豚足=テビチじゃないの!? 本当の意味は「煮込み」 「足テビチ」の誤用が定着

 「テビチの煮付け」に「テビチそば」。沖縄では豚足を指す言葉として「テビチ」が定着しているが、実はしまくとぅばの「テビチ」に豚足という意味はない。豚足でなければ「テビチ」とは何なのか。ウチナーンチュが誤って使っている「テビチ」の真相を探るべく、琉球料理保存協会理事長の安次富順子さん(78)を訪ねた。

 安次富さんが取り出したのは、琉球語の基礎資料として広く用いられている国立国語研究所の「沖縄語辞典」。「テビチ」の語源となる「ウティビチ」の項目には次のように書かれている。

 「お祝いの時作る料理の名。肉・豆腐・大根・昆布などを醤油味で煮込んだもの」

 つまり、「テビチ」とは肉を使った煮込み料理のこと。食材である豚足ではない。

 安次富さんが解説する。「豚足を意味する言葉は『足(アシ)』。みなさんが『テビチ』と言って思い浮かべる料理は『足テビチ』。いつのまにか足が消えて、テビチだけ残ってしまっているの」

 「足テビチ」から印象的な響きの「テビチ」が残り、足の意味に取って代わってしまっているのだ。本来の意味を考えると、「テビチの煮付け」は「煮込みの煮付け」となり意味不明だ。

 では、豚足を使わない「テビチ」とは何か。安次富さんに作ってもらった。

 出てきた器には三枚肉が入っていた。ほかの具材は豆腐、大根、昆布。沖縄語辞典にある通りだ。肉とかつお節で取った透明なだしに具材が浸っている。本来の「テビチ」は、三枚肉を使った上品な汁物だった。

 三枚肉のテビチは正月などに食べるおもてなし料理で、コラーゲンたっぷりの「足テビチ」は高齢者が好んで食べていたという。

 琉球料理を伝承する立場として、テビチの誤用をどう感じているのか。安次富さんに聞くと「私も豚足のことをチマグーと言うけど、本来のチマグーはつま先だけ。コーレーグース(唐辛子)はコーレーグスだよ、と言っていたけど、辞典を見たらコーレーグシュとなっている。言葉は変わるものなのね」と返ってきた。「豚足を指す『テビチ』という言葉は市民権を得ている。直さないといけないとは思わないけど、本来の意味は知ってほしいかな」。琉球料理の第一人者は、寛容な笑みをこぼした。

 (稲福政俊)

© 株式会社琉球新報社