極東ファロスキッカー - 分断の時代に混迷する世界に向けて臆面もなくラブソングを唄うギンガ系ロックバンドの覚悟と矜持

作品のクオリティはどんどん上がっている

──2019年7月の初ライブ以降、2020年春に初音源『PHALLUS KICKER』、2021年12月にDVD『PHALLUS KICKER_DVD 2021』、そして今年は2nd EP『LOVE FROM FAR EAST』と、年に一作リリースを順調に続けているのはバンドがすこぶる好調な証なのでは?

秀樹:このバンドが楽しいからなのはもちろんなんですけど、コロナの影響もありますね。策を練りつつライブをブッキングしていくのがままならないのなら、創作活動に活路を見いだして前へ転がしていくしかないかなと。バンドは本来、ライブをやりながら作品づくりをしていくものだけど、なかなかコロナが収束しないので。ただ、作品のクオリティがどんどん上がっていくのが自分では面白いなと思って。

──ファロキ以外にもVERUTEUXやHIDEKI & HARD PUCHERS、Let's Go MAKOTOØ'Sを並行して続けている秀樹さんの止まらぬ創作意欲が凄いですね。

秀樹:いや、アイディアのないところを泣きながら振り絞ってますよ(笑)。

ERY:でも、ライブごとに必ず新曲が出来上がってますからね。

秀樹:新曲作りを自分に課しているわけじゃないけど、ライブを告知するにも何かしらのトピックがあったほうがいいじゃないですか。

──打てば響くで、秀樹さんが作ってきた曲に宙也さんが歌詞を入れるペースが早いからこそライブのたびに新曲を披露できるわけですよね?

秀樹:そうなんですよ。宙也さんとはDe-LAXの頃から30年以上の付き合いになるけど、今は思うように会えない時期だからなのか、共作するのが凄く新鮮なんです。

宙也:秀樹の創作意欲が凄いのは、「今のうちにどんどん詞を書いてもらわないと、この人(宙也のこと)そのうち死んじゃうんじゃないか?」と思ってるからだと思うよ(笑)。

──春先に入院もされましたしね。今はお元気そうですけど。

秀樹:そう、宙也さんが入院したことでファロキのリリースが遅れたんですよ(笑)。だから決して順調に続けてこれたわけじゃないんです。ファーストもコロナ禍になってすぐレコーディングしたけど、コロナがこの先どうなるか分からないから様子見でリリースしたし。今もずっと模索しながら続けている感じですね。

──メンバー各自のSNSやYouTubeのコメント動画を見る限り、4人がとても楽しくバンドをやっているのが伝わってくるし、それが原動力なのかなと感じるのですが。

ERY:この前、ファロキの結成当初のライブ映像がYouTubeにアップされたんですけど、もう3年も経ったんだなと思って。今もずっとフレッシュな気持ちでやれてますね。それは思うようにライブをやれていないからかもしれないけど。

レイコ:3年も経った気がしないし、まだ始めたばかりの気でいるし、まだまだ必死です(笑)。

──ファロキは全般的にBPM高め、テンポの早い曲が多いですしね。

宙也:俺らの年齢にしては早い曲が多いかもね(笑)。

レイコ:テンポは中途半端に早いのが多いんです(笑)。もっと早いともっとラクなんですよ。BPMが170くらいの8ビートが多いので、ある意味ハードなんです。「Dead Road」とかあの辺の曲は最初しんどかったですね。でもしっかり刻みたいし、抜いてごまかしはしたくないので。

ERY:私が他でやってるバンドはBPMがもっと早いんです。220、230とかが多いので。それに比べてファロキは落ち着いて弾くイメージですね。攻めの姿勢はもちろんあるけど、ワーッと勢いだけで行くと言うよりは情緒みたいなものがファロキにはあると思っていて、そういうプレイを意識していますね。

3人が気に入るようなボーカリストでありたい

──皆さんそれぞれファロキとは別のバンドを続けていますが、ファロキと他のバンドとの一番の相違点はどんなところですか。

レイコ:私は全然違いますね。新曲もファロキの場合は秀樹さんから送られてきたデモを聴いて、スタジオで一度合わせただけでライブでやってみたりとか。それが凄く面白い。それに比べて、スリルラウンジはスタジオでジャムって曲作りをしていくんです。誰かが弾き始めて「それいいね」と音をどんどん被せていって、形になってきたら歌詞を載せるやり方なので全然違う。

