日本は50年ぶりのスタグフレーションに突入するのか−−個人ができる対策は?

連日ニュースで物価上昇を意味するインフレや、景気後退を意味するリセッションとともに、「スタグフレーション」という言葉もお茶の間に浸透してきたように見えます。

スタグフレーション(Stagflation)とは、ざっくりいうと「悪いインフレ」のことで、不況を意味するスタグネーション(Stagnation)とインフレーション(Inflation)の合成語。景気が悪いのに物価は上昇する現象を指します。


日本が経験したスタグフレーション

日本は約50年前の1970年代、第1次オイルショックの後にスタグフレーションを経験したといえます。1973年に起きた第4次中東戦争によって需給がタイトとなり、原油価格の高騰によってスタグフレーションとなりました。

日本はエネルギーの多くを輸入に頼っているため、エネルギー価格の上昇は物価の上昇と結びつきやすいと言えます。では、今はどうなのでしょうか?

足元では世界的にインフレ局面に直面しています。新型コロナウイルスの影響によるサプライチェーン問題や工場停止などを背景に、半導体などが供給不足に陥ったことや、ウクライナ侵攻に伴って各国がロシア制裁としてロシアからエネルギーを輸入しなくなったことにより需給が逼迫、エネルギー価格は一時より落ち着いてきていますが、それでも高い状況となっています。

私たちの日常でもガソリン代の高騰や、円安で輸入品が上昇するなど、家計簿をつけていてもインフレを実感することがあるのではないでしょうか。日本でインフレの動向を表す経済指標としては、総務省統計局が発表している消費者物価指数(CPI)があります。

CPIは全国のご家庭、つまり世帯が実際に購入している製品や使っているサービスの価格が平均的にどう変動しているのかを測定した指数です。生活費全体、消費に大きく関わっていて、インフレ率に関する重要な指標です。1946年から算定が始まり、総務省が毎月月末頃に当月の東京のCPIと前月の全国のCPIを発表し、年金などの社会保障給付を調整する際、このCPIが目安として使われています。また、CPIから天候によって価格変動が大きい生鮮食品を除いた「コアCPI」と、CPIから台風や干ばつなどの天候要因や市況などの外的要因によって価格変動が大きくなりやすいとされる酒類を除いた食料とエネルギーを除いた「コアコアCPI」という、2つの経済指標も総務省からCPIとともに別掲として公表されています。

直近の9月20日(火)に公表された2022年8月のコアCPIは前年比2.8%と、7月の2.4%から0.4ポイント拡大したほか、市場予想も上回る結果−−つまりインフレが拡大しているといえます。ちなみに米国の8月CPIは前年同月比8.3%上昇で、前月の8.5%上昇から減速したものの予想を上回る結果となっており、またユーロ圏の8月CPI速報値は前年比9.1%上昇と前月の8.9%から加速し、過去最高を更新しました。

欧米では、日本の数字が見劣りするほど、さらにインフレ後進懸念が深刻であることがわかります。

個人ができるスタグフレーション対策は?

ただしインフレには、良いインフレと悪いインフレがあると冒頭でお伝えしました。

景気がよくなって需要が牽引するディマンドプル型のインフレは良いインフレです。需要が供給を上回ると、原材料価格などのコストが上昇してインフレとなる傾向となりますが、需要が増えることで企業の業績や従業員の給料も上がるので景気も良くなっていく…経済の好循環を産む状況といえます。

一方、足元の状況のようにコスト高でおきるコストプッシュ型のインフレは悪いインフレであるといえるでしょう。さらにスタグフレーションというのは、悪いインフレで、かつ景気も悪いという状況のことです。

賃金に関してみていくと、1991年にバブルが崩壊してから正社員の給与は上昇していき、1997年頃に平均的な給与はピークとなったものの、その後減少傾向が長いこと続いています。リーマンショックの影響や非正社員が増加したことも平均年収を下げる要因となったようで、この1990年代から2000年代の経済成長が停滞した期間は「失われた20年 」といわれることもあります。

国税庁が発表している、民間企業で働く会社員やパート従業員を対象とした民間給与実態統計調査で、2010年以降の平均給与の移り変わりを見ていきますと、2010年は412万円、2012年の408万円で底打ちし、2015年は420万6,000円、2020年は433万1,000円、そして2022年9月28日(水)に発表された民間給与実態統計調査では2021年の平均給与は443万円と3年ぶりの増加に転じています。とはいえ、1997年頃と比べると低水準であり、物価上昇と比べて給与の上昇は追いついていない状況といえそうです。

岸田政権は賃上げに取り組んではいますが、ウクライナ問題の終結も見えず、日本は世界で唯一マイナス金利を継続しているということで、金利差も意識されて円安外貨高というのも継続しそうです。

給料が伸び悩んでいるのにモノの価格は上昇し続ける……そうなるとスタグフレーションとなる可能性を視野に入れる、すでにスタグフレーションかもしれない、と考える必要があると思います。

スタグフレーションの状況下では、不景気で賃金アップが見込めないなか、インフレによってモノの価値が上がりお金の価値が下がっていきます。そうなると、生活コストは増加するものの、それを補う資金はなく、家計は圧迫されていきます。

スタグフレーションを乗り越えるには、本業以外に副業やサイドビジネスで、さらなる収入源の確保を検討してもよいのではないでしょうか。また、お金の価値が下がるので、預貯金など現金のみで持つのではなく、さまざまな資産に分散させることも有効と考えます。収入の一部を積み立てて資産運用していく、特に若い方は積み立て投資で早めに資産形成に取り組むというのは、時間的な優位性があるので検討していただければと思います。

9月26日週「相場の値動き」おさらい

米国や世界の中央銀行の金融引き締め政策により、リセッションにつながる懸念が意識されている状況が続いています。

9月26日週は米長期金利が一時3.99%と2010年4月以来、12年ぶりの水準となる場面もあり、ウクライナ情勢の懸念も続いていて外部環境的にもリスクを取りにくい状態でもあります。短期的に「売られすぎ」とみる方もいらっしゃるかもしれませんが、運用会社もリスク回避や現金保有比率を上げていると報じられており、今のマーケットは買い手がいない状態とも言えるのではないでしょうか。

9月28日(水)に英イングランド銀行が英長期国債を購入すると発表したことで米長期債も大きく下落したものの、29日には再び上昇に転じました。9月29日(木)に発表された週間の米新規失業保険申請件数が19.3万件と前週から減少し、市場予想よりも労働市場の堅調さを示す結果となったことなどから欧米市場で物価上昇懸念は継続しています。

個別ではアップルの下落が気掛かりです。最新機種であるiPhone 14の増産計画を断念するとの報道などから軟調となっており、アップルの下落も投資家心理を冷やしているかもしれません。

週末9月30日(金)の日経平均株価は前日比484円84銭安の2万5,937円21銭と反落。9月22日(木)の日経平均株価は2万7,153円83銭でしたので、週間では1,216円62銭の下落となりました。

今週は9月30日(金)ということで、週末要因以外にも月末や期末(アメリカは年度末)というのも意識されていることも考えておきましょう。10月から相場が変化してくるかもしれませんので、その点も注意してみていきたいですね。

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