『ゴッドファーザー』製作舞台裏をドラマ化! 本物マフィアから妨害も!? U-NEXT『ジ・オファー/ゴッドファーザーに賭けた男』

『ジ・オファー / ゴッドファーザーに賭けた男』© 2022 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

『ゴッドファーザー』の完成は奇跡だった!?

映画史に残る名作であり、ギャング映画の金字塔なのは間違いのない作品『ゴッドファーザー』(1972年)。U-NEXTで独占配信中の『ジ・オファー/ゴッドファーザーに賭けた男』は、その傑作ができるまでの制作陣の苦闘を描いたドラマシリーズだ。

主人公はTV業界出身の新人プロデューサー、アルバート・ラディ(マイルズ・テラー)。彼が文字通り映画業界の右も左も判らない状態から、“ゴッドファーザーを作った男”になっていく話である。しかし、今でこそ名作の誉れ高き『ゴッドファーザー』も、「聖書の次に売れた」とまで言われたベストセラーの映画化は最初から困難を極めた。

まず当時、ギャング映画はすでに時代遅れのジャンルだと思われていた。配給・制作会社自体にも余裕がなかった。経営も傾き、ガルフ&ウエスタンの子会社となっていた老舗パラマウント。攻めた企画よりも、少しでも儲かる企画を上層部は要求し、有名役者の起用やポスターのデザインなど、ことごとくラディと衝突する。

まだ無名役者だった主演アル・パチーノだけでなく、監督のフランシス・フォード・コッポラ(ダン・フォグラー)をも降ろそうと暗躍する上層部との対立は熾烈で、会長に見せるラッシュ映像の編集の仕方(いいシーンを見せようとするラディと、その逆の経営陣)を巡る、まるでプロパガンダ合戦のような攻防も描かれている。

「予算がかかるから、いっそ現代を舞台にしろ」などという無理解で無茶な会社側からの要求など、我々の知っている“あの『ゴッドファーザー』”が完成するにいたるまでは、まさに困難の連続。見ていけば行くほど、あの映画が完成したのは奇跡のようなことだったと思わずにはいられない。

なぜシナトラは『ゴッドファーザー』を妨害したのか?

そして大問題となったのが、本物のマフィアとの関わり方だ。映画内でマフィアに泣きつく歌手、ジョニー・フォンテーンのモデルになったと言われたフランク・シナトラが、まず大きな障害だった。

当時すでに芸能界のドンであったシナトラからの様々な妨害に加え、「イタリア系への偏見を助長する」と団体まで立ち上げて映画をつぶそうとするNY在住マフィアの妨害。危険を冒して大幹部に脚本を見せ、「マフィア」という文言の登場回数を巡り交渉するラディ……。『ゴッドファーザー』という映画が完成することは誰でも知っている、それなのに「ど、どうなってしまうんだ!?」と手に汗握る展開の連続である。しかも、せっかくまとまりかけたところでマフィア同士の抗争が激化……。

これだけ妨害にあってもNYロケを敢行した『ゴッドファーザー』。のちの『スカーフェイス』(1983年)は住人が反対運動を起こしたため結局マイアミでの撮影はできず、LAにマイアミを再現せざるを得なかったことを考えると、また凄みが増す。ほかの映画メイキングでは絶対にあり得ないようなエピソード満載である。ちなみに、マフィアのメンバーとして元祖“超人ハルク”のルー・フェリグノが元気そうな姿を見せている。

実在の登場人物を関連作品で確認してみたくなる楽しみ

異常なディティールへのこだわりや、うまくいかないとすぐに癇癪を起こしヘソを曲げてしまうなど、すでにコントロールマニアぶりが遺憾なく発揮されているコッポラをなだめたりもしなければならず、ラディは絶えず会社と現場との板挟みで、さらにマフィアの相手もしなくてはならない。問題山積み、というか問題を解決していくことしか映画の現場には存在しないとさえ言える。

タイトル通りのオファー、つまり「断れない申し出」を方々から受け、コントロールし、捌き、作品完成に結びつけていく……。つまりラディは猛獣使いで、サーカスの団長なのだ。「『ゴッドファーザー』を作った男」でもあるが、同時に「作らせた男」でもあることが描かれていく。

