ヤッホーブルーイング、来春に世界初のバックスクリーン醸造所を開設 井手社長「地域活性化に」 単独インタビュー(後編)

―北海道日本ハムファイターズ(以下、ファイターズ)が北海道・北広島市に建設中のボールパーク内に来春、醸造所を新設する

 球場の回りをボールパーク化し、球場の一等地であるバックスクリーンの中に、世界初のビールを作って飲むレストランができる。来年3月に完成予定だ。ブルワリーレストランから野球を見られるのは世界で初めてになる。ボールパーク内の野球を見られないような場所にビールレストランがあるケースは米国にいくつかあるが、本当に試合を見られるところはない。

―出店経緯は

  最初はOEMのような形で、ただ「ビールを作ってほしい」という依頼だった。正直あまり気が乗らなかった。ただ、(ファイターズと)一緒に何かやりたいと逆提案したら、先方のトップも受けてくれた。
 当社は、北海道にこれまで拠点を持っていなかった。球場で飲んだ方が店頭で購入してくださる機会が増えるし、店頭でビールを買ってくださった方が球場のレストランに足を運ぶ機会もできる。ビール作りの見学ツアーや、コロナ収束後には球場の敷地内で大型ビールイベントもやりたいと思っている。こうした取り組みは地域活性化の活動にもなる。ファイターズと協力しながら、お互いに創客し合うことが出来る。
 相乗効果があるような形でスーパーやコンビニで扱ってもらいたい。ゆくゆくはセイコーマートにも置いてもらいたい。

―シーズンオフは

 試合がなくてもレストランは営業する。今は工事中だが、整備されるときれいな公園になる。試合がなくても、景観の良いところでおいしいビールと食事ができる。野球に熱狂して飲むのも良いし、雄大な自然を楽しみながら、のんびりとリラックスしてビールも飲める。ボールパークには、有名企業も出店予定なので、公園内の広い芝生で皆さんと一緒にイベントをできれば、と考えている。

―利便性は

 北広島駅から車で5分ぐらいのところになるので、電車で来た方はバスやタクシーを使う。車で来られた方は飲酒出来ないが、球場の目の前に数年後には駅ができる予定だ。また、駅の周りの再開発でタワーマンションができる計画もある。公園の中にホテルや遊べる施設なども計画されていて、そこに滞在する方の利用も見込める。

やっほーファイターズ

‌ビアレストランが球場内に開設される(提供画像、©H.N.F.)

 

―宅配事業が好調と聞く

 数値系はあまり公開していないが、インターネット通販だけではなく、定期的に宅配するサブスクサービスをだいぶ前からやっている。この会員が年々増えている。コロナ禍での巣ごもり需要で定期会員が急激に伸びた。ここはまだ伸ばせると思っている。
 インターネット通販は、当社が成長していくきっかけにもなった事業だ。コンビニやスーパーに置いていただけるといっても、大手メーカーほど津々浦々に置いてもらえる状況になるには時間がかかる。インターネット通販は場所を問わずに買える唯一の手段でもあり、何倍にも広げていく。

―低アルコール商品も発売した

 低アルコール商品は、新しいマーケットの可能性を感じる。例えば大手のノンアルビールは、普段ビールを飲んでいる人たちが「飲めないシチュエーション」での代替え需要を取り込んでいる。運転しないといけないとか、妊婦の方とか。他のソフトドリンクを普段飲む人たちに好んで飲まれている。今までのノンアル飲料とはまったく違うフレーバーだ。
 なので、どれくらい市場で取り込めるのか、期待している。これまで当社の商品に興味、関心のなかった層を取り込みたい。

―関西(泉佐野市)に醸造所をつくった。今後の計画は

 今のところない。北海道も泉佐野市も熱烈なオファーがあった。ちょうど関西を拡げていきたいと思っていたし、北海道も未開拓の地だが、ファイターズといい取り組みができるので拠点を作ることになった。
 こちらからだけでは判断できない、いろいろな要素が絡んでくる。こちらから「新しく進出したい」と言って安易に成功できるような規模も知名度もない。ただ、泉佐野も北広島も、必ず盛り上がる拠点になる。

 井手社長は、通販サイト「楽天市場」に出店する自社店舗で店長を長らく務めていた。このため、社内でのニックネームは「てんちょ」だという。実店舗と違い、実物に触れず、試飲もできない環境でも楽天市場で「ベスト店舗」の1つに選ばれ、活躍は広く知られている。
 井手社長率いるヤッホーブランドの認知の高さは「ブランディング力」だろう。大手メーカーのビールと異なる特別感のある味やパッケージはもちろん、音楽フェスさながらのファンイベントの開催や、ビールとは離れたイメージのアニメーションイラストを打ち出して販促に利用するなど、これまでの酒造会社がやらなかった取り組みに次々に挑戦し、成功している。こうした大胆な取り組みが耳目を集めるが、その裏では消費者ニーズを子細に把握し、反映させる市場調査やブランディング活動を欠かさない。
 人口減少に加え、長引くコロナ禍でアルコール消費量は頭打ちだが、一人勝ちとも言えるヤッホーの姿勢は、業種に関わらず学ぶところが多い。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2022年9月29日号掲載予定「WeeklyTopics」を再編集)

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