本物のクラシックを追い求めて。イギリスで誕生したヘリテイジスクーターRoyal Alloy

【brand pickup】

ヘリテイジの波がスクーターの世界にも

この10年ほどでしょうか。乗り物の世界では「ヘリテイジ」というトレンドが続いています。では「ヘリテイジ」とはなんでしょう? ヘリテイジとは最先端のテクノロジーと高性能を追い求めて先鋭化した乗り物とは違って、古き良き時代のテイストをモダンにアレンジした乗り物のことを指します。

例えばヤマハのXSRシリーズやBMWのRナインティシリーズ、カワサキのZ900RSなどはいずれも過去の名車のエッセンスを巧みに取り入れながら現代的な装備もプラスした商品性で、世界中でヒットを飛ばしています。いま、こうした流れはスクーターの世界でも確実に広がっているのです。

イギリス生まれのRoyal Alloy(ロイヤル アロイ)とは?

Royal Alloy(ロイヤル・アロイ)とはイギリスで創業した新興のスクーターブランドです。Royal Alloyでは、1960年代や1970年代初頭まで販売されたランブレッタシリーズを彷彿とさせるデザインのスクーターを新車として開発。いま、世界中のクラシックスクーターファンから大きな注目を集めています。

ブランドの創業者は、これまでベスパやランブレッタなどのクラシックスクーターを何台も乗り継ぎ、現在も多くのクラシックスクーターに囲まれた生活を送るスクーターマニアで、その素晴らしさをもっと広めたいと考えていました。しかしクラシックなスクーターは経年劣化による故障のリスクや、日常的な整備が現代のスクーターに比べるとこまめに必要になるなど、普段の足として使うスクーターとしてはちょっとハードルが高いことも事実です。

そこでRoyal Alloyは安心して普段乗りができる現代的な車体にクラシックな外装を組み合わせたリアル・クラシックを生み出しました。それがGPシリーズとTGシリーズです。この2シリーズは、現在ランブレッタスクーターをはじめファンティックなど輸入ブランドを手がける東京のMOTORISTSが、2022年春から日本で125ccモデルの販売をスタートしました。ここからはその詳細と走りの実力についてご紹介します。

シャープなデザインが魅力のGPシリーズ

Royal AlloyのフラッグシップとなるこのGPシリーズです。GPシリーズのイメージソースとなったのはイタリアのスクーターブランドであるランブレッタ社が60年代後半から70年代初頭にかけて生産したスポーツモデルのGPシリーズです。Royall Alloyでは当時のオリジナルモデルのボディ外装を丹念に3Dスキャン。とは言っても完全なコピー外装を採用するのではなく、同社が開発した新設計のフレームと足まわりにフィットするようにアレンジを加え、モダンテイストに仕上げています。

レトロなスタイリングが光るTGシリーズ

そしてもうひとつのラインナップがこのTGシリーズです。GPシリーズとは異なり、曲線を多用した美しいボディラインが目を引くTGシリーズは、ランブレッタ車が60年代前半から中盤にかけて販売していたシリーズ(通称シリーズ2)をイメージソースとしています。こちらも、オリジナルボディを3Dスキャンしたのちに、Royal Alloyが開発した車体に合わせて、デフォルメとアレンジを加えています。なお、GPシリーズとTGシリーズはボディ外装こそまったく異なりますが車体やエンジン、足まわりは共通設計です。

車体や4ストロークエンジンはGP/TG共通

日本で販売されるRoyal Alloyは、GP・TGシリーズともに125ccモデルのみとなります。ただ、イギリス本国では300ccモデルもラインナップしていることもあってエンジンを除くシャーシや足まわり、そして外装パーツまで排気量を問わずに全モデルで部品を共通化しています。

上の写真はGPシリーズのサイドパネルを外したストリップでの写真です。メインフレームはスチールパイプで構成されています。フロントフォークは一般的なテレスコピック式とは異なり、サスペンションアームと並行するようにダンパースプリングをレイアウト。現代の交通事情に合わせてブレーキこそ油圧式ディスクブレーキを採用しているものの、この足まわりのレイアウトはかつてのランブレッタスクーターが採用していたものとまったく同じもの。Royal Alloyは外装デザインだけでなく、足まわりも含めて「現代に蘇ったランブレッタ」をリアルに表現しているのです。

