完成したメガソーラーBH山梨甲斐発電所 県はトーエネックに騙された?

「株式会社トーエネックの対応に関しましては極めて社会的不誠実な行為ではないかということで、強い憤りを禁じ得ない」―山梨県の長崎幸太郎知事がこんな発言をしたのは昨年11月に山梨県庁で開かれた臨時記者会見の場だった。同県甲斐市菖蒲沢地区で建設中のメガソーラー開発の事業が、中部電力グループの株式会社トーエネック(名古屋市)から株式会社ブルーキャピタルマネジメント(東京都港区)に譲渡されたことを受けて行われた会見だった。それから1年を経て問題のメガソーラーはどうなったのだろうか?

トーエネックの発電事業として着工したものの

山梨県北西部の国中地方に位置する甲斐市は人口約7万6000人、隣接する甲府市のベッドタウンとなっている。同市菖蒲沢地区を訪れると山沿いに数多く並ぶソーラーパネルが目に飛び込んできて、さながら「メガソーラー地帯」といった印象だ。同地区と団子新居地区にかけての山肌には、山梨県が全国に先駆けて誘致した三井物産、東京海上アセットマネジメント、明電舎の企業連合が運営するやまなしメガソーラー(甲斐)や三菱HCキャピタルエナジーなどが運営する山梨甲斐東平メガソーラーなど複数の太陽光発電施設のパネルがズラリと並び不思議な光景が広がっている。中部電力グループのトーエネックがブルーキャピタルマネジメントに事業を譲渡したメガソーラーは、それらメガソーラー群の一角を占めているが、山梨甲斐東平メガソーラーのさらに山側、山と山の尾根沿いに位置しているため市街地からその様子を伺うことはほぼ出来ない。

このメガソーラーは、発電事業を中部電力グループのトーエネックが行い、開発・施工をブルーキャピタルマネジメントが行う計画のもと県が林地開発許可を出し、2020年からブルーキャピタルマネジメントが工事を行っていた。しかし、排水施設の工事で当初計画とは異なる工事が行われていたことから県は防災上問題があると判断して行政指導に乗り出し、事業者のトーエネックに対して計画通りに工事を行うように求めた。ところが、改善されないまま一方的にトーエネックがブルーキャピタルマネジメントへの事業譲渡を県に通知したことから、冒頭の長崎知事の怒りの会見になったのだ。

8月末に完成、2,293KWh/年の発電を想定

山の尾根に4万枚もの太陽光パネルが設置されているBH山梨甲斐発電所のメガソーラー(写真奥)=山梨県甲斐市

2021年11月に行われた会見での長崎知事の発言をもう少し見てみよう。長崎知事は、「安全が確保されていないので対応をしっかり行ってください、こういう申し入れをしておりましたが、この申し入れに対して、あたかも無視する、全く責任感を感じていないような形の中で譲渡されたということは、これは社会的な責任感を欠如していると言わざるをえないと思います」と述べ、「中部電力が大半を出資する一部上場企業だからこそ、その信用を元に向き合ってきた、そういう部分もあります」とも述べて信頼できる企業の事業であるからこその林地開発許可であったのに「裏切られた」との思いをのぞかせたのだ。

中部電力系のメガソーラーとなるはずだった甲斐市のメガソーラーは、工事期間中にブルーキャピタルマネジメントの発電施設へと変更され、ブルーキャピタルマネジメントのウェブサイトによると、今年8月末にBH山梨甲斐発電所として完成した。東京ドーム3.15個分の14万7446平方メートルの土地に太陽光パネル約4万枚を敷き詰め、一般家庭6370世帯の年間使用電力量に相当する2,293万KWh/年の発電を想定しているという。昨年11月にトーエネックからブルーキャピタルマネジメントに事業が譲渡されて以降も工事にかかるトラブルや工期の遅れなどが指摘されていたが、ついに完成に至ったようだ。山梨県も県指導に沿った工事が行われ完工したとの認識を示している。

パワコンは中国ファーウェイ、韓国金融が建設資金サポートか

ブルーキャピタルマネジメントのウェブサイトによれば、BH山梨甲斐発電所のメガソーラーは、パネルはアメリカのサンパワー製(現マキシオン・ソーラー・テクノロジー)、パワコンは中国のファーウェイ製を使用している。パワコンは、発電された電力を交流電力に変換したり、発電を制御するなど太陽光発電で重要な役割を担っている機器。ブルーキャピタルマネジメントは、同社の国内のほとんどの太陽光発電施設でファーウェイ製のパワコンを使用しているようだ。ちなみにファーウェイはアメリカの制裁対象となっており、アメリカ連邦通信委員会(FCC)はファーウェイを安全保障上の脅威に指定している状況がある。

また、BH山梨甲斐発電所の敷地の地上権は、2021年11月に株式会社トーエネックからブルーキャピタルマネジメントが代表社員を担う合同会社BH山梨甲斐(東京都港区)に売買移転されており、同日にBH山梨甲斐を債務者、株式会社SBJ銀行、株式会社ウリィ銀行を根抵当権者とし極度額を計約90億円とする根抵当権が設定されている。SBJ銀行、ウリィ銀行ともに韓国系金融機関で、日刊ゲンダイの記事によると韓国ファンドの資金を使ったメガソーラー開発が日本で行われているという。ブルーキャピタルマネジメントによる甲斐市菖蒲沢におけるメガソーラーについても韓国金融が建設資金を支えている実態があると言えそうだ。

トーエネック「ブルーキャピタルの方が速やかに対応できる」

ブルーキャピタルマネジメントのメガソーラー施設であるBH山梨甲斐発電所が完成に至った経緯を見ると、ブルーキャピタルマネジメントの山梨進出をトーエネックがサポートし、山梨県はトーエネックが中部電力グループで、上場企業であることからすっかり信用し、結果的に騙されてしまったような印象さえ受ける。トーエネックはなぜ撤退し、ブルーキャピタルマネジメントに譲渡したのだろうか?そして、そもそもブルーキャピタルマネジメントとどのような経緯でスキームを組んだのか? トーエネックに聞くと、譲渡の理由については「工事に対する責任感を持たせたかった」「問題が生じた時にブルーキャピタルが事業者の方が速やかに対応できると考えた」などと回答、スキームの経緯については「契約の関係上答えられない」との回答だった。

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