映画の中心となるマーロン・ブランド(ティッシュと靴墨だけでビトー・コルレオーネに変身する役者ぶりに映画の魔法を感じる)とアル・パチーノなど、主要キャストの再現度にも目を見張る。このクオリティなら“役者側からの『ジ・オファー』的作品”も見てみたくなる。それ以外にも、直前のパラマウントの大ヒット作『ある愛の詩』(1970年)主演女優として登場するアリ・マッグロー役が実物に激似だったりと、異様に再現度が高いので、関連作品を確認してみる楽しみも増すというものだ。

また、『フレンチ・コネクション』(1971年)でロイ・シャイダーの演じたクラウディ刑事のモデルになったソニー・グロッソが、NYロケの周辺警備とガイドを勤めたことも描かれている。70年代の映画業界の再現度も高く、描かれる業界人のパーティは雰囲気も曲も当時の空気をよく再現しており、『ワイルド・パーティー』(1970年)や『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年)的である。『ゴッドファーザー』のオープニングでブランドの抱いている猫はその辺の野良だったことや、シチリア島での忘れようのない名シーンの危険な裏側などの秘話も明かされる。

描かれる史実、描かれない真実

権利の問題か、本作では『ゴッドファーザー』本編の映像は使用されない。しかし、それでどう名場面の撮影を表現するのか? そこが観る側の記憶と想像力をかき立てるのである。原作者、マリオ・プーゾとコッポラの脚本執筆時の会話などから、後に有名になるシーンの再現、誕生を想起させていく。そして、マーロン・ブランドの誕生会に招かれた出演者たちのやり取りから、コルレオーネ・ファミリーの食卓を想起させる。さらに、作中の名セリフを意外な人物に言わせるなど、思わずニヤリとしてしまうシーンが多い。

撮影シーン以外の描写にも『ゴッドファーザー』の萌芽があちこちに見られ、もちろん撮影シーンも多く描かれる。ヴィトー・コルレオーネの襲撃シーンと実際のマフィアの抗争との、見事なカットバックは必見だ。

数多くの名シーンを直接映さずに、撮影現場のラディやコッポラたち、また劇場の観客などの顔やリアクションで想像させたりもする。これが可能なのは、やはり『ゴッドファーザー』がクラシックであるからこそであり、見ている我々の脳内に名シーンは蘇っているはずである。

微妙に時期がドラマ的に変えられていたりするものの、描かれていることはほぼノンフィクション。むしろ経営陣の要求は実話のほうがより滅茶苦茶だったりするので、描かれていない要素も多い。

ラディがコッポラに映画化を持ちかけに行くときに、後ろにどう見てもジョージ・ルーカスっぽい人がいる。これ、実際はコッポラが監督を引き受けたのはルーカスからの励ましや働きかけがあったからだが、物語上はカットされている。

また、このドラマを受けて最近、コロンボ・ファミリーの幹部だったマイケル・フランゼーゼがYouTubeで、「ラディに揺さぶりをかける西海岸伝説のギャング、ミッキー・コーエンは、その時ムショにいたので関与していない」「ネズミの死体で脅迫、とかもやっていなかった」と告白している。

このようなドラマと現実の差に「本当はどうだったのか?」と目を向けることで、より『ゴッドファーザー』の周辺文化を掘ることができる作品でもある。

“スクリーンの魔法”を熱望する人々が作り上げた『ゴッドファーザー』

『ジ・オファー』で何より印象に残るのは、登場する制作陣の情熱だ。別の職業、人生ならば普通は大事にし最優先にする家庭の幸せ。そういう物を捨てても構わない、それをおいてもすべてを映画に賭けずにはいられない、そんな映画人の情熱が描かれている。役者だけでなく制作陣や経営陣、もしかしたらマフィアも、立場は違えど映画の持つ魔術の魅力に魅せられてしまったのかもしれない。そして、その「スクリーンの魔法」を自分でも使ってみたいと熱望する人の情熱が結晶化した作品が『ゴッドファーザー』だったのだ。

本作は、『ゴッドファーザー』を見たことがある者はまた見直したくなり、未見の者は「こんな苦難を越えて完成した映画は、果たしてどんな映画だったのか」と興味を持つ。つまり、どちらにしても激しく『ゴッドファーザー』が見たくなるドラマであることは間違いない。それだけでなく、作中で言及されたり撮影現場が登場する『明日に向って撃て!』(1969年)や『ゲッタウェイ』(1972年)、そして『ローズマリーの赤ちゃん』(1968年)などポスターが貼られている作品まで、当時の映画世界すべてに改めて興味を持たせてくれる作品だ。

文:多田遠志

『ジ・オファー/ゴッドファーザーに賭けた男』はU-NEXTで独占配信中

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