就任から1年

 〈新品、未使用です〉…フリーマーケットのサイトに小さなノートの出品が相次ぎ、ちょっとした話題になったのは5月だった。持ち歩きに便利なA6サイズで、紺色の表紙には「自由民主党総裁 宏池会会長」と彼の署名が▲1万円超の強気な値付けも多く、実際、高額での売買成立例も少なくなかったらしい。岸田文雄首相の出身派閥が開いた政治資金パーティーでお土産に配られた「岸田ノート」▲「ここに1冊のノートがあります。私たち自民党がこれからも皆さんの声に耳を傾け、協力をいただきながら、ともに日本の明日を創っていく。このノートはその約束の証しです」-首相が街頭で声を張り上げたのは昨年10月の衆院選だった▲初心忘れるべからず-などと、口はばったいことを改めて申し上げるつもりはない。ただ、人々の声を聞き、熱心にメモをとる「インプット」はその先の発言や行動の「アウトプット」に反映されなければ意味がない▲岸田首相は第1次内閣の発足からあすでちょうど1年の節目を迎える。365日は長かったか、それとも、あっという間だったか。胸のノートは1年で何冊増えただろう▲難題山積の臨時国会が始まる。このところ真価が何だか危うく思われる首相の「聞く力」と、その先の「語る力」が鋭く試される。(智)

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