台湾ホラーの火付け役がいよいよ公開 「紅い服の少女 第一章 神隠し/第二章 真実」レビュー

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飯塚克味のホラー道 第28回「紅い服の少女 第一章 神隠し/第二章 真実」

日本では2021年に公開された『返校 言葉が消えた日』(2019)で注目を集め出した台湾ホラー。今年の夏は劇場で『哭悲/THE SADNESS』が公開、Netflixで『呪詛』が配信され、気にならずにはいられない存在となってきている。このブームの火付け役となった作品が、いよいよ公開される運びとなった。それが『紅い服の少女 第一章 神隠し/第二章 真実』の2本だ。日本では、シリーズ3作目で、内容的には前日譚となる『人面魚 THE DEVIL FISH』のみが公開、ソフト化されていたので、気になっていた方もいるだろう。実は筆者は、ある国際映画祭の1次審査員をしているのだが、そこでこのシリーズを偶然にも観ていて、大きな衝撃を受け、公開を待ち望んでいた。

話の内容は『第一章 神隠し』が、老人の失踪を発端とする、あるカップルが恐ろしい出来事に巻き込まれるというもの。祖母と暮らしながら不動産屋で働く青年ジーウェイ、そして彼と5年間交際しているDJのイージュン。なかなか結婚に踏み切れずにいる二人だが、祖母の友人であるリーさんが失踪、彼女の発見と入れ替わるように今度は祖母が行方不明になってしまう。そして祖母の次はジーウェイが姿を消してしまう。手掛かりは防犯カメラなどに偶然写った紅い服の少女。見つかった祖母は「ジーウェイの名前を言ってしまった」と意味不明な言葉を口にする。残されたイージュンは、やがて山に巣食う、魔神仔(モーシンナア)と呼ばれる精怪の存在に行き当たる…。

『第二章 真実』は社会局家庭内暴力センターで働くシングルマザーのリーが、未成年である娘の妊娠を機に、紅い服の少女の恐怖に直面することとなる。こちらの作品では、紅い服の少女の謎も解明され、2本観ることは必須となっている。

製作年で言えば『第一章 神隠し』が2015年、『第二章 真実』が2017年なのだが、扱っているテーマが、妊娠や堕胎といった、女性が直面する普遍的なものなので、逆に法律などで論議されている今の時代感覚にこそマッチしていると気づかされるはずだ。

監督のチェン・ウェイハオは1984年生まれ。まだ若手と言える存在だが、短編で注目され、『赤い服の少女 第一章 神隠し』を大ヒットに導く。プロデュースを担当した『君が最後の初恋』(2021)は昨年の台湾映画興行で1位、歴代記録でも6位というメガヒットを記録した。

どちらの作品にも共通して言えるのだが、何とも辛く、悲しい出来事がベースにあり、登場人物も我々に近しい問題を抱えているので、感情移入もしやすく、登場人物が感じる恐怖も我が身のことのように感じてしまう。監督の確かな手腕がなせる業なのだが、生と死に対する考え方が、日本に似ていることも挙げられよう。老人の徘徊や水子供養、祖父母や子どもへの強い想いなどなど、本作に詰められたエッセンスは、自然と観客の心を揺り動かしてくれ、怖いはずなのに、どこか優しい気持ちにもさせてくれる。

また本作は、ホラー映画の持ち味である暗めの映像が多いので、家で見るとよく分からない可能性のあるショットが多く含まれている。予算が増えたであろう第2作ではドローンを飛ばした広大なショットや、広範囲にスモークを焚いて、映画ならではの異空間を作り出したりもしているので、是非、映画館の大きなスクリーンで観るべきだろう。

2本続けて観るには、時間も体力もかかるとは思うが、それだけ価値のある作品となっている。近頃、台湾ホラーが気になっている映画ファンであれば、是非とも続けて鑑賞してもらいたいところだ。


飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
紅い服の少女 第一章 神隠し/第二章 真実
2022年9月30日(金)第一章、第二章 シネマート新宿、シネマート心斎橋 他 一挙公開
配給:OSOREZONE/台湾映画社
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