Vol.24 2.29インチの大型タッチスクリーン搭載。ポケットタイプの360°アクションカム「Insta360 X3」徹底検証[染瀬直人のVRカメラ最前線]

アップデートを重ねるごとに、進化を遂げてきた360°アクションカムのInsta360 ONE Xシリーズに「Insta360 X3」(以下:X3)が新登場。360°の可能性を追求し続けてきたInsta360が放つコンシューマー向けヒットシリーズの最新版だ。

2.29インチの大型タッチスクリーンを搭載し、1/2インチのイメージセンサーを採用。最大12K72MPの静止画解像度、5.7KのアクティブHDR動画や8Kタイムラプス動画、4Kシングルレンズモードの実装。さらには、「ミーモード」等の新機能を追加して、一段と成熟が感じられるモデルに仕上がっている。

今回の連載記事では、このX3を取り上げ、発表前より続けてきた徹底検証を踏まえて、その実力を測るべくレポートをお届けする。

概要

X3は、中国・深圳のInsta360(Arashi Vision)が手がけるコンシューマー向けの360°アクションカムで、ONE Xシリーズの3代目の製品である。今回は新たに、1/2インチイメージセンサーが採用され、強化ガラスによる2.29インチの大型タッチスクリーンを実装。電源、クイックメニュー、シャッター、レンズ切り替えの4つの物理ボタンが設置されている。

X3は空間のキャプチャーに適した360°撮影はもとより、360°映像のリソースを、リフレームをはじめとする様々な活用方法に応用している。6軸ジャイロスコープを内蔵しており、強力な「Flowstate」手ブレ補正や水平維持機能をベースに、多彩な機能を追加して前機種のInsta360 ONE X2(以下:ONE X2)から、さらなるアップデートが図られた。

X3の主な新機能は以下の通りである。

  • 5.7K360°アクティブHDR動画
  • 4Kシングルレンズモード
  • 8K360°タイムラプス動画
  • 4K/120fps、3K180fpsのバレットタイム
  • ミーモード(自撮りモード)
  • プリレコーディングモードとループ録画モード(プリレコーディングモードは現在、開発中の模様)
  • 360°写真アニメーション(iOSは72MPに対応しているが、Androidの多くは、今のところ、18MPのみで利用できる)
  • 方向性強調オーディオ

モバイルアプリのInsta360アプリでは、カメラコントロール以外に「FlashCut」のAI自動編集や360°の映像から直感的なリフレームを行うスナップウィザードで編集作業をおこなうことが可能だ。編集ラボでは、遊び心に溢れた多彩なテンプレートを利用してユニークなエフェクトを適用したコンテンツを手軽に創り出すことができる。PCでの作業が好みの場合は、「Insta360 Studio 2022」を使用することになる。

Insta360 ONE-X(左)、Insta360 ONE X2(中央)、 Insta360 X3(右)

スペックについて

X3は魚眼レンズが前後に配置されている2眼のレイアウトで、それぞれの絞り値がF1.9、焦点距離が6.7mm(35mm相当)となっている。

撮像素子は、1/2インチCMOSイメージセンサーを2基搭載。前機種のONE X2の1/2.3インチCMOSイメージセンサーからアップスケールされている。そのため、ダイナミックレンジが拡張され、ハイライトからシャドウ部の再現性が向上した。

動画の360°撮影の解像度は、ONE X2と同等の最大5.7K(5760×2880)30fps。シングルレンズモードでは、最大4K(3840×2160)30fpsの解像度となっている。ファイル形式は、360°撮影の際はInsta360独自のinsv、シングルレンズ撮影の場合はmp4である。ファイルは、29〜30分ごとに分割して記録される。動画の最大ビットレートは120Mbpsで、Insta360アプリやInsta360 Studio 2022からの書き出し時には200Mbpsまで指定できる。カラープロファイルは、標準、鮮やか、LOGの3種が用意されている。

