<書評>『わったー世界のウチナーンチュ!』 アイデンティティーに向き合う

 先の知事選では、「オール沖縄」が推薦する候補が再選を果たした。だからこそ改めて、故翁長雄志氏による「イデオロギーよりアイデンティティー」という言葉の意味について考えてみたい。世界にも目を向けて。

 誤解を恐れずにいうと、私はウチナーンチュとしてのアイデンティティーを持ち合わせていない。海外に居住する朝鮮人という点にアイデンティティーがある。

 もっとも、来沖よりも前から、沖縄にはシンパシーを抱き続けてきた。もちろんそこには、悠久の歴史や文化、あるいは虐げられてきた者としてのそれもあるだろう。しかし、それだけではない「何か」の正体(の一端)を、本書から見いだせた気がする。

 本書には、海外県系人によるアイデンティティーについての語りが、英語・スペイン語・ポルトガル語と共に収録されている。「海外同胞」や、ときに「パンチョッパリ」(「半分日本人」という意味の侮蔑的な呼称)とも呼ばれる評者にとって、ここにある、ときに明るい語りは、悩みや葛藤をも想起させるものがあり、少しばかり胸を痛くさせた。

 しかし本書はそこにとどまろうとしない。海外県系人が自身のアイデンティティーを語る姿に正面から向き合う、県内外の日本生まれ日本育ちの人々による語りや考察も収録されている。その行間ににじむ葛藤や問題意識、悩みは、本書をより価値あるものにしている。

 先にも述べたとおり、私はウチナーンチュとしてのアイデンティティーを持ち合わせていない。しかし、(世界中の)ウチナーンチュ、そしてウチナーンチュに向き合うあらゆる人と共に、「アイデンティティー」について真摯(しんし)に、深く、そして明るく悩むことはできる。

 今年、「復帰」50年を迎えた沖縄の民意は、踏みにじられたままである。私の故郷・朝鮮半島は、今なお分断されたままである。われわれのアイデンティティーとは一体…。

 今年は世界のウチナーンチュ大会が開催される。本書を座右に置きながら、「アイデンティティー」について、真摯に、深く、そして明るく、悩んでみようと思う。

(白充(ペクチュン)・弁護士)
 のいり・なおみ 京都生まれ、琉球大准教授。
 ふじなみ・かい 東京生まれ、関東学院大専任講師。
 まかべ・ゆか 徳島県出身、ヒスパニック文化センター代表。
 
わったー世界のウチナーンチュ! 野入直美・藤浪海・眞壁由香 編著
四六判 244頁(16頁カラー)
¥1,760(税込)琉球新報STOREで販売中 

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