エンジンには125cc空冷4ストローク単気筒を採用

ではエンジンはどうでしょう。かつてのランブレッタは、空冷2ストロークの単気筒エンジンを採用していましたが、Royal AlloyのGP・TGシリーズはともに現代的な空冷4ストロークOHCの単気筒エンジンを搭載しています。エンジンは駆動系ユニットを一体として、エンジン自体がスイングユニットとして機能する方式です。現代のスクーターの多くがこの方式を採用していますが、じつはこの基本的なレイアウトもかつてのランブレッタが実用化して発展させたものなのです。そのため、現在のスクーターの基本形を作ったのが、かつてのランブレッタとも言われているほどなのです。

エンジンの駆動系は車体左側に、リアサスペンションは片側1本のみでまとめられています。かつてのランブレッタとは左右が逆になりますが、スイングユニットそのものの考え方は当時とまったく同じです。

エンジンを下から覗くとこんな感じ。写真中央のシルバーの部分がクランクケースです。強制空冷のため、車体右側には強制空冷用のファンを装着しています。センタースタンドはクランクケースに装着する作りです。

フロントの足まわりは車体前方にサスペンションアーム、その後方にサスパンション本体を配置する独特な作り。これは往年のランブレッタと同じ機構です。ただ、ブレーキは現代の交通事情や規制に合わせてディスクブレーキを採用。さらにCBS(コンバインド・ブレーキ・システム)を搭載して前後のブレーキバランスを最適に制御してくれます。

ブレーキは片側シングルディスクなので、車体右側ではスポーク本数の多いキャストホイールがよくわかります。ホイールはリムの一部を切削仕上げで残してあり、モダンで高級感のあるデザインです。ホイールは12インチの110/70サイズを採用して。安定感のある走りを支えています。

灯火類にはLEDを採用するRoyal Alloy。メーターもモダンなデジタルメーターです。燃料系や電圧計、タコメーターも1画面におさめていて、走行中でも各種情報をひと目で確認できます。

GPシリーズのアイキャッチとなる異形ヘッドライトはLEDで、リフレクターのカットも洗練されています。レンズやクロームメッキの質感もすばらしく、所有欲を高めてくれます。

前後のブレーキはいずれも油圧式ディスクブレーキを採用するRoyal Alloy。ハンドル周りは雰囲気を損ねないよう、小型のマスターシリンダーを装着しています。

フロントパネルには大型のラゲッジボックスを装備しています。内部には電源も来ているのでスマートフォンなどの充電も可能です。TGシリーズでも同様のラゲッジボックスを装備しています。

幅広で肉厚なシートはタックロールが入りスポーティな雰囲気。座り心地もよく、数時間試乗してもお尻が痛くなることはありません。タンデムでも使用してみましたが、タンデムシートの座り心地も良好です。

こちらはTGシリーズのハンドルまわり。ハンドル下に小型のLEDウインカーを装備しています。なお、GP・TGシリーズともにハンドルグリップには樽(タル)型を採用してクラシック感を演出しています。

曲線を生かしたボディデザインでよりクラシックな雰囲気のTGシリーズ。フロントパネル中央のホーンカバーはメッキパーツを組み合わせて上質な仕上がりです。

リアのサイドパネルにはRoyal Alloyのロゴマークをセット。砲弾型のLEDウインカーボディもクラシック感の演出に一役買っています。

テールランプのデザインも往年のランブレッタを巧みにアレンジしています。テールランプはもちろんLEDで被視認性に優れています。

こちらはGPシリーズのテールまわり。LEDのウインカーはサイドパネルに埋め込まれているので、ボディラインはさらにスッキリしています。GP・TGシリーズともにメッキ仕上げのリアキャリアを標準装備。デザインと実用性を両立しています。### Royal Alloy GP125をテストライド! 気になるその乗り味は?

今回MOTORISTSで試乗車が用意されると聞き、早速GP125を試乗してきました。目の前に現れたのは淡いブルーメタリックの車体。見る角度によって微妙に色味が変化するメタリック塗装はとても上質で、このクラスにありがちなチープさはまったくなく、むしろ高級車としての品格も感じられるほど。

300ccモデルと共通の車体とあって、125ccクラスとしてはやや大柄な部類に入るGP125。しかし、実際の街中での取り回しでは車体が大きくて難儀するという場面はありませんでした。

イギリス本国で発売されている300ccモデルと共通の車体・ボディとあって車格は立派なものですが、ビッグスクーターというほどの大きさでもありません。シート下の車体幅があるので、小柄なライダーにとっては足付きが良いとは言えませんが、車重が極端に重いわけでもないので恐怖感はなく、国産の125-200ccクラスのスクーターと同じ感覚で取り回しできます。

過激すぎない優しい単気筒エンジン

空冷OHCの単気筒エンジンは、アイドリングから単気筒らしい乾いた排気音を奏でています。うるさすぎず、静かすぎず、適度な存在感のある排気音は誰の耳にも心地よい優しいサウンド。実際に走りだしてもその印象は変わらず、高回転域まで回してもOHC単気筒らしい優しいサウンドが響きわたります。