秀樹:それが一番理想的な曲作りのあるべき姿だよね。

レイコ:ファロキは秀樹さんのデモという土台があった上で私とERYが「こんな感じかな?」と色付けをして、それに宙也さんが歌詞を載せるんですけど、歌詞の世界観と曲のキャチーさが上手くハマるんですよね。その2人の連携プレイはさすがだと思うし、おそらく秀樹さんにはあらかじめ曲の完成図が見えているんだろうし、私やERYのプレイはこう来るだろうという読みもあると思うので、新曲のリハは凄く緊張するんです。でもその緊張を含めて曲作りは面白い。

ERY:音楽業界全体の中では私はもう若手じゃないですけど、このバンドにいると一番の若造、まだまだヒヨッコという立ち位置なので(笑)、ライブでもちょっと尖った部分ややんちゃさを私が担うのかなとは思っていますね。

Photo by Yoan Clochon

──宙也さんはどうですか。アレルギーやDe-LAX、LOOPUSと比べて歌の艶やかさがファロキでは格段に増している印象を受けますけど。

宙也:男性度と女性度のバランスみたいなものは全然計算していないけど、そういうのはサウンドによって出てくるものだし、自分としては音に身を任せているだけだからね。ただ、バンドが違えば曲作りも歌詞の作風も自ずと変わるよね。本来はバンドごとに分けたくないし、公私も分けられるものじゃないと思っているし、流れに身を任せていたらこうなったという自然な形が理想なんだけど、そのバンドのメンバーがボーカリストをどう思っているのか、どう唄って欲しいのかに左右されるところはある。同じバンドのメンバーには俺のファンでいて欲しいし、そういうバンドは絶対に格好いい。だからこの3人が気に入るようなボーカリストでありたい、みんなに納得してもらえるような歌詞を作りたいと常に意識してる。あと、男女平等という意識はもちろんありつつ、男のほうが立場は上だという昭和的価値観が拭えないときがたまにあるけど、世代や性別の違うメンバーと一緒にもの作りをするとその辺りを気に留めなくちゃいけないことも出てくるし、還暦を過ぎたあともそうした経験ができるのは良かったと思う。

──秀樹さんという理解者の存在も大きいですよね。さっきレイコさんが話していたように、宙也さんの魅力を熟知している秀樹さんが宙也さんを当て書きした曲だからこそ、他のバンドにはない良さが如実に表れている気がします。

秀樹:アレルギーやLOOPUSとは違う宙也さんの側面と言うか、もっと格好良く面白く魅せる方法論を自分なりにいつも考えるし、宙也さんに寄り添うことが大事なんだろうと思いますね。他のバンドとの一番の相違点を言えば、ボーカリストによって在り方が全然違います。VERUTEUXはほったらかしでいいんですよ。こっちがどんなボールを投げてもKen1くんらしく、VERUTEUXらしくなるので。それに対して宙也さんには圧倒的なイメージが確固としてあって、それをどう抽出してポップにキャッチーに魅せるか、普段は投げないボールを投げるとどう返してくるかを考えるし、後ろにいる僕ら3人のアンサンブルが織りなす魅力とはどんなものなんだろうというところからファロキは入っていったので、最初は全くの手探りでした。最初からコンセプトやサウンドのイメージが明確だったらもっとラクだったんですけどね。

──曲作りよりも先にアー写の撮影を優先させたバンドですからね(笑)。

秀樹:そうそう。このヴィジュアルに合う格好いいロックを作らなきゃと考えていた矢先にコロナになっちゃって(笑)。

──でも、3年も経てばファロキらしさが自ずと出てきたんじゃないですか。

秀樹:そうですね、いわゆる“節”が。ファロキ節というのが何となく見えてきた。

──個人的にはあでやかさ、なまめかしさといったセクシュアルなムードがファロキらしさなのかなと感じていますが。

宙也:それは秀樹のプロデュース能力と、レイコとERYのグルーヴの賜物だね。俺が他のバンドと一番違うと感じるのは、ファロキでは自分がプロデュースされているところかな。秀樹のプロデュースが的確で、長けているんだと思う。

何を唄ってもラブソングだし、どんなことを唄っても自由

──今作『LOVE FROM FAR EAST』が5曲収録という体裁になったのは、フルアルバムを出すには時期尚早という考えがあったからですか。

秀樹:小出しにしたほうが話題も増えるし、バンドが動いてる感じもより多く打ち出せるのかなと思ったんです。フル尺のアルバムは今の時代だと重く受け取られるのかもしれないという読みもあって。

