藤本国彦(ビートルズ研究家)と本秀康(イラストレーター・漫画家)が登壇した『ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド』トーク・イベント開催!「インド、リシケシュでは本当にビートルズのメンバーが和やかなところが、見ていて楽しいです」(本秀康)

1人の青年がビートルズと過ごした奇跡の8日間を描いた話題作『ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド』が公開され、その初日である9月23日に池袋シネマ・ロサにおいて、ビートルズ研究家の藤本国彦と、イラストレーター/漫画家としてビートルズ・ファンにはお馴染みの本秀康の対談が行なわれた。

藤本国彦(以下、藤本):

本さんはジョージの大ファンとしても知られていますけど、映画をご覧になって何か気になったところはありました?

本秀康(以下、本):

僕はポール・サルツマン(監督、脚本、製作)の写真が大好きなんですけど、その中でジョンとポール、ドノヴァンがアコギで演奏してるシーンにジョージがいないことが多い。なぜかと思っていたら、映画の中でシタールを弾いてるのを初めて聴いて。あの場所にシタールがあることを知らなかったので、なるほどと思いました。ジョージは自分の部屋でシタールを弾いてたのが分かったのが、僕は一番の収穫でした。

藤本:

僕も知らなかった。曲も、「ジ・インナー・ライト」を初めて披露していて。

本:

マハリシの前でジョージが歌ったのはびっくりしたし、羨ましかったです。

藤本:

まだ発売される前ですからね。あと驚いたのは、有名なジョンとポールがアコギを弾いて隣にリンゴがいる写真。あのときの曲がまさかの「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」だったという(笑)。

本:

僕はそのずっ〜〜と後に、あの現場に行って、あの写真を思い浮かべて──多分アコギなんで「ブラックバード」とか「ジュリア」とかその辺りかと──その場所に座ってiPhoneで聴いてたんですけど、「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」には至りませんでした(笑)。

藤本:

びっくりしました。

本:

だってジョンは「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」をそんなに気に入ってないはずなのに、楽しくセッションしているのは──、あのときは別に嫌いじゃなかったのかも。それをロンドンに持ち込んで『ザ・ビートルズ(通称“ホワイト・アルバム”)』のレコーディングでしつこくやったので嫌気がさしたのかな(笑)。

藤本:

それはあり得ますね。ポールのしつこさに。

本:

リシケシュでは本当にビートルズのメンバーが和やかなところが、見ていて楽しいです。

藤本:

他に気になった場面は?

本:

動くマーク・ルイソン(笑)にまずびっくりしましたけど、リシケシュで“ホワイト・アルバム”のために作った曲の数について話す場面。曲数についてポール・サルツマンがマーク・ルイソンに対して異論を唱えるところがすごい。

藤本:

マーク・ルイソンに楯突くポール・サルツマン。

本:

それを、「現場に行ったあなたが言うのだから、そうなのかもしれないね」と話を落ち着かせるマーク・ルイソンの大人対応もよかった。でも、心の中では絶対自分のほうが正しいと思ってますよね(笑)。

藤本:

T.M.(超越瞑想)に対しても、ポールさんが入り込んでいるのに対し、客観的に見ている研究家のマーク・ルイソンの視点の違いが浮き彫りになっていて、刺激的で面白かった。

本:

T.M.を信じてリシケシュまで行った人ですから。

藤本:

それで人生が変わった。だからビートルズの映画でありながらポール・サルツマンさんの非常に個人的な独白、人生訓的な話でもあるのが面白い。

本:

ビートルズの歴史の中でジョージがリーダーシップをとったイベントってこれだけなんですよ、他の3人がジョージについて行ったっていう。だからポール・サルツマンの青春記…みたいにしないと、映画として成立しなかった。良い落とし所だったかなと思います。

藤本:

ジョージってけっこう重要で、エリック・クラプトンやビリー・プレストンを連れてきたりして、結局ビートルズを長生きさせた。

本:

ビートルズのメンバーもこのリシケシュですごく和やかな表情を見せているのに、その後一気に崩れる。だから、ここでの体験が解散の原動力になってしまったのかも。

藤本:

そう思いますよ。バンドよりも個を見つめ直し過ぎた。それが“ホワイト・アルバム”にも出てます。

本:

二枚組になったのも、みんなが創作意欲が湧いていっぱい曲ができたからなんですけど、もしかしたらソロ・アルバムができるかも…とみんなが思った可能性がありますよ。

© B6B-II FILMS INC. 2020. All rights reserved

実は、本は二度リシケシュに足を運んでいる。2013年と、2018年3月。2013年は「マハリシ・アシュラム(僧院)」はまだ一般公開はしていなかったので壁を乗り越えて侵入、中は荒れ果てていて、そのうえ野犬に追われて散々な目に遭ったとか。
2018年はビートルズが訪れた50年後。彼らと同じ場所に行って、漫画のアイデアを考えよう──という計画。当時はすでに「ビートルズ・アシュラム」とも呼ばれる観光地になっていて入場料を払えば入れたので、一週間以上毎日通ってビートルズのバンガローで漫画を描いていた。後で分かったのだが、なんと偶然にもそこはジョージの部屋だった。

本:

あれは嬉しかった。

藤本:

やっぱり持ってますね(笑)。僕も来年行こうかな…と思ってます。この映画を見てインドに行きたい人が増えたみたいで。

本:

屋上でメンバーが集っているシーンもありましたけど、屋上は暑くて(笑)。2〜3月のインドは灼熱で、平らで何もないところでずっと居られるとこじゃないんです。だから、それぞれが自分の部屋で曲作りをしてたんじゃないかなと思います。ビートルズはメンバーみんなで行ったじゃないですか、だから僕も、みんなで行けたらもっとビートルズの気持ちになれたかな──と思いました。

藤本:

カレーは美味しかったですか?

本:

リンゴが風土に合わなくてすぐ帰ったでしょ、確かに修行の場なので肉が食べられないんです。カレーとかも豆のカレーとかしかなくて。町のカレーは20円くらいで食べ放題状態。ストップを言わないとなくなるそばから追加されるので。2回目に行ったときはデリーで思い切りチキンカレーとか食べてから行きました。リシケシュと隣のハリドワールっていうヒンズー教の大聖地の間に、ちょっとだけ修行の場じゃない町があって、そこではチキンカレーが食べられました(笑)。

藤本:

後は何か気がついたところは?

本:

ポール・サルツマンも映画の中でデリーからリシケシュに