静止画の解像度は、7200万画素(11968×5984)と1800万画素(5952×2976)が選べる。記録形式は、Insta360独自のinspとDNG RAWがある。

最小焦点距離は0.3m、安全なステッチング距離は0.6mとされている。筆者の検証でも、ステッチの安全距離は同様であったが、レンズ間に被写体がまたがる場合は、安全距離以上に離れた位置から撮影した方が良い。

交換バッテリーの容量は1800mAh。駆動時間は筆者の検証では5.7K30fpsの撮影で90分ほど継続した。給電しながら撮影する場合は、それ以上に長時間撮影をすることが可能だ。因みに、5.7K30fpsの撮影を1時間ほど続けた場合、筐体の最も熱くなる箇所の表面の温度は、44.7度ほどであった。Bluetooth5.0、Wi-Fiは2.4GHz、5GHzで、モバイルデバイスとの接続性はAndroid、iOS共に良好だ。転送時間はONE X2と比べて50%程度向上している。

マイクは4つ配置され、空間音声としての機能はもとより、新たに方向性強調オーディオの機能が実装された。ライブ配信については、360度のライブストリーミングとフラットストリーミングをサポートしている。

X3の防水性能はIPX8等級、カメラ単体で最大10m防水である。別売りの潜水ケースを用いると360°撮影のステッチが可能となり、水深50mまで対応する。カメラ本体からの物理的な操作以外には、音声制御、モバイルアプリ、さらには、別売りのGPSリモコン、Apple Watch、AirPods等から、コントロールすることができる。

デザインについて

X3の大きさは114x46×33.1mm、重さは180g。ボディ(筐体)の材質は、ポリカーボネート+グラスファイバーである。前機種のONE X2と比較した際に目を引くのは、何と言っても2.29インチ(5.8cm)と大型化したタッチスクリーンである。画像や映像の発色に優れ、文字等の視認性も良い。さらに物理ボタンもONE X2の2つから4つに増え、カメラ正面の左下にシャッターボタン、正面右下に360°/内向きシングルレンズ/外向きシングルレンズの切り替えボタン、右側面に電源ボタンとクイックメニューボタンが配置されている。これらのボタンは手袋を装着していても操作が可能であり、ボタンを押す時やクリックして機能を変更する時 には、カメラ自体の振動によるフィードバックが実装された(オフにすることも可能)。

正面下部にはインジケーターライトがあり、保護カバーに入れた状態でも視認できる配置になっている。これらのユーザーインターフェイス(以下:UI)の導入により、カメラ設定、撮影のパラメーター設定といったカメラコントロールから、ライブビューや撮影情報の表示等から再生まで、スマートフォンに接続せずとも単体での操作性がより向上した。

内蔵マイクは、前後左右の各面に一つづつ、合計4つ配置されている。カメラの左側にはバッテリースロットがあり、その内部の左下にmicroSDカードスロットがある。バッテリースロットの上部には、充電やデータの転送のためのUSB Type-Cポートがある。このポートのカバーは、ONE X2より開閉がスムーズかつしっかりとおこなえる仕様に改善された。また、X3を保護ケースに入れたまま充電やデータの転送ができるように、保護ケースのポートの部分にケーブルを通す穴が設置されている。底面には金属製の1/4三脚ネジ穴がある。

Insta360 X3を各方向から見た製品写真(カメラ正面)
Insta360 X3を各方向から見た製品写真
Insta360 X3を各方向から見た製品写真(正面)
Insta360 X3を各方向から見た製品写真
Insta360 X3を各方向から見た製品写真(右側面)
Insta360 X3を各方向から見た製品写真(左側面)
Insta360 X3を各方向から見た製品写真(上面)
Insta360 X3を各方向から見た製品写真(底面)
保護ケース収入時でも、インジケーターライトを視認できるので、充電の完了が把握できて便利だ