──ギター・ソロが敬遠されたり、映画を早送りで観る人たちも多いと聞きますしね。

秀樹:もちろんいずれはアルバムを出したいけど、今はまだミニマムな形でリリースを続けたほうがいいのかなと。これでバンドの知名度的にもライブの動員的にもぐんと上がれば見せ方を考えなくちゃいけないんだろうけど、今の段階ではこのスタイルがいいのかなと思いますね。

Photo by Yoan Clochon

──精選された5曲はどう決めたんですか。ライブで手応えのあった曲を優先してとか?

秀樹:基本的にはそうですね。去年からライブでやってきた曲の中から選びました。

──タイトルに“LOVE”という言葉があるように、ファロキなりのラブソングを集約させた作品のようにも感じます。

宙也:俺が還暦を過ぎたのを境に、これからはラブソングしか唄わないと決めたんです。ラブソングにもいろいろあって、社会に反抗する歌でも内なる陰鬱さを見つめた歌でも全部ラブソングにしてしまいたい。なにも「I Love You」と唄う曲ばかりがラブソングじゃないと思うし。

──ちょっと飛躍しますけど、たとえば「WAR DANCE」みたいな曲でもラブソングだと敢えて言いたいと?

宙也:そう。反戦歌と言われたくないし、あの曲も大きな意味でラブソングだと捉えたい。そういう自分なりのテーマの一つだね。それに何を唄ってもラブソングなんだし、どんなことを唄っても自由でいいんじゃないかと思って。と言うのも、40年以上バンドをやってきて、これだけ多くの歌詞を書いていると「この言葉は前に使ったな」とか「このテーマはあのとき唄ったな」というケースが多いわけ。

──「愛のプロレタリア」の中に「突然の炎」という歌詞が出てきますが、どうしてもDe-LAXの「突然炎のごとく」を連想してしまいますし。

宙也:それはわざと(笑)。

秀樹:ああ、オマージュだったのか(笑)。

──そういう言葉遊びにも似たことができるほどファロキは自由だという言い方もできませんか。

宙也:このバンドはいろんな意味で自由だね。フルアルバムで出すかミニアルバムにするか、CDで出すか配信だけにするかも自由だし、メジャーに縛られてるわけじゃないからね。

──リード曲はミュージックビデオも作られた「愛のプロレタリア」しかないと当初から考えていたんですか。

秀樹:「愛のプロレタリア」を推したいと言ったのは宙也さんなんです。

宙也:秀樹が聞き直したもんね。「エッ、これで行きます?」って。

秀樹:僕は「Godspeed U」が一番分かりやすいのかなと思っていたんですけど、「愛のプロレタリア」は歌詞が今の時代っぽいし、詞先の曲を推すのもいいんじゃないかと思って。ダンサブルなディスコビートに関しては、僕らと同世代の人たちにはクスッと笑っていただければいいなと言うか。

──「世界を支配しようと思う」から始まる台詞を曲中に挿入するのは秀樹さんのアイディアだったんですか。

秀樹:はい。間奏で「何かやってください」とお願いしたんです。

宙也:台詞というオーダーじゃなくて、「ここで何かやって」と言われたんだよね。

──斜め上を行く無茶振りですね(笑)。

秀樹:淡々と喋りを入れても良かったし、何かくださいと。その出てきた言葉に対していろいろエフェクトを掛ければいいかなと思っていたんだけど、あんなにちゃんとした台詞になるとは思わなかったんです。

宙也:え、そうなの?(笑)

──「ボクは元スパイ 国際的なプレイボーイ」というキザな台詞ですけど、宙也さんが話すと不思議と嫌味に聞こえませんね。

秀樹:他の人が喋ると絶対嫌味になるでしょうね。だから僕は宙也さんのことを「東の柴山(俊之)さん」と呼んでます(笑)。

宙也:それは畏れ多いよ(笑)。秀樹の作る曲はブリティッシュ・ロックや50年代のアメリカのロックンロールを踏襲しつつ、昭和の日本の歌謡曲が適度にいい感じでミックスされている。そのバランスがDe-LAXの頃より絶妙なんだよね。歌謡曲的なメロディと洋楽的なロックのリフが混じり合ったファロキみたいな曲って今意外とありそうでないと思う。

