「お好み焼きを広島から伝えて」ヨルダン大使が店主を招くワケ 被爆からの復興の象徴…鶏とパスタで試作進む

被爆からの復興と人々の暮らしの中で生まれた広島のソウルフードが、「お好み焼き」です。そのお好み焼きを、はるか9000キロ離れた国で広げようと取り組む人たちがいます。ただし、食材は現地で…。プロジェクトを取材しました。

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お昼どき、多くの人でにぎわう、広島市にあるお好み焼き店「いっちゃん」です。定番「肉玉そば」(お好み焼き)は、ミシュランガイドのお墨付きです。

店主の市居 馨さん(68)は今、ちょっと変わったお好み焼き作りに悪戦苦闘しています。

いっちゃん 店主 市居 馨さん
「今、ちょっと考えているのが、チキンなんですけれども。これ、胸肉なんですよね。これを野菜の中にそのまま入れちゃうと、ちょっと鳥くさいにおいが抜けないんですよ」

豚肉は、鶏肉に…。そばは、パスタに…。

営業時間の合間を縫って頭を巡らせながらヘラを動かす日々が続いています。

そのきっかけとなったのは、ことしの平和記念式典に参列したヨルダンの駐日大使リーナ・アンナーブさんです。

3年前に着任してから欠かさず広島を訪れているそうです。

式典の後、アンナーブ大使は、各国の参列者を対象にした「お好み焼き体験会」に特別な思いで参加していました。

ヨルダン リーナ・アンナーブ駐日大使
「お好み焼き、ナンバー1。お好み焼きの背景にとてもひかれました。1945年に原爆投下された際、苦しみを抱えていた多くの人を救ったというお話すべてが、とても心に響きます」

イラク・シリア・イスラエルといった紛争地域に囲まれているヨルダン。中東の和平にも積極的に取り組む国だけに、平和教育には国を挙げて取り組んでいます。

大使は、廃墟からの街から生まれたお好み焼きの歴史を知り、その味とともにヨルダンへ伝えてほしいと市居さんに依頼したのです。

ヨルダン リーナ・アンナーブ駐日大使
「わたしの国では常に平和を呼びかけているので、多くのヨルダン人は興味深く学ぶと思います」

「日本のみなさんと一緒になって、お好み焼きをヨルダンに伝えることは、平和のメッセージを発信するもう1つの方法になると思っています」

ことし6月、市居さんはヨルダン大使館に招かれました。

いっちゃん 市居 馨さん
― (スマホの写真を見て)ヨルダン料理はけっこうシンプル?
「あのね、それが、全部、味が濃いんですよ」

― 濃いんですか、これ。
「すごく。ランチのご招待をいただいて、正式に食べに行ったら、すごく塩分濃度が高いものが出てきたので、これはどういうふうに進めていけばいいのかな。最悪、その上からお塩を少し振るとか…」

お好み焼きを、ヨルダンの人たちに長く愛される料理に…。ただ、さまざまな条件があります。

イスラム教徒が人口の97%を占めるため、豚も牛も食べることができません。そこで、鶏肉を使うことを決めています。

そばの代わりは、現地でもよく食べられているパスタを使いたいところですが…。

市居 馨さん
「これ、4分だったよな。だから8分。4分だから、逆に倍やっている」

― ふつうのそばよりも?
「そうです。ふつうのパスタにすると固いじゃないですか。食感もすごい。それをお好み焼き用にしようと思うと、倍ぐらい、湯がいてみる。うどんみたいにして食べるというイメージのほうが強いかな」

― どれくらい試作品を?
「もう何枚作ったんだろ…」

「やっぱり、日本国内でも北から南では食材とか甘味とか全部、違うわけですから」

「ましてや、中東の国でできるものといったらどうなのかなと。似たようなものがあるのかなとか。そこらへんがすごく不安ですよね」

― 行ったことのない土地ですものね。
「それと、お水の問題。そこらへんは一番料理をするのに気をつかうところですよね」

完成したのがこちら。生地・キャベツ・もやし・鶏肉だけのとってもシンプルなお好み焼き。青のりや鰹節・マヨネーズなどのトッピングもありません。

イスラム法に沿って生産されたソースがかかると、見た目には、お好み焼きと変わらないようですが、試食してみました。

中根 夕希キャスター
「いただきます。パスタ、いけますね。おいしいです。確かにわからないです」

市居 馨さん
「意外とキャベツと合うんです」

中根 夕希キャスター
「合いますね。あと、鶏肉もさっぱりしていて、いいです。これは、喜んでいただける味なのではないでしょうかね」

市居 馨さん
「ですよね。向こうの人が材料を仕入れて作っても簡単に作れる気がするんですよね」

市居さんは来月、ヨルダン現地を訪れます。本番まであと1か月…。市居さんにも力が入ります。

いっちゃん 店主 市居 馨さん(68)
お好み焼きの力っていうのは、わたしたちの想像する以上に何か秘めたものがあるという気がするんですよね」

「特に今回でもヨルダンの王国から呼ばれるんですよ。お好み焼きですよ。『お好み焼きを教えてくれ』っていう要請があるっていうのは信じられないじゃないですか」

「たかが、本当に広島市民が毎日のように食べるお好み焼き。高級なものも何にも使っていない。これを教えてくれっておっしゃっているわけですから。わたしらにとって夢のような世界です。夢でも見てるんじゃないかって思うくらい」

(取材/RCCキャスター 中根 夕希)

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