【くろしお】それしかないわけ

 おとといの昼、県立図書館に行き、検索機に向かって目当ての本を探していたら、後ろにある返却カウンターから会話が聞こえてきた。「どうだった? 面白かった?」「はいっ。最後まで読みました」-▼見ると小学生の男の子と図書館の職員。そのときは忘れていたが、翌日、つまりきのうは宮崎市の公立小中学校の授業再開日だった。男の子は夏休み最終日に本を返しに来たのだろう。本は宿題の読書感想文のため? それとも本が好きな子? 想像が膨らんだ▼夏、特に夏休みは書店でも、児童向け図書が前面に出されることが多い。大人になった今でも毎年、何冊か買って読む。今年は戦争、SDGs、そして「性」をテーマにした絵本など。それらを通して、自分の時代とは違う今の子どもたちの現実を見て取れるのも楽しい▼その中の1冊。ちょっと前の本だが、ヨシタケシンスケさんの「それしかないわけないでしょう」。未来を悲観する女の子が、おばあちゃんの話を聞きながら「未来は一つじゃない」ことを学んでいく内容だ。この本のタイトルに、毎年問題となっている「新学期に増える子どもの自殺」を重ねた▼不安や悩みが頂点に達して「もう死ぬしかない」-。そんなとき思い出してほしいタイトルだ。どんな状況でも必ず「死」以外の選択肢がある。ぜひそう心に刻んでほしい。身近な人でもいろんな相談窓口でもいい。まずは心の重荷をはき出してみてほしい。

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