元寇ロマン

 不思議なくらい、その町長の表情は自信に満ちていた。「大きな影をソナーで確認してるんですよ。元(げん)の船に間違いない。調べたいが、我々の手には負えないので国に何度もお願いしている」▲この春、91歳で亡くなった旧北松鷹島町長の宮本正則さんは古里の歴史を生かしたまちづくりに懸命だった。筆者が島を担当していた約20年前、彼は中央官庁などを精力的に回り、協力や支援を求めていた。取材で役場を訪ねるたびに、話題は鷹島沖の元寇遺跡に及んだ▲鎌倉時代の元寇の舞台となった鷹島周辺では昔から刀剣やいかり、陶磁器などが見つかっていた。だが、形を残したままの船なんて本当に残っているのか? 半信半疑だったが、それから10年余りが過ぎた頃に大発見があった▲2011年と15年に沈没船を確認。今週末には、船体の引き揚げを見据えた実験的な作業として、13年に別の場所で見つかった木製いかりを引き揚げる▲暴風雨で多くの元船が沈んだとされる鷹島沖の一部は国史跡。未知なる遺物の発見にも夢は膨らむが、水中遺跡の発掘調査は地上に比べ、桁違いに費用や時間がかかる▲「元寇船の引き揚げを死ぬまでに執念でやり遂げたい」。宮本さんの思いはかなわなかったが、関係者の長年の努力で、一歩ずつ、着実に、夢は現実に近づいている。(真)

© 株式会社長崎新聞社