金正恩が「秘密主義」に回帰…ロシア劣勢や台湾問題が影響か

韓国軍合同参謀本部は25日、北朝鮮が同日朝に平安北道(ピョンアンブクト)の泰川(テチョン)付近から朝鮮半島東の海上に向けて発射した弾道ミサイル1発について、到達高度は約60キロ、飛距離約600キロ、速度マッハ5だったとの分析を明らかにした。ロシア製短距離弾道ミサイル「イスカンデル」の北朝鮮版と呼ばれる「KN23」と似ているとの指摘がある。

一方、北朝鮮メディアは26日夕方の段階で、ミサイル発射の詳細について報じていない。

北朝鮮は金正恩政権になって以降は基本的に、ミサイル発射の翌日に記事や写真を公開してきた。異変が現れたのは今年5月のことだ。

北朝鮮は同月25日、大陸間弾道ミサイル(ICBM)と推定される1発と短距離弾道ミサイルと見られる2発の計3発を発射したが、同国メディアはこれについて報じていない。

また、同月4日と7日、12日にICBMと潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、多連装ロケットとみられる飛翔(ひしょう)体をそれぞれ発射したが、いずれも報道しなかった。

かつて北朝鮮は、兵器開発については徹底した秘密主義を取り、ミサイル発射の事実さえ積極的に公開してこなかった。発射データや写真が迅速に公開されるようになったのは、金正恩総書記が最高指導者となって以降だ。

金正恩氏は、神秘主義路線を取っていた父の故金正日総書記と比べると実にあけっぴろげで、自分の写真に関しても、昔なら公表されることのなかったようなカットのものもどんどん公開している。

金正恩氏が何故、父とは違う路線を取るようになったかは判然としない。ただ、同氏は2019年3月に開催された第2回党初級宣伝活動家大会に送った書簡で次のように述べ、父親の統治スタイルを遠巻きながら批判している。

「偉大性教育で重要なのは、首領は人民とかけ離れた存在ではなく、人民と生死苦楽をともにし、人民の幸福のために献身する、人民の領導者であるということを、深く認識させることです。もし、偉大性を強調するために、首領の革命活動と風貌を神秘化するならば、真実を隠してしまうことになります」

神秘主義を捨て、自分の存在を国民や国際社会に存分にさらす独自のスタイルが、兵器開発の情報公開にも影響したのかもしれない。

だが兵器類の情報に関しては、ウクライナに侵攻したロシア軍の劣勢や、台湾問題などを巡り中国に対する米国と同盟国の包囲網が強化されるなどの軍事情勢の変化を受けて、北朝鮮が秘密主義に回帰した可能性もある。

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