上がらない時給、暴言、セクハラ… 長崎県内でも“ブラックバイト” 学生標的、相談窓口利用を

いくつものブラックバイトを経験した女子大学生=長崎市内

 上がらない時給。職場内に飛び交う暴言。男性社員からのセクハラ-。長崎市内の大学3年、山城百花(20)=仮名=は入学以来、ブラックバイトをいくつも経験してきた。立場の弱い学生が、アルバイト先で虐げられている事例が県内でも後を絶たない。
 「1カ月の研修期間の時給800円、その後900円。顔に自信のある方」
 そんな募集要項を見て、応募したのが同市内の飲食店のバイト。2020年10月から21年8月まで在籍したが、時給はずっと800円のまま。店長のお気に入りの女性でシフトが埋まることが多く、嫌気が差して退職した。給料は日払い。給与明細は残っていない。
 次の職場は同市内の宴会場。社員の男性はアルバイトたちに「早くしろ、このボケカス」「お前ら殺すぞ」と暴言を浴びせる。ごみを投げつけたり、物越しに蹴ってくるなどの暴力も日常茶飯事だった。
 パワハラの「標的」にされるのは強く言い返せない学生ばかり。山城は、他の男性社員から二の腕をもまれるセクハラも受けたという。「学生が自分の気持ちを職場に伝えるべきだ。目上だからと尻込みせず、駄目だと思うことはきちんと表明しないと」と疲れた表情で話した。
 「ブラックバイト」は、学業との両立が困難なほどの長時間労働や急なシフト変更を強いられたり、脅され辞められない、ハラスメントが横行している、募集内容と違う賃金形態-などの特徴がある。社会問題化して久しいが、学生のバイト事情を巡っては新型コロナウイルス流行以降、シフトが極端に減ったり、感染リスクがある中での労働といった別の問題も噴出している。
 この問題の解決に取り組むNPO法人「POSSE」の今野晴貴代表理事によると、労働力不足にあえぐ日本において学生は「低賃金の労働力」と位置付けられており、すぐに状況が好転する見込みはない。対策として今野代表理事は「学生に労働法の知識を普及させること、行政が学生アルバイトの多い業界への働きかけを強めること、そして学生の間で自主的な労働組合の組織が広がること」を挙げる。
 県内でブラックバイトに苦しむ学生がどれぐらいいるかについての調査結果は見当たらないが、全国的に相談を受け付ける労働組合「ブラックバイトユニオン」(東京)に昨年度寄せられた相談件数は111件。ただこれも「氷山の一角」との見方が強い。
 長崎大は「何でも相談室」で相談を受け付け、支援機関につないでいる。県内の無料相談窓口は7カ所。長崎労働局総合労働相談コーナーは「1人で抱え込まず相談してほしい」としている。問い合わせは同コーナー(電095.801.0023)。


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