「銃撃事件」がテーマの映画が国葬当日に緊急上映 監督は「僕自身、間違いを何度となく犯してきた」

本編上映前、武道館周辺にいる足立監督との中継映像がスクリーンに映された

7月8日に発生した、安倍晋三元首相の銃撃事件をテーマにした映画『REVOLUTION+1』が、9月27日、元首相の国葬にぶつけて全国9カ所で緊急上映された。

同作は、15日にタイトルと主演が発表されたばかりで、未完成だが、今回、上映されたのは約50分の短縮版だ。

緊急上映は、27日を挟んで26日と28日の3日間、各館1日限定(名古屋「シネマスコーレ」を除く)でおこなわれる。上映館は計12カ所。完成版は年末ごろに公開される予定だ。

監督は元日本赤軍メンバーだった足立正生氏(83)。脚本は足立監督と、『戦争と一人の女』(2013年)などを監督した井上淳一氏(57)の共作だ。足立監督と井上氏は世代が異なるが、ともに故・若松孝二監督(享年76)の先輩・後輩の間柄。若松氏は時事的な問題をピンク映画で取り上げ、ヒット作を量産した奇才だった。足立氏は、その作品の多くに脚本を提供してきた。

公開日をあえて国葬の日に合わせる挑発的な姿勢には、SNSなどで批判が殺到し、歌手の世良公則(66)も25日にこんなツイートをした。

《元テロリストが安倍元総理殺害 山上容疑者を映画化 国葬儀前先行上映との報道 この異常な状態を許す それが今の日本 国・メディアは全力でこれに警鐘を鳴らすべき》

さらに世良は26日、自身に対して繰り返し批判のツイートが投稿されていると明かし、《事務所から警察に報告する案件であるとの連絡を受けた》とも綴った。

射撃練習をする川上(劇中画像)

それに対し井上氏は、27日、東京・渋谷の「LOFT9 Shibuya」での上映後、足立監督とゲストとともに登壇したトークイベントで、「作品を観ないで批判されるのは納得しかねる」と憤った。また、鹿児島での上映が、会場の映画館の入ったデパートへの抗議電話によって中止に追い込まれた事情を説明。その時点では上映素材が間に合わず、「誰も観ていない作品なのに」と眉根にしわを寄せた。

国際政治学者の三浦瑠麗氏(41)も9月24日、《殺された人と遺族の思いには寄り添わず、殺した人の思いにばかり寄り添ってきたのが、この夏の日本でした》とツイートした。だが同日《映画を上映中止に追い込むのは感心しないし、良くないことだと思います》とも投稿している。

26日の「新宿ロフトプラスワン」、27日の「LOFT9 Shibuya」での鑑賞チケットは即座に完売。27日は上映冒頭、日本武道館周辺にいる足立監督と会場との中継映像がスクリーンに映し出され、「国葬の現場にどうしても立っていたかった」と足立監督は語った。

そこで足立監督は、抗議のプラカードを掲げていた男性が「翼賛的な人々」に囲まれ、「出ていけ」と暴言を浴びせられる場面にも出くわしたという。足立監督自身も、その場に集まる若者をつかまえて意見を聞こうとしたが、周囲のスタッフに止められたと苦笑する。本人曰く、「安倍政権でどんな利益を得たのか聞いてみたかった」。

「『国葬粉砕』の意思を伝えるためにも、短縮版でもこの日に上映を間に合わせたかった」とも語るが、コロナ禍で公開が見送られたり、製作を中断したりした映画が大量にあり、どのミニシアターも、当面は上映スケジュールが埋まっているのが現状。完成版の本公開も年末以降となりそうだ。

上映後に登壇する足立監督(中央左)とキャスト

それにしても昨今、これほど突貫で作られた商業映画もなかろう。脚本の第1稿は、井上氏によって8月初旬、わずか3日間で書き上げられた。以降、足立監督と井上氏のキャッチボールで第7稿まで改訂され、8月末、秘密裏にクランクイン。撮影もたった8日間だった。撮影開始から1カ月後には、緊急上映をおこなうスピード感。それが若松映画の持つ、荒々しくもなお色褪せない迫力を生み出している。上映に駆けつけた明治大学文学部の1年生も鑑賞後、「いまだに若松プロ的な作り方を貫いている」と感心しきり。

