布袋寅泰、渡邉貢、高橋まことらとGENETが創り出したAUTO-MODの1st『REQUIEM』に遺る新たな音楽潮流

『REQUIEM』('88)/AUTO-MOD

今週は当初、別のアーティストの作品を予定していたのだが、わりと直前になって、担当編集者から“こんなニュースがありますよ!”とメール。見れば、“GENETと渡邉 貢(PERSONZ)が、AUTO-MOD Clas-sixを結成! 下北沢SHELTERでライヴも開催”とある。確かにビッグバンドニュース。“だけど、手元にAUTO-MODの音源がないっスよ”と返信すると、“あります!”と即行で送ってくれた。そんなわけで、その情熱にほだされて、AUTO-MODの1stアルバムを、バンドの現況も交えて紹介する。

今、再び覚醒のAUTO-MOD

筆者はAUTO-MODの活動をつぶさに追っていたわけではないし、それどころか、正直言って1984年の伝説的オムニバスアルバム『時の葬列』くらいしか、これまでしっかりと聴いたことがなかったのだけれども、本稿作成にあたってバンドの足跡をザっと洗っただけでも、AUTO-MODという存在がGENET(Vo)にとって格別なものであることを痛感する。1985年で一度解散するも、1996年にAUTO-MOD1999として復活。そして、その翌年1997年からは再びAUTO-MODとして活動を続けている。彼の表現の場の大部分はAUTO-MODで占められていると言ってよく、完全にライフワークであろう。

ごく最近の活動をさらってみても、渡邉 貢(Ba)との“AUTO-MOD Clas-six”の他、沖縄電子少女彩とのコラボレーションによる“AUTO-MOD DTD with彩”でもライヴを敢行。派生ユニットと呼ぶべき活動も盛んの様子。本体のほうも、今夏メンバーが脱退したものの、先頃、元AIONのDEAN(Ba)と元Z.O.A、元GASTUNK、DOOMのPAZZ(Dr)の加入が発表された。加えて、GENET曰く“ロックレジェンド3人に睨まれても跳ね返すパワーとテクを身に付けたハイブリッドギタリスト”というTAKASHI "Tak" NAKATO(Gu)を加えた新編成で今後は活動していく。この本体は他のユニットと区別する意味なのか、どうやらKING AUTO-MODとも呼称されるようである。2022年11月3日には、ゲストに“Clas-six”と沖縄電子少女彩を迎えて、KINGの初お披露目ライヴが開催される予定である。ここに来て、まさに縦横無尽なGENETである。自身が“やりたい事が多すぎて…(笑)”とツィートしていたことに偽りはあるまい。先日の“Clas-six”のライヴにて渡邉貢が“これからじゃない、GENETの時代は”と述べたという話を聞いたが、それがまったくリップサービスに聞こえないばかりか、正確に現状を捉えた上での発言であったのだろう。11月のライヴタイトルは『AUTO-MOD “時の葬列-覚醒のレゾナンス-”』だそうで、文字通り、GENETは覚醒の時を迎えていると言って良さそうだ。

さて、そんなGENETのライフワーク、AUTO-MODの記念すべき1stアルバムが『REQUIEM』である。件の“やりたい事が多すぎて…(笑)”というGENETのツィートではないが、本作もまた、この時点で彼が音楽的にやりたいことを詰め込んだ作品ということが言えると思う。明確なコンセプトアルバムという感じではないけれども、作者が“こういう音楽を創ろう”“ こういう作品にしよう”ということが伝わってくるアルバムである。時代性も反映されている。1983年発売ということで、ポストパンク~ニューウエイブの影響をモロに受けていることは想像に難くない。

その辺りは、Wikipedia先生の解説が明快だ。[GENETは1978年日本のパンクムーブメントのきっかけを創る事となった東京ロッカーズにWORST NOISE、MARIA023などのバンドとして参加。剃刀でギターを弾き血まみれになるなどの破滅的パフォーマンスとその強烈な個性でロックシーンに躍り出た。その後GENETは1979年秋から1980年中期までロンドンに滞在し、バウハウスやクラスに多大な影響を受け帰国。帰国後直ぐにラディカルな主張と表現行為としてのロックを追求するバンドAUTO-MODを結成する]とある([]はWikipediaからの引用)。AUTO-MODの正式なプロフィールを掲載した公式なサイトは本稿作成時に確認できなかったのだが、非公式サイトやファンのブログなどを確認したところによれば概ね間違いはないようである。GENETの出自が東京ロッカーズにあり、ゴシックロック先駆者のひとつであるBauhausや、ロンドンパンクムーブメント終息後のバンドであるCrassからの影響があったとすれば、その音を聴くまでもなく、彼のスピリッツは想像できる。パンクロック以降の新たな音楽的な潮流を日本で模索しようとしたアーティストであることは火を見るより明らかである。音を聴けばさらに明確だ。以下、ザっと解説する。