ストレートに投げたつもりでも変化球になってしまう

──「ギンガ」はオーディエンスのシンガロングが想起しやすいライブ映えした曲と言うか、ライブを勝ち抜いてきた曲と言えそうですね。

レイコ:でも、「ギンガ」はほぼライブではやってなかった曲なんですよ。

ERY:「愛のプロレタリア」が一番やってなかった曲ですね。他の曲は先にライブでやってましたけど。

レイコ:「Godspeed U」と「春夢 April Cool」はやってたね。

ERY:うん。「Zeee」と「ギンガ」は多少やり始めたくらい。

秀樹:ああ、そうか。さっき言った「ライブでやってきた曲」は後付けでした(笑)。

──「ギンガ」の冒頭のERYさんによるシャウトは挑発的で、ライブで盛り上がりそうですけどね。

秀樹:デモテープの段階でラップみたいなボイス系のパートが頭にあって、そこをERYに言ってもらうのがいいとレイコさんに提案されたんです。

宙也:ラップと言うか、いわゆるMCだよね。

秀樹:ERYのおかげで結果的に上手くハマったし、ライブの目玉になる曲ですよね。

──「ギンガ」は平歌が語りかけるようなボーカルで、ちょっと捻ったユニークな曲調ですね。

秀樹:メロらしいメロがほとんどなくて、同じ音がずっと続くような曲だからニュアンスが伝わるかな? と思っていたんだけど、宙也さんがイメージ通りに唄ってくれたので凄く嬉しかったです。

レイコ:歌のような、語りのような…。格好いい。

宙也:秀樹の作ってきたピアノのメロがタタタタタタタタ…と単調なものだったから、歌も敢えて語るようにしたんだよね。

Photo by Yoan Clochon

レイコ:私、この「ギンガ」の録りでこっそり肩を痛めました(笑)。ファロキはオカズも決め打ちがけっこうあって、そこは絶対に外さないほうがいいというオカズなんです。だからその通りやろうと忠実に叩くんですけど、自分の手癖じゃないオカズはどうしても力んでしまう。それで結局、地味に痛めました(笑)。

秀樹:ご苦労様です(笑)。

レイコ:でも、最初に「ギンガ」を合わせたときに宙也さんの歌を聴いてさすがだなと思って。

宙也:ホント? 俺が唄い出したら笑ってなかった?(笑)

秀樹:あまりにドンピシャでイメージ通りだったから、思わず笑っちゃったんですよ(笑)。

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──性急なビートを刻む「Zeee」は多様な性の在り方を肯定する歌で、今の時代ならではの楽曲と言えますね。

秀樹:個人的にこの曲のテーマは、カントリー・パンクと言うかオルタナティヴ・カントリーだったんです。ちょっとマカロニ・ウェスタンっぽいイントロの雰囲気を意識したんですよ、僕の中では。

レイコ:へぇ。私は「冬の散歩道」みたいな感じだと思った。本家のサイモン&ガーファンクルじゃなく、バングルスのカバーのほう。ちなみに「愛のプロレタリア」はブロンディみたいなイメージ。

秀樹:なるほど、さすが80年代(笑)。

──「Zeee」というタイトルは歌詞にも出てくる“Ze”を膨らませたものですよね?

宙也:そう、“He”(彼)でも“She”(彼女)でもない三人称の“Ze”。男女を区別しないジェンダーニュートラルの人称代名詞だね。

──男女の性差にとらわれない考え方を肯定していますが、それを声高に主張するのではなく、「君のキーで唄ってよ」「そのままでいいから」とさりげなく背中を押すような柔らかい触感がいいですね。

宙也:それが理想とするラブソングだから。ストレートに投げたつもりでも変化球になってしまうのは昔から変わらない自分のスタイルでもあるし。

誰の心にも宇宙は存在する

──「春夢 April Cool」はT・レックスっぽいと言うかグラムロックっぽいと言うか、こうしたミッドテンポで爽快さを感じさせる曲は珍しいケースですね。

宙也:今のところね。

レイコ:誤解を恐れずに言うと、私にとっては休憩の曲ですね(笑)。めっちゃラク。

ERY:それほど力まずに弾ける曲ですね。いい感じにフレーズを聴かせられるし、8ビートが多い中でこの曲は少し動きもあって横ノリが出しやすい。

レイコ:華やかに楽しめる感じがあるよね。

秀樹:みんなの言う通り、楽しく明るくがテーマと言えばテーマだったのかな。宙也さんが唄いながらふざけている感じと言うか、ミック・ジャガーみたいに腰を振るイメージが歌のニュアンスとしてありました。その感じで唄ってもらえれば、この手の曲もファロキには絶対合うだろうと思って。

──「この世では会えないけど 春にはまたね」という歌詞がありますが、泉下の人に向けた歌なんでしょうか?