「僕もメディア学を専攻しており、まず撮ることに意義があるんだと、刺激を受けました。事件については、こんな平和な日本であんなことが起きるのかと、ただただ驚き、まだ気持ちの整理がつかないです」(同)

事件後、わずか2カ月での映画化は、たしかに見切り発車の感もなくはない。当初、大手マスコミは旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の名前を報じなかったが、そんなとき、井上氏は共同通信の記者から、「昔の若松プロならすぐに映画にしている」と言われ、直後に足立監督に連絡したという。そして、各地でライブハウスを経営する「ロフトプロジェクト」の出資が決まった。

作中では、安倍元首相や旧統一教会は実名で登場。事件が生々しく思い起こされる一方で、山上徹也容疑者は「川上」という名にあらためられており、報道からは見えてこないその内面にも立ち入って描いている。作中、何度か主人公が「星になる」と呟くが、当初の足立監督によるタイトル案も『星に、なる』だった。

主人公は、母を洗脳し家庭を崩壊に導いた旧統一教会と、彼らと癒着する安倍元首相を恨む一方で、自殺した父と繋がりのあった革命戦士に、微かな憧れを抱いている。テルアビブ空港乱射事件の実行メンバーである故・安田安之氏と、山上容疑者の父は京都大学時代の麻雀仲間だった、との報道にヒントを得たのだが、彼らの合言葉が「(自爆して)オリオンの三つ星になる」だった。

今のタイトルに落ち着いたのも、「『革命家・映画監督』を名乗る足立さんにふさわしく思えた」からだと井上氏は言う。

「かつての暴力革命は失敗し、この時代の『革命』のやり方はいまだ見えず。山上容疑者の行為によって、自民党と旧統一協会のズブズブの関係が白日の下に晒された。そういう意味では、世の中を少し変えたかもしれない」(井上)

撮影風景

山上容疑者は、今なお大阪拘置所で鑑定留置中であり、裁判記録などでその実像が明らかになるのは、かなり先になる。映画だからこそ、不明な面は想像で埋めていくのだが、当人から察せられない女性の存在が、作品に陰影を与える。井上氏はその意図を説明する。

「母と妹以外に『若い女』『若くもない女』という役名の、架空の2人の女性が登場します。1人は旧統一教会とは別の宗教2世、もう1人は、足立さんに当て込んで革命家2世という設定。そのやり取りも、現実なのか、あるいは主人公の妄想か、区別を曖昧にして描いています」

こうした虚実の皮膜を穿つのが、シュルレアリストを自認する足立監督の演出の真骨頂。そして、この作品が決して「テロ礼賛」映画などではない、確たる証だ。それは、50分の短縮版でもしっかりと伝わってくる。

27日の「LOFT9 Shibuya」では、衆議院議員の小川淳也氏を追った傑作ドキュメンタリー映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』を撮った、大島新監督(53)が自らカメラを担ぎ、足立監督らの様子を追っていた。日本各地の「国葬」の1日を捉える、ドキュメンタリーを製作中という。大島にとってもその日、もっとも注目すべき出来事はこの上映会だったという。

「観るうちに、主人公の孤独が切実に伝わってきて、胸を打たれました。宗教2世など、特異な環境に置かれた者だけでない、現在の若者が抱える普遍的な孤独を描いていました」

足立監督もトークセッションの最後、「僕は現在の若者を100%、肯定する」と語った。イベント終了後、その真意を問うと、こう答えた。

「僕自身、過去(の新左翼活動)に向き合い、ずっと総括を続けてきて、間違いを何度となく犯してきた、とわかっている。若ければ間違いを犯すもんだが、それを恐れちゃいけない。でも、いまは世の中が窮屈になる一方だから、若者はとかく失敗を恐れる。そうしたしくじりを含めて、彼らを認め、その先に進められるようにしてやらないとね」

そう自らに言い聞かせるように語ると、83歳になる“若者”は足速に、その日の夜にイベントがおこなわれる名古屋へと向かった。足立監督は作品を通じ、「観客と対話を重ねたい」とも語った。『REVOLUTION+1』は今後も物議をかもし続けるだろう。

文・鈴木隆祐

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