門限もなく、大浴場&シャワールーム付きの格安ホテル「ホテル ビーバー2」【はんつ遠藤の大阪・西成C級ホテル探検(11)】

食材の高騰、油など原材料の高騰など、物価上昇に歯止めが掛からない昨今。けれども給料は上がらず、年金も2年連続で減額。ただ、僕はフードジャーナリストでもあるので定点観測しているが、相変わらずミシュランといった飲食店格付本で三ツ星に掲載されるようなA級グルメは予約困難だ。その一方で町中華やコンビニグルメなどリーズナブルな料理も人気がある。せっかく行くなら高級、日常はお値打ち、そんな昨今の構図を感じる。

また関西に行った。往路は成田発関空着のジェットスターで5,320円、復路は関空発成田着のピーチで5,020円。ちなみに僕はKIX-ITMカード(入会金年会費とも無料)を保有している。到着および出発ごとに10ポイント、ゆえに往復で20ポイントが貯まり、たとえば40ポイントで南海電鉄特急ラピートが1,450円のところ、1,000円で利用できるため、夜になんば駅から関西空港へと向かう際も、通常ならば特急でも普通席ならかなりの混雑ぶりだが、これを使えばゆったりと指定席で向かうことができる。

ホテルは、相変わらず大阪の西成地区だ。今回にご紹介するのはホテル ビーバー2。「大阪市西成区萩之茶屋2-6-7」という住所から分かるとおり、西成どまんなかあたりの立地で、昼夜問わず日雇い労働者さんたちに多数遭遇する地域に存する。

最近は、たまに彼ら同士の揉め事や、ひとり奇声を発しながら歩く人などを見かけるけれど、以前に比べたらずっと安全な雰囲気が周辺に漂っている。もし、それすらイヤという方ならば、地下鉄の動物園前駅9番出口を出て西へ向かい、阪堺電車の線路の下をくぐれば、すぐだ。

建物自体は古い。昭和感が満載だ。けれど丁寧に掃除が施されているようで、しかも玄関で靴を脱いで、館内をスリッパで歩くスタイルなので、案外と綺麗な印象を受ける。とはいえエレベーター内の多数のキズなどに、西成イズムを感じてしまうが。

チェックインタイムは午後3時~7時の間。それを過ぎるとフロントが終了してしまう。今回の部屋は「207」。1泊1,890円。他に、チェックイン時にカギのデポジットとして1000円を支払い、チェックアウト時に交換で返却されるシステム。

2階の廊下は薄暗いが、特に物が置かれているわけもなく、簡素な良さがある。カギを回し、スチールドアを開けば、お決まりの3畳一間の和室が広がっていた。

ひとことで言えば、至れり尽くせりである。ちょっとしたテーブルがあり、その上にはティッシュやミラーまで。テレビや冷蔵庫、電源タップ、ハンガー3本。タオルとバスタオル、かみそりすら無いが、なぜか歯ブラシが2セット。しかも照明はシーリングライトで、タイマーまでついている。

唯一の欠点は、エアコンが各部屋で温度調節ができない、全館集中管理な点。とはいえL、M、Hといった風量調整スイッチがあるので、さほど困ることは無い。

ここまで素敵だと、他に何か盲点はないものか? そんな邪悪な気分にさえなってくる。Wi-Fiまで完備されているので、試しに速度を測定してみた。なんと220Mbps!我が家では40Mbps程度なので、もはや十分すぎるほどの速度だ。

さて、恒例の館内探検に行こう。

ホテルにチェックインした際は、早々にすべきことは避難経路の把握。当然だが、これはどんな高級ホテルでも変わらない。こおのホテルではきちんとした避難経路図も掲示されていたので、試しに階段を覗いてみると、まさに古めかしいものの、一応は機能していた。

また、2階のトイレのところには流し台があり、昭和的な瞬間湯沸かし器も設置されている。トイレ自体もウォシュレットタイプにリノベーションされている。しかもコインランドリーまであった。フロントでは5袋入りの洗濯洗剤も販売しているようで、長期滞在にもうってつけ。ちなみにランドリーは午前6時から午後9時まで。午後9時以降が使用不可なのも、朝が早く、就寝も早い人が多い西成ならではの配慮だろう。