宙也:そこは自由に受け取ってもらえたらいいかな。桜の咲く頃に会えなかった人たちに思いを馳せて書き上げたラブソングです。

──まるで短編小説のような趣きや余韻を感じさせる歌詞ですね。

宙也:ロック界の太宰(治)と呼んでください(笑)。

秀樹:あらゆる表現は文学であると。われわれは音楽を使って文学の世界を表現している、それを“ファロキ文学”と名づけたいと思います(笑)。

宙也:若い頃は「歌詞が文学的ですね」と言われたり、ストレートなロックンロールと言われたり、ラブソングと評されるのがなんか嫌だった。他の人たちとは違う表現をしたいと絶えず考えていたし、ロックンロールって言葉が恥ずかしい時代だったから。でも今は大手を振ってロックンロールをやってるぜと言いたいし、自分なりのラブソングを唄っていきたい。ファロキは特にそんな感じだね。

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──「Godspeed U」は作品の大団円を飾るに相応しい壮大な世界観を感じさせる曲で、ファロキ流“My Way”みたいな雰囲気がありますね。

秀樹:まさに「My Way」のような曲を作るのがテーマでした。フランク・シナトラの「My Way」か、越路吹雪の「ラストダンスは私に」みたいなね。そのバンド・バージョン、パンク・バージョンをやりたいという構想から始まって。ストリングスはほぼ「My Way」ですけど(笑)。

──「サクラが泣いてる」という歌詞からも「春夢 April Cool」と同じ季節の歌だと分かりますね。

宙也:「Godspeed U」はコロナ禍じゃないと書けなかったかな。会いたい、触れたい、でも今それは叶わないという歌だから。今回の5曲はどれもコロナの時期だからこそ書けた曲と言えるかもしれない。その意味では、コロナはラブソングを書きたいという上で格好のシチュエーションでもあった。会いたくても会えないもどかしさ、埋めることのできない距離が常にあったからね。

──「Godspeed U」にも「宙のギンガ」という歌詞があるし、そもそも宙也さんの名前の中に“宙”という言葉があるし、宇宙がキーワードの一つとしてあったんでしょうか。

宙也:言われてみればそうだね。宇宙、宇宙と言ってるわりには宇宙のことをよく分かってないんだけど(笑)。ただ、宇宙のことはいつも意識しているのかもしれない。実際の宇宙空間だけではなく、誰の心にも宇宙は存在するんだよ。東日本大震災以降、コロナ禍があり現在に至る10年間というのは俺の中で繋がっていて、その過程でアレルギーが復活し、ファロキが生まれてまた新しい歌詞を書ける大きな喜びがあった。秀樹がロックンロールを紡ぎ、2人のビートが共鳴したときにそれまで俺の中で鬱屈していたものを一気に解き放つことができて、「会いたいから会いたい」というシンプルな言葉に行き着いた。それが俺の宇宙。

──秀樹さんのメロディはもとより、レイコさんとERYさんが織り成すリズム&ビートが鋭利でストレートだから、それと呼応するように宙也さんの歌詞もシンプルだけどブレのない言葉が出てくるようになったのでは?

宙也:秀樹はよく分かってるけど、俺の歌はビートに大きく左右されるからね。腰の辺りにビートを感受する機能がある気がするし。それと、ギターのリフ、ベースとドラムのビートに呼ばれる語感を俺は大事にしたいし、バーン!と音が鳴ったときに出てくる言葉が“あ行”にするか“か行”にするかでだいぶ印象が変わるから、言葉は慎重に選びたい。響きを大切にしつつ、ちゃんと意味も持たせなきゃいけないからね。サウンドがシンプルなだけに発想も出てくるものもシンプルにしなくちゃいけないけど、最近はその作業が凄く楽しい。レイコとERYのビートや音の強弱によって俺の歌と歌詞も変わるから。

