「シン」に乗るなら今が旬! アサイラム製SF大作『シン・宇宙戦争』出演はクルーズ、じゃなくてサイズモア

『シン・宇宙戦争』Ⓒ 2021 Acme Holding Company, LLC. All Rights Reserved.

とにかく『宇宙戦争』が好き?

『シン・ゴジラ』(2016年)に続いて『シン・ウルトラマン』(2022年)と、近年“シン”の名を持つ映像作品が人気を博している。が、それらとはまったく無関係に、パクリ上等の低予算映画スタジオ<アサイラム社>が送り出した作品が、『シン・宇宙戦争』(2021年)だ。

原題はさらに露骨で、『ALIEN CONQUEST』はまだしも『2021 WAR OF THE WORLDS』などは、モロ直球に『宇宙戦争』(1953年/2005年)の2021年版を標榜している。まるでこの映画の原作者であるかのような立場に追いやられることとなった、ハーバート・ジョージ・ウェルズにとってはたまったものではないだろう。死人に口なしということか(※原書の著作権は失効済。念のため)。

というわけで今回は、このアサイラム製SFパニック映画『シン・宇宙戦争』を紹介していこう。

ちなみに、アサイラム社は以前にも『H.G.ウェルズ 宇宙戦争 -ウォー・オブ・ザ・ワールド-』(2005年/原題:『H.G. WELLS’ WAR OF THE WORLDS』)というSFパニック映画をリリースしている。もしかすると、本気でただ『宇宙戦争』が大好きなだけなのだろうか。

アサイラム作品の常連と化したトム・サイズモア

天文学者のアリソンは、火星で発生した異変を知る。地中から巨大な飛行物体が出現、地球に向かっているのだ。UFOの編隊はニューヨークに飛来。内部から現れた三足歩行兵器《トライポッド》の攻撃で、アメリカは大パニックに陥った。侵略者と米軍の激戦が続く中、アリソンは敵の研究を続け、恐るべき事態を知る。ヤツらは自分たちが移住できるよう、地球の大気を火星と同じ成分に変えようとしている。そしてそれは、人類の死滅を意味するのだ……。(※公式HPより引用)

監督は『シン・アナコンダ』(2021年)のマリオ・N・ボナシン。手がけた映画にやたらと“シン”の二文字をつけられている。ほか、毎度おなじみトム・サイズモアが出演。完全にアサイラム作品の常連と化している。

物語は基本的に、主要人物同士の会話劇で進行する。ときたまエイリアンが地上に着陸したり、隊列を組んで飛行したりするショットが挟まるが、それも一瞬。実際の本編は、その多くが寄り気味の画での会話・会話・会話……。

一応、エイリアンの襲来で大混乱に陥っているという設定なのだが、画面上に映るのはキャストの顔面と上半身ばかり。そして舞台はもっぱら狭い室内や車内、もしくはほかのアサイラム製SFパニック映画で見慣れた、いつもの森。さらには場面転換の際、しばしば同じ風景の空撮を使い回しているため、“地球侵略の危機”の割にはどうもスケールが小さく感じられる。まるで自宅の近所ですべてが完結しているかのような行動範囲の狭さだ。

本家に倣った“トライポッド”はなかなかのクオリティ

当然見せ場らしい見せ場も少なく、淡々とした話運びが続く。コロナ禍の撮影ということも影響しているのだろうか、エキストラの人数がまるで足りておらず、「人気のない橋の上で、音声だけがワイワイガヤガヤしている」チグハグなシーンまで存在。アサイラム社の苦労が偲ばれよう。もちろん、クライマックスの展開もかなりあっさり風味。このからっ風が吹くかのごとき味気なさは、一周回って上手く扱えば独自の魅力にもなりそうなものだが、とりあえず今回はそこまでの境地には至っていない。

3DCGは意外にも小綺麗。が、エイリアンの造形の細かさに対し、戦車やエフェクトは割と作りがぞんざいだ。もっとも、映像面は比較的見られる部類だろう。先にも述べたが、本家『宇宙戦争』よろしく“トライポッド”が登場する点も見逃せない。そこは本作の素直に褒められる部分になるだろう。その勇姿をもう少し長く、複数回作中で拝みたかったところだ。

ほかの点はともかく、やはりエイリアン及びトライポッドの出番の少なさが難点だ。結局はいつも通りの脚本構成とセットを使った、いつも通りのアサイラム作品になるだろうか。あなたもぜひ本作を鑑賞し、痛みを知る一人になっていただきたい。

文:知的風ハット

『シン・宇宙戦争』はU-NEXTほか配信中

© ディスカバリー・ジャパン株式会社