そして1階には電子レンジのほか、清涼飲料水の自動販売機も。実は、僕はこちらに2019年11月にも宿泊したことがある。当時はこの場所にビールの自動販売機が設置されていたし、フロントで日本酒も販売されていた。清涼飲料水に変更されていたのも、時代の流れであろうか。それはさておき、個人的には日清カップヌードルの自動販売機があるのも興味津々である。

ここまででも素晴らしいC級ホテルなことがお分かりいただけたと思う。しかし、まだあるのだ。それが大浴場。午後4時から9時まで入浴可能。浴室には誰もおらず、ゆっくりと湯船につかり、一日の疲れを癒すことができた。洗い場は4人分。こじんまりとしているが、僕には十分だ。ドライヤーはフロントで借りるシステム。備え付けが便利なのだが、このくらいは、仕方がないと思った。

身支度をして、僕は夜の街へと向かった。

今回は大阪在住の友人と待ち合わせをしている。僕はフードジャーナリストの傍ら、2003年に商業施設のなんばパークスにオープンしたフードテーマパーク「浪花麺だらけ」の名誉館長もしていた。その頃からの付き合いゆえに、もう20年近くになる。

とても居酒屋などアルコールを提供する店舗に詳しい方ゆえに、今回もどこに連れていってくれるかワクワクした。そして向かったのが、動物園前駅から徒歩数分のジャンジャン横丁にある「佐兵衛すし支店」。同じ通りに本店もあるが、今回は支店のほう。

昼から夜まで通し営業で、長年続くお寿司やさん。最近はミシュランで星を獲得するような数万円クラスの寿司コースを提供するA級寿司店も花盛りだが、こちらは真逆ともいえるリーズナブルさを売りにした1軒。「西成泊まりの人にもぴったり」と友人が笑う。

確かにメニュー表をみれば、まぐろ3貫で220円とか、回転ではなく一般寿司店にしてはお得な価格設定で安心した。

特に面白かったのは「あのな巻き」。ごはんの無い巻物で、海老や穴子、かんぴょう、椎茸、厚焼き玉子、高野豆腐、キュウリ、でんぶなどを薄焼き玉子と海苔で巻いたもの。さまざまな食材の美味しさが、時間差で伝わってくる。これで480円だから恐れ入る。ちなみに数の子が加わると「あのね巻き」は520円になるそう。

コロナも落ち着き、こうしてまた友人と語らえる時が来たのは、喜ばしいことだ。さまざまな話をした。約20年も知り合いだと、それこそ多種多様な話題が出る。日常から仕事に役立つようなことまで、本当にさまざま。そして、

「〇〇さん、亡くなったって」

病気だそう。まだ60歳。コロナ禍以前から、ポツポツと同年代やちょっと上の知り合いが旅立つようになった。コロナでも知り合いや友人の妹など、数名が亡くなった。当たり前だけれど、年を重ねるごとに、そんな経験値はUPしていく。こうして自分の覚悟も、少しずつできていくのかもしれない。

その後、数軒をハシゴして、僕は友人と別れ、西成への帰路についた。

今回も門限がないホテルなのは、とても助かる。他の宿泊客に迷惑がかからないよう、最新の注意を払いながら、部屋へと戻り、眠りについた。

翌日、チェックアウトタイムは午前10時まで。大浴場はもちろん使用できないが、嬉しいのはシャワールームが2つあり、午前6時から午後11時までOKな点。ゆえに、起床後にゆっくりとシャワーを浴び、フロントでカギと交換で1,000円を返却してもらい、チェックアウトと相成った。

外は今回も晴れていた。西成の人通りは、コロナが落ち着いたこともあり、以前のような活況を取り戻しつつあった。今後また海外からのインバウンドも見込まれる。外国からの観光客が西成に戻ってきて、また華やかな西成が形成される日も、そんなに遠くないと思った。

■プロフィール

はんつ遠藤

1966年東京生まれ。早稲田大学卒。不動産会社勤務を退職後、海外旅行雑誌のライターを経て、フードジャーナリスト&C級ホテル評論家に。飲食店取材軒数は1万軒を超える。主な連載は「週刊大衆」「東洋経済オンライン」など。著書は「取材拒否の激うまラーメン店」(廣済堂出版)など27冊

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