静止画性能について

X3の写真の解像度は、72MP(11968×5984)、18MP(5952×2976)の2種が選択でき、 記録形式はinspとDNG RAWがある。静止画の最大解像度は、ONE X2の6K約18MP(6080×3040)から、12K約72MPに増えている。72MPの撮影は明るい環境で効果的と思われるので、暗所でノイズの発生を抑えたい場合や、撮影後の処理時間を短縮したい場合は、18MPを選択すると良いだろう。筆者の検証では、PureShot撮影時、72MPの場合は処理に12秒程度、18MPの際は6秒程度を要した。因みに、HDR撮影については、18MPのみとなる。

inspのファイルについては、モバイルアプリ「Insta360」またはPCアプリのInsta360 Studio 2022から書き出し可能で、DNG RAW(PureShot)は、Insta360 Studio 2022から書き出す必要がある。同じセンサーサイズのTHETA Xと、X3のPureShotで撮影した静止画を比較してみたところ、肌みや青空の発色について、THETA Xが抑えた色調であるのに対し、X3は鮮やかで、ダイナミックレンジの広さを感じさせるグラデーションとなっていた。解像度はX3が些か上回っているが、THETA Xは近点から遠点まで、かなりシャープな解像感を確認できた。X3はDNG RAW対応なので、後処理の幅は大きくなる。

※画像をクリックして拡大360°の静止画(7200万画素)

動画性能について

X3は360°動画モードの場合は、

  • 5.7K:5760×2880 30/25/24fps
  • 4K:3840×1920 60/30fps

が選択でき、記録形式はinsvとなる。

スペックとしては、ONE X2と同等であるが、イメージセンサーが大きくなったことにより、ダイナミックレンジが拡大している。

シングルレンズ動画モードの場合は、

  • 4K:3840×2160 30/25/24fps
  • 3.6K:3584×2016 60/50/30/25/24fps
  • 2.7K:2720×1530 60/50/30/25/24fps
  • 1080p:1920×1088 60/50/30/25/24fps

が選択可能で、記録形式はmp4である。同様のスペックの他機種と360度動画の画質を比較した場合、X3は発色、ダイナミックレンジ、ノイズの抑制等、総合的なバランスがとれていると感じられた。

360°の画角が不要の場合は、4Kシングルレンズモードを選択することにより、画質を優先することができる。ただし、手ブレ補正はカメラ内処理となる。2.7Kシングルモードを選択した場合は、170°Maxの広角が使用でき、PRO仕様のファイルとして認識されるので、Insta360アプリ、若しくはInsta360 Studio 2022の処理によって、FlowState手ブレ補正の有無や、画角や歪曲等の調整が可能になり自由度が増す。

Insta360 X3 5.7K 30fps 鮮やか

Insta360 X3 5.7K30fps 低照度下撮影

Insta360 X3他機種との比較動画(Insta360 ONE X2、Insta360 ONE RS 360度レンズ、RICOH THETA X)5.7K 30fps 360度撮影より、切り出して比較

Insta360 X3 4Kシングルモード

Insta360 ONE X3 2.7Kシングルレンズモード Max View

2.7Kシングルレンズモードの元データのファイル。PRO仕様のファイルとして認識され、170。Maxの広角が使用でき、後から画角や歪曲、手ブレ補正の有無等を設定できる※画像をクリックして拡大

X3で新たに追加された360°アクティブHDR動画は、ハイライトとシャドウのディテールを維持しながら、アクションシーンにおいても、安定した5.7K動画の移動撮影を可能とする機能だ。具体的には、手ぶれ補正に必要な高サンプルレートのジャイロスコープデータ対応のHDR映像を、直接出力することが可能な新センサーを採用することにより、通常の360動画と同じような手ぶれ補正効果のあるHDR映像を実現している。注意点としては、暗所での使用は避けること。また、高輝度と低輝度が隣接する箇所は、偽色が発生する可能性があるので、シャープを中か低にして加減するのが使いこなしのコツと思われる。また、この機能は撮影時に発熱するので、長時間の撮影は控えた方が無難だろう。筆者の検証時には、30分以内で筐体の表面温度の最も高い箇所が54度程度に達し、アラートが表示され、サーマルシャットダウンした。

