諫早→長崎でバスに乗ったら大渋滞に巻き込まれ……西九州新幹線開業日の熱狂ぶりがスゴかった!【コラム】

2022年9月23日(金・祝)の西九州新幹線開業により、長崎~諫早間は8〜9分で移動できるようになりました。所要時間はこれまで走っていた在来線の特急「かもめ」の半分ほどで、一度乗ってみると新幹線の時短効果が体感できます。

もちろんこの区間にはバスも走っており、高速シャトルバスなら所要時間は40分前後。運賃は片道680円で、在来線のシーサイドライナー480円と比較すると200円ほど高くなります。用途や目的地次第ですが、どちらも廉価な交通手段として選択肢に入るでしょう。

筆者はこの日、朝の7時まで長崎駅で西九州新幹線開業記念式典を取材し、午後長崎駅で行われる予定の「ふたつ星4047」出発式まで諫早市を見て回っていました。諫早駅に限らず、西九州新幹線各駅では開業記念で様々な催しが行われており、開業日の沿線の様子についても見聞を深めておきたかったというのがその理由です。

諫早駅近く、靴屋さんの店頭で見つけた「かもめ」。お店のご主人の手作りだそうです。

長崎行きは大混雑、バスで向かうことにしたものの……

10時過ぎごろには諫早市を見終わり、さてそろそろ長崎に戻ろうかと在来線のホームへ向かいます。なぜ新幹線にしなかったのか。この選択ミスはのちに悔やむことになりますが、時間には十分な余裕がありましたし、「かもめ」には試乗会で乗っており、開業当日を楽しみにしていた旅客に割り込むのも気が引けたのです。

ところが在来線のホームも普通列車も立ち客で混雑しており、都会のラッシュ時並みの車内状況に気が引けて、「西九州新幹線について考えるためには競合の交通手段を知ることも大事ではないか?」と考えて11時過ぎのシャトルバスに切り替えることに。12時前に長崎に到着すれば「ふたつ星4047」出発式まで2時間ほど余裕があるという状況でした。「かもめ」式典の記事を出して、あとは優雅にコーヒーでも飲みながら待とうかしら、と甘い考えを抱いていました。

鉄道がそんな状況ですから、当然バスも混雑しています。何とか座ることはできたものの、これ以上客を乗せるわけにはいかないレベルのすし詰め状態で運行。そして長崎自動車道で渋滞に引っかかります。

ほぼ徹夜で式典取材に参加して頭も回っていない状態であったこともあり、この時点ではまだ渋滞の理由に気付いておらず、「西九州新幹線開業で『かもめ』を見に行く人が多いのだろう」と漠然と考えていましたが、車列は遅々として進みません。

しばらく経つと、「間に合わないのでは?」と焦りが出てきました。全長約2900メートルのオランダ坂トンネルでは1時間以上閉じ込められることになり、渋滞の状況を知ろうにも電波が悪くて何も分からず。車内からも「間に合うかな……」と不安の声が聞こえてきました。

大渋滞の原因はアイツだった!

オランダ坂トンネルを抜けたのは13時20~30分頃、いつの間にか天気も変わり、ぽつぽつと雨が窓ガラスを叩いていました。予定より2時間ほど遅れての長崎到着で、果たして午後の取材に間に合うやら……とぼんやり窓の外を眺めていると、突如その静寂を打ち破るような声が響きました。

「ブルーインパルスだッ!」

ハッと見上げると、確かに形も視認できないほどの小さな飛行機が曇り空というカンヴァスに白煙を描いていたのです。渋滞の原因はこれか!長時間バスに閉じ込められた乗客の雰囲気も一変し、我も我もと窓を見上げて喜びの声を上げていました。

そう、9月23日の西九州新幹線開業にあわせ、記念イベントの一環としてブルーインパルスが飛んだのです。前日の22日には予行演習も行われていたので頭の隅にはあったのですが、予想を遥かに上回る人気ぶりに目を瞠りました……歩道橋はブルーインパルスを見ようとする人であふれかえり、路面電車(長崎電気軌道)もなかなか前には進めていません。誰もが空を見上げているのです。

飛行時間はわずか20分ほどでしたが、車内の空気もブルーインパルス一色に変わり、これまでの静けさが嘘のような盛り上がり。まるでイベント中の観光バスのようでした。途中で降りる乗客は長時間戦い抜いた運転士に「お疲れさまでした」と声をかけており、大渋滞とブルーインパルスで謎の連帯感が育まれていたようです。

長崎駅に到着したのは14時過ぎで、諫早~長崎間を2時間半以上かける長い長い道のりでした。幸いにして式典の開始にはぎりぎり間に合ったのですが、長崎の混雑はその後も収まらず脱出が困難な状況に。筆者は夜まで駅前のコワーキングスペースにこもり、外の混雑ぶりを眺めながら原稿を書き、19時過ぎに指定席券を取って西九州新幹線「かもめ」で長崎を後にしました。諫早には9分で着きました。

余談ですが、今回バスでお隣になった諫早市の方に「いつもこんなに渋滞するんですかね」とお話を伺ったところ、「こんなことは滅多にないですよ!」「みんな大きなイベントに飢えていたんでしょうねぇ」と語られており、この日の熱狂ぶり・混雑ぶりは長崎でも歴史的なものだったのではないかと思われます。

余談ですが、渋滞中に確認した隣の車線のナンバープレートは、長崎ナンバーのほかに福岡ナンバーのものも多く、九州南部や中国地方の車もちらほら混じるといった状況でした。今後、こうした大規模なイベントで西九州新幹線が大量輸送の役目を果たせるかどうか、自家用車利用者が新幹線に移ることで道路の混雑状況は改善されるか、といった点が注目されます。

記事:一橋正浩

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