BOØWYとPERSONZとのアンサンブル

オープニングはM1「乾いた夜」。会場内のざわめきと開演を告げるブザーの音から始まる。The Beatlesの『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』と比べるのはどうかとも思うが、雰囲気はそれに近い。この音源はライヴレコーディングされたもので、この冒頭部分はあとから加えたもの。つまり、これはサウンドエフェクト、効果音である。こうしたあとでダビングした箇所はM1以外にも随所にある。単なるライヴ盤でもスタジオ録音でもなく、こうした手法を取ったことにはさまざまな要因があったのだろうけど、何か新しいことをやろうとする意欲は大いに感じるところではある。

SEに続いては、ややファンキーな印象のベース。そこに、単なる8ビートではなく、そのベースラインに呼応するドラミング。ど頭のリズム隊からして、旋律といいリズムといい、ポジティブパンク、ゴシックロックの匂いだ。そこへ徐々にディレイが深めのギターが重なっていき、その匂いが楽曲全体に強く解き放たれていく。わずかにブルージーなコード進行であって、メロディアスというよりは奔放に“かき鳴らしている”という印象のギターだが、乱暴な印象は薄く、ポップさすら漂っている。そして、歌。個性的なサウンドに負けない存在感と言ったらいいだろうか。シアトリカルな歌唱という印象であり、楽曲の世界観をリードしているのは間違いなく、GENETのヴォーカリゼーションだ。歌詞と相俟って退廃的であり耽美な世界を創り上げている。ヴォーカルが主線で、サウンドが色付けしている感じだろうか。前半は比較的淡々と進行していくのに対して、案外(と言っていいかどうか分からないが)サビメロはキャッチーで、間奏のギターソロはメロディアス。前衛的ではあるものの、決して難解でも奇抜でもない。それもそのはず…と言うか、ここまで当時のメンバーを紹介してこなかったけれど、ご存知の方も多かろうが、その名を聞けば納得していただけるだろう。布袋寅泰(Gu)、渡邉 貢(Ba)、高橋まこと(Dr)である。布袋、高橋はこの時期BOØWYと並行してAUTO-MODのメンバーとして活動しており、渡邉もこの直後にPERSONZの前身バンドであるNOTHING PERSONALへ参加している。皆、元来の大衆性を隠すことなどできなかったということではなかろうか。もしくは、GENETが彼らのポップさを上手くハンドリングしたか。いずれにしても、最初期のAUTO-MODにしっかりとポップセンスが注入されていたことが確認できるM1である。

M2「Friend」は、布袋のキリキリと鳴るギターを8ビートのリズム隊が支える疾走感あるナンバー。歌の背後ではアルペジオになるギターは幻想的であって、のちのいわゆるV系バンドへの影響をうかがわせるところである。サビメロは開放的でありつつ、ドライヴ感も損なわれておらず、全体的にはパンクな印象。サビにはコーラスがダビングされているようで、特に後半の当該箇所は楽曲のスリリングさを増すに十分な効果を上げているように思う。

M3「破壊へ」は冒頭にオルガンやサックスの音色の背後に(おそらく)ヒットラーの演説の音源を重ねている。ミドルテンポで、とりわけ前半は楽器演奏が少なめで歌が前面に出ていることから、M2からの繋ぎを考えてもこのSEは正解であろう。各楽器の演奏は、ベースを除き、全体を通してフリーキーで、そこが楽曲全体のダークな雰囲気に上手く呼応している。ベースは淡々とした同じフレーズを繰り返していくが、そこがまた暗澹たる空気を演出しているようではある。

そこから一転、M4「Identical Nightmare」は4つ打ちナンバー。ポストパンク、ニューウエイブの中でも、ニューロマンティックに近いかもしれない。ポップだし、AUTO-MODの多彩さを示す好例と言えるだろう。とりわけ歌の絡むサックスがいい。David Bowieの『Let's Dance』の辺りにも似た雰囲気で、ダンサブルさに拍車をかけているように思う。この辺にもGENETが渡英した影響があるのだろうか。また、間奏でのギターのカッティングは実に布袋らしいシャープさでカッコ良い。布袋のカッティングというとBOØWYの「BAD FEELING」が有名だが、「Identical Nightmare」にその原型があったと考えるのは穿った見方だろうか。

