ウクライナ:医療列車、心のケア、移動診療──命を守る活動を各地で

MSFの医療援助はウクライナ全域に広がる

2022年2月の戦争開始から7カ月以上が経つウクライナ。長引く戦闘で、多くの市民の命と健康が脅かされ続けている。国境なき医師団(MSF)は、医療列車による患者の搬送を行うほか、心のケアや移動診療などを通し、さまざまな医療ニーズに対応。9月時点の各地での活動を伝える。

医療列車による患者の搬送(ウクライナ各地)

3月31日から、患者を医療列車で救急搬送する活動を実施。前線近くの病院は多くの患者で対応がひっ迫しており、前線から離れた地域の、受け入れに余裕のある病院へ搬送している。
この列車は、ウクライナ国鉄とウクライナ保健省との協力で運行が実現した。入院病棟と集中治療室、さらに酸素生成や発電の機能を備え、患者を長距離運べる仕様となっている。車両の入口を当初の状態より広げるとともに、車両内のドアを撤去し、ストレッチャーに乗った患者を運び入れやすくしているのも特徴だ。

集中治療室には、人工呼吸器をはじめとした医療機器が設置され、医師らが各ベッドを回りやすいよう設計されている。また、列車の近くで爆発が発生した際の被害を防ぐため、車両の窓は飛散防止のフィルムで保護されている。 9月7日現在、MSFはこの医療列車で1401人の患者を搬送。その43%が外傷を負った患者で、10%が集中治療を必要とする患者だった。このほか、避難が必要となった児童養護施設の孤児78人も搬送した。

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医療列車の集中治療室。ウクライナ東部の負傷者を西部のリビウへ搬送している=2022年5月  © Andrii Ovod

【中部】負傷した人びとへケアを──キーウで理学療法の支援

7月から、首都キーウの病院において理学療法の支援を行っている。支援先の病院では戦闘で負傷した人びとが治療を受けており、運動機能の回復のため、手術後のケアの必要性が非常に高い。適切なケアを受けないと、長期的な運動障害に陥る危険性があるためだ。この地域ではこれでまでリハビリテーションや理学療法が十分に普及していなかったため、MSFの理学療法士は現地の医療者へ実地での研修を行い、理学療法の能力を高めている。 また、他の地域から人びとが逃れて来ているビンニツァでは、避難所で移動診療を運営。高血圧や糖尿病など慢性疾患を持つ人びとの治療や、生活必需品の提供を行っている。

3月にはMSFの外科チームがキーウの病院で技術支援を行った © MSF 

【南部】戦争による精神への影響が深刻──心のケアを提供

戦争は、人びとの心に非常に大きな影響を与えている。MSFはミコライウ周辺の農村部で心のケアを提供。ウクライナでは、精神的な問題にはいまだ差別や偏見の目が向けられることが多く、また、戦争関連のトラウマを経験した心理士や精神科医が十分にいないため、支援が必要とされている。 クリビーリフでは移動診療の活動を開始し、性と生殖に関する健康など、基本的な保健医療を提供している。また、地域の病院が多数の負傷者を一斉に受け入れることができるよう、救急救命室の支援を行うほか、外科手術のための機器を提供した。

【北東部】帰る家を失った人たちへ──移動診療を継続

砲撃が続いたハルキウでは、多くの人びとが避難した地下鉄の駅構内で移動診療を行ってきた。現在、MSFの移動診療の活動は地下鉄駅の外へと移り、帰る家を失った避難民をさまざまな場所で支援している。8月にも砲撃が続き、援助活動は時に休止を余儀なくされながらも継続している。

移動診療で患者を診るMSFの医師 この場所は以前食堂だった(ハルキウ)=2022年6月  © Pavel Dorogoy

【東部】高齢者や障害のある人が多数──激戦地から逃れた人びとを支える

ドニプロとその周辺では、ドネツク州やルハンスク州から逃れてきた人びとが避難生活を送っている。また、ザポリージャには激戦が続いたマリウポリなどから逃れた人が多く避難している。その多くは高齢者、障害のある人、保護者のいない子どもなど、遠方へ逃れる余裕のない人たちだ。MSFは移動診療を運営し、高血圧や糖尿病などの慢性疾患の治療や、心のケアに当たっている。 また、ドネツク州の最前線に近い病院が、戦闘により物資搬入や人の通行が不可能になっても患者の治療を続けられるよう、物資や研修の面から支援。一部の病院には、電力や水が途絶えた場合でも1週間は医療活動を継続できるよう、ソーラーパネルや発電機、水の備蓄などの支援も行っている。

東部では救急車で患者を搬送する活動も行っている=2022年7月 © Natalia Chekotun/MSF

【西部】地元でケアを担う人への研修も

イワーノ・フランキーウシクでは、紛争で避難している医師が運営している診療所を支援している。ウージュホロドでは、公共の避難所に滞在する避難民を対象に移動診療を展開。また両地域で、地元の心理士や救急隊員を対象に、心のケアなどに関する研修を行っている。

戦闘から逃れて来た子どもたちを対象とした心のケアの活動=2022年5月 © Nadiia Voloboieva/MSF

周辺国での活動

ベラルーシ

MSFは首都ミンスクほかの地域で、ウクライナやその他の出身国からの患者のニーズに対応。糖尿病や高血圧などの慢性疾患を患い、心のケアを必要としている人が多い。

ポーランド

薬剤耐性結核患者へ治療を提供するために、保健省への支援を行っている。患者には、MSFが以前ウクライナで支援しポーランドへ避難した患者も含まれている。

ロシア

ウクライナからロシアに避難した人びとへ、慢性疾患やHIVの治療、心のケアなどを提供している。また、地元のNGOと協力し、食料や衛生用品、医療物資などの提供に協力している。

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