124ccのエンジンはシリンダーが前方へ寝かされています。エンジンの真上が燃料タンク。給油はシートを開けておこないます。

最先端の水冷DOHCエンジンではないので「出だしからレブリミットまでギンギンに回る!」という性格ではありませんが、低速からよく粘るエンジンは、回転をあげていくと穏やかながらも車速がしっかりとついてきます。スロットルのレスポンスも適度に穏やかなため、ソロでのライディングはもちろんタンデム時でもスロットルワークに気をつかうことはありません。

そんなOHC単気筒らしいスロットルフィールは、街中を主なステージとするスクーターにはピッタリといえるものでしょう。とにかく速いスクーターを求める人には少し物足りないかもしれませんが、Royal Alloyはスピードではなく車両が持つクラシックな雰囲気と現代のスクーターとしての商品性を兼ね備えたヘリテイジモデルです。ビギナーからベテランまで誰にでも優しいエンジンフィーリングは、休日に街中へ買い物へ出かけたり、タンデムランを楽しんだり、日々のバイクライフをより自然体で楽しむにはぴったりなキャラクターだと感じます。

車体と足まわりの完成度にびっくり

実際に街中を数時間走らせてみて感心したのは、車体と足まわりの完成度の高さ!

そもそもが300ccモデルを想定した車体のため、走行中の安定感や足まわりの剛性感にしても文句のつけようがない完成度なのです。やや長めのホイールベースとあって、タンデムをしても直進安定性に優れていますし、CBSを搭載するブレーキはタッチ、制動力ともに素晴らしい。ハンドリングはいたってニュートラルで、乗り手があれこれ工夫する必要は一切ありません。

また、往年のランブレッタを踏襲したフロントサスペンション機構による高い剛性感も大きな魅力です。日常域でのブレーキングやコーナーリングはもちろん、ハイスピード域であってもフロントが腰砕けになったりすることはありません。ギャップに入ったあとも滑らかに振動をいなしてくれるので、スポーツライディングに近い走りをしても恐怖感がなく、フロントタイヤの接地感もしっかりと乗り手に伝わってきます。そうしたフロント周りへの信頼感はタンデムをしたときでも変わりません。

シリーズ共通の足まわり。国産スクーターとはまったく異なる構造ですが、かつてのランブレッタが採用していた実績あるサスペンション機構とあってその安定感や剛性感はひとクラス上のスクーターといった印象です。

正直に言うと、これまで125ccクラスのスクーターでは車体や足まわりに不満を持つことが多かった筆者ですが、そのネガティブなイメージはRoyal Alloyによって払拭されたほどで、格上の排気量モデルと共通の車体を採用した利点をこれでもかと体感できました。まさに「車体がエンジンに負ける」のではなく「車体がエンジンに勝る」感覚。どんな乗り物でもエンジンのパワーやトルクをしっかりと受け止める車体があってこそ、気持ちよく安心して走れるものですが、その点についてRoyal Alloyの125ccシリーズは車体と足まわりのバランスが非常に優れていると断言してもよいでしょう。

やっぱり眺めても楽しい

車体やエンジンなどについてここまで紹介してきましたが、Royal Alloyの最大の魅力はやっぱりそのスタイリングです。古いランブレッタを知る旧車マニアも唸らせる見事なリメイクぶりには拍手を送りたいほどですし、逆にオリジナルのランブレッタを知らない人にとっては目新しく、キャッチーなデザインに映るのではないでしょうか。

Royal Alloy TG125【メーカー小売希望価格638,000円(税込)】

Royal Alloy GP125【メーカー小売希望価格572,000円(税込)】

細部にまでデザインにこだわった作りや、質感にまでこだわったペイントやクロームメッキなど、その外装デザインのクオリティは、このクラスにありがちなチープさとは一線を画すもの。休日に洗車をして車体をピカピカに磨き上げたい、そんな気持ちになるスクーターなのです。日本の125ccスクーター市場は実用車メインですが、Royal Alloyのようにクラシックな空気を楽しむ趣味性に富んだモデルは稀有な存在と言えます。イギリスのスクーターマニアのこだわりを満載したRoyal Alloyのクラフツマンシップは、実車を目の前にするときっとよくわかるはずです。みなさんもぜひMOTORISTSの店頭でその質感を確かめてみてはいかがでしょうか。

取材協力/MOTORISTS https://royalalloy.jp
文/土山 亮
写真/山田健太郎, MOTORISTS

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