国葬は菅前首相の「独り勝ち」 追悼の辞で「説く力」アピール 岸田首相ため息

菅義偉氏(資料写真)

 安倍晋三元首相の国葬で追悼の辞を述べた菅義偉前首相(衆院神奈川2区)への注目度が急上昇している。岸田文雄内閣が来週から始まる臨時国会で野党の集中砲火を浴びるのは必至の情勢。倒閣を懸念する与党議員の間からは「『説く力』で独り勝ち」(自民の閣僚経験者)の菅氏の再登板への期待も聞かれ始めている。

◆古いレシート

 同党安倍派(清和政策研究会)は29日の定例会合で「一部報道で安倍氏を国賊呼ばわりした」として村上誠一郎元行政改革担当相への処分を求める決議を行った。「国葬で菅氏にばかり注目が集まる中で、派の存在を知らしめるためにも踏み切った」(同派関係者)という。

 会合終了後、ベテラン議員が居合わせた記者に「これ昔、安倍さんと2人で飲んだ時の証拠」と古いレシートを示した。「菅さんとの焼き鳥屋談判より前。その時、すでに安倍さんは総裁選への再挑戦の意思があったんだ」と付言。菅氏が披露したエピソードへの対抗心をのぞかせつつ「国葬は菅さんの独り勝ち」と苦笑いを浮かべた。

◆文章しのぐ素材

 この日の国会では民放テレビ局の情報番組で同局の辛口の男性コメンテーターが謝罪したことが話題になった。菅氏の追悼の辞の原稿づくりなどに「大手広告代理店が関与した」などと前日(28日)に発言し、「コメントは事実ではない。訂正して謝罪します」と一夜で撤回したからだ。

 菅氏の追悼の辞を巡ってはSNS上で称賛とともに「本人が書いたのか?」との疑惑が飛び交う。与野党間でも「国会答弁や記者会見の原稿も秘書官や官僚にまかせず自分で書いていれば、今も総理を続けていたかもしれない」(公明議員)など観測がにぎやかだ。同氏側近は「間違いなく菅本人の筆によるもの。総務会での決起とか焼き鳥屋談判など本人しか知り得ない素材が響いている。文章や言い回しをしのぐインパクトがあった」と説く。

◆首相弔辞10秒

 NHKは国葬当日の夜7時のニュース番組で菅氏の追悼の辞の様子を約1分伝えたが、岸田首相の弔辞は10秒ほどだった。周辺によると、後に録画を見た岸田首相はため息をついていたという。

 「『聞く力』ならぬ菅氏の『説く力』がアピールできたことが国葬の最大の成果。岸田総理に『もしも』があっても菅氏の再登板で切り抜けられる」と自民の閣僚経験者。現内閣が危機に直面する中で奇妙な安堵あんど感が与党内に漂っている。

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