続く、M5「戦場」はさらにテンポがアップするが、布袋がかき鳴らすギターも健在。サックスも活き活きと鳴っていく。印象的なのはドラム。タムを多用するジャングルビートと言ってもいいドラミングがイントロ~Aメロの背後を支えている。この辺もポジティブパンク、ゴシックロックっぽい。それでいて、Bメロ(というかサビ?)で8ビートに展開する辺りは、その歌メロをキャッチーに聴かせる工夫が施されているような気がして、この辺にも隠し通せないポップセンスを感じるところである(別に彼らはポップさを隠そうとはしていなかったのかもしれないけれど…)。

ポストパンク、ニューウエイブを実践

M6「Feature Sex」からはアナログ盤でのB面。そのM6は今も他ではあまり聴かないという意味では、まさにニューウエイブと言えるナンバーだろう。妙な…と言ってもいい不思議なギターリフから始まる。これまたダンサブルで、ジャンル分けすればファンクと呼んでよかろう。タイトルからしてもそうだし、《Sex Machine》という歌詞も聴こえてくるので、James Brownに対する意識があったのかもしれない。ただ、筆者個人の感想を言わせてもらえれば、いわゆるファンクとはだいぶ違う印象ではある。セクシーではあるように思うが、JBのそれとはタイプが異なる。不思議な妖艶さと言ったらいいだろうか。サビでは4つ打ちになる。シンセが入っているわけではないようだが、ここはテクノポップのようだ(この辺でもポップさが自然と滲み出ているように思う)。間奏も面白い。ギターソロはオキンワンなメロディーを奏でるし、ドラムはマーチングビートっぽい。あまり聴いたことがないフレーズだ。2番のあとの演奏ではブレイクを連続させるなど、バンドアンサンブルの躍動感も示している。とにかくいろんな意味で面白く、魅力的なナンバーである。

そんなM6のあとだから…というわけでもなかろうが、イントロからベースラインが全体を引っ張るM7「バンピレラ」は、かなりスタンダードなロックチューンに思える。長めのイントロでメロディアスなサックスが彩ることも、例の布袋カッティングが重なることも、そう思えってしまう要因だろう。楽曲が進んでいくと、歌にトーキング気味の箇所があるところなど、やはりひと筋縄ではいかない部分も垣間見えるものの、間奏のサックスやギターにはアーバンな雰囲気すらあって、AOR…とまでは言わないけれども、言わばロック史のマナーに則していると感じるのは面白いところだ。

その意味では、M8「異国の幻想」もいい。レゲエである。ダークな雰囲気で、まさに「異国の幻想」といった感じだ。ロンドン発祥のパンクバンドのひとつ、The Clashがその3rd『London Calling』でスカ、ロックステディ、レゲエを自らの音楽に取り込んだことを思えば、ポストパンクを標榜していたAUTO-MODがこうしたタイプをやるのは自然なことだったかもしれない。文字通りのニューウエイブと言える。

アルバムのフィナーレはタイトルチューンM9「レクイエム」で締め括られる。これもまた冒頭からSEを加えている上、随所でコーラスをダビングしており(アウトロはでモノローグ的なボーカルを足している)、疾走感あるロックンロールに不思議な世界観を加味している。サックスがリードする箇所もわりと多く、ニューウエイブなソウルミュージックといった雰囲気もある。アウトロでのギターソロはまさに布袋メロディー。今となっては安定感がある。

このアルバム『REQUIEM』は、ジャケットをイラストレーターの丸尾末広が手掛け、ライナーノーツが同梱(?)された仕様でリリースされた。限定2000枚が即完売したという。まだまだアンダーグラウンドなシーンだったとは言え、当時のリスナーがAUTO-MODにどれほど期待していたかが分かるだろう。その後のバンドがどうなったかというと、その顛末は以前このコラムでオムニバス盤『時の葬列』で取り上げた時に書いたので、できればそちらをご参照いただきたい。結果から言えば、何だかんだあって1995年の時点でバンドは解散を選んだわけだが、冒頭でも述べた通り、GENETはまた新たなメンバーでAUTO-MODを継続していることから、彼はまだまだ意欲的であることは言うまでもないが分かる。ポジティブ(=積極的、前向き)パンクとはよく言ったものだ。音楽的な探求心ばかりではなく、そこには継続的に活動する精神も含まれているのだろう。GENETは日本のポジティブパンクを牽引していたアーティストであり、日本のゴシックロックの元祖とも呼ばれているようだが、その称号はまさに彼にこそ相応しいのである。

TEXT:帆苅智之

アルバム『REQUIEM』

1988年発表作品

<収録曲>
1.乾いた夜
2.Friend
3.破壊へ
4.Identical Nightmare
5.戦場
6.Feature Sex
7.バンピレラ
8.異国の幻想
9.レクイエム

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