ロックンロールとは嘘と知りながら楽しめるもの

──各々がファロキとして叶えたい直近の目標はありますか。

秀樹:個人的にはいつか野音でライブをやりたいですね。何かの節目としてやれたら嬉しいです。その前に今年のクリスマス・イヴに新高円寺のLOFT Xでワンマンがあるので、ぜひ来ていただければと。

ERY:私は海外遠征がしたいです。もともと海外旅行も好きだし、向こうの小っちゃいライブハウスを回るツアーでもいいから海外での公演をやってみたいです。趣味とリサーチを兼ねて各国のライブハウスをここ何年か視察していて、ニューヨークのダウンタウンのほうにあるパンク系のライブハウスがファロキに似合いそうだなと思ってるんですけどね。

秀樹:その前に国内のツアーをまずやりたいよね。

ERY:確かに。まだ都内と近郊でしかライブをやったことがないので。

レイコ:私はERYと被るけど、韓国に行きたいです。音楽的にも優れたバンドがけっこういるので。

宙也:俺はやっぱり、これまでの話の流れで行くと宇宙へ行くしかないよね?(笑) まあそれはともかく、今までやったことがないという意味ではオーケストラとの共演をいつか実現できればいいなと。せっかく「Godspeed U」みたいな曲もできたことだし、本物のストリングスを入れてライブをやりたい。オーケストラ・アレンジは敢えてしないで、俺たちはロック・バンドとしていつも通りのプレイをするだけっていうのがいい。

──実現するのを願っています。最後に、ジャケットに写るプラカードについて聞かせてください。宙也さんは“Strange Shooting Star”、秀樹さんは“sexy coconut”、ERYさんは“Chocolate junkie”、レイコさんは“Beat Princess”と書かれたプラカードをそれぞれ掲げていますが、これは各自が考案したネーミングなんですか。

ERY:はい、自己申告です。

レイコ:各々考えてきてくれと秀樹さんに言われて。

秀樹:デザイン案は僕で、4人それぞれがイメージする言葉を載せたいから書いてくれとお願いして。

宙也:俺は病院のベッドから送りました(笑)。

──“Strange Shooting Star”、“Chocolate junkie”、“Beat Princess”は分かるんですけど、“sexy coconut”だけ意味がよく分からなくて。

秀樹:かわいらしくていいじゃないですか(笑)。元はフランスの香水らしいんですよ。撮影してくれたのがヨアンというフランス出身のカメラマンで、「フランス人的に“sexy coconut”ってどうなの?」って訊いたら「かわいい感じ」って言ってました。ちょっと背伸びしたかわいい奴みたいな、若い子に向けて言う言葉みたいです。

レイコ:そういうちゃんとした意味があったんだ?(笑)

Photo by Yoan Clochon

──宙也さんの“Strange Shooting Star”というネーミングも宇宙的だし、先ほどからたびたび話題となっている宇宙が今作のテーマの一つという仮説を補完しているようにも感じるんですよね。

宙也:ああ、「愛のプロレタリア」に「この星のエビデンスさ」という台詞もあるしね。

レイコ:今回の作品は確かに宇宙っぽいのかも。“ギンガ”という言葉が随所に散りばめられていたからかな?

──最後の「Godspeed U」もどこかスペーシーな感触がありますしね。

レイコ:エンジニアさんもそんな感じで音を仕上げてくれましたし、宇宙的な何かがある気がします。

──じゃあやっぱり、4人で宇宙遠征ツアーをやるしかなさそうですね。

秀樹:そういうことですね、最終的には。

宙也:ディスタンスでリモートの時代だし、もはや宇宙でもライブできるんじゃない? 「ここは宇宙です」と嘘をついたっていいし、ロックンロールってもともとそんなものでしょ?

──そもそもロックンロールにはまがいものなりの良さ、プラスチック特有の鈍く儚い輝きにその魅力があったりしますからね。フィクションの世界をノンフィクションとして伝える醍醐味もありますし。

宙也:そうそう。嘘だと分かっていながら楽しいものだから。今の時代、みんな嘘か本当かの二元論で決めつけすぎだよね。何でもかんでも黒か白かに分けたがってグレーがない。嘘を嘘だと理解して楽しめるものっていっぱいあるはずだし、昔で言えばたとえば書き割りの月だとか、今で言えばCGだったりはニセモノかもしれないけど、映画という虚構の世界を理解した上でみんな楽しんでいる。ロックンロールも同じ虚構の世界だし、その意味でも俺はロックンロールを選んで良かったと思うよ。

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