上げられる」と呼びますが、大きな損失を抱えたケースもあったかもしれません。

所詮、後講釈だろうと思う方は、次の似たようなケースで活用できるように参考にしていただければ幸いです。成功も失敗も出来る限り検証し、次のチャンスで失敗を繰り返さず、成功はより大きくできるようにして、FXトレードと長く付き合えることを心より期待しています。

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