Insta360 X3 360°アクティブHDR動画 5.7K30fps

360°タイムラプス動画については、解像度が8K(7680×3840)にアップグレードされている。このようなポケットサイズの筐体で、8K360度タイムラプスを撮影できる性能は、X3の有力なアドバンテージの一つであると言えるだろう。5.7Kも選択できる。

Insta360 X3 8Kタイムラプス動画

もう一つの新機能にミーモードがある。これはX3を見えない自撮り棒に設置して、前方に向け、水平に持って移動撮影した動画を、後でリフレームすることなく4Kで自撮り撮影ができる機能だ。技術的には、イメージセンサーの出力モードを調整することにより、2つのレンズの下半分のビデオのみを提供、プロセッサーのスプライシングによって視野角180度のビデオに合成している。その上で、手ぶれ補正と視野角処理を行い、最大170度の視野角の手ブレ補正シングルレンズビデオを撮影できるようになっている。

両眼のレンズで撮影するが、撮影・書き出しの動画は、180度になるので、シングルレンズモードのカテゴリーに入っている。(ただし、デュアルレンズのステッチング技術が活用されている。)そして、デュアルフィッシュアイによる死角の効果で、あたかもカメラが浮いているように撮影することができるのだ。画角は16:9と9:16が選択可能だ。原稿執筆時点ではInsta360アプリ上では自撮りモードと表示されているが、今後のアップデートでミーモードに統一されると思われる。

Insta360 X3ミーモード(16:9)

Insta360 X3ミーモード(9:16)

Insta360の人気の機能である「バレットタイム」については、ONE X2の3K100fpsから、4K120fps/3K180fpsとよりハイフレームレートで撮影できるようになった。超スローモーションによって、決定的瞬間をさらに効果的に表現できるようになっている。

Insta360 X3バレットタイム 4K120P

Insta360 X3バレットタイム 3K180P

オーディオ性能について

X3には、ONE Xシリーズの従来機のように4つのマイクが搭載されている。この4つのマイクと進化した新アルゴリズムにより、明瞭で自然かつバランスのとれた音で録音することができる。アップデートされた「風切り音低減」では、とてもナチュラルな音質を実感できた。4つのマイクを利用することで、VR映像で有効な空間音声として利用できる他、進化した「方向強調モード」では、リフレームしたアクションの方向から音声が聞こえるように仕上げることができる。

Insta360 X3オーディオステレオ

Insta360 X3オーディオ 風切り音低減

Insta360 X3オーディオ 方向性強調

まとめ

X3はUIがより一層ユーザーフレンドリーなものに改善され、カメラ単体での操作性が向上した。実際に使用してみると、炎天下でも安定して動画撮影が継続できる点に、タフさを感じた。撮影モードを切り替える際には、若干、読み込みの時間を要するので、タイミングが重要な撮影の際は、そのバッファを計算に入れた方が良いかも知れない。

Insta360アプリも、360°の静止画に動きを付加して動画化する 360度写真アニメーションが新機能に加わり、FlashCutのテンプレートも現在、32種類に増えて、充実しているので、飽きることなく撮影を楽しめることだろう。

Insta360のONE Xシリーズのアドバンテージは、360°撮影とアクションカムの性質を融合して、映像の可能性を広げたことにあるが、X3においては、性能のブラッシュアップとユニークな機能を追加することで、コスパの良いオールマイティーなカメラへと、さらに進化している。

X3はInsta360 Japan株式会社より発売されており、公式ストアや全国の量販店(一部店舗を除く)、各社オンラインショップ、アマゾン、楽天など各取扱店舗より購入ができる。販売価格は税込68,000円。

Insta360 X3 スカイスワップ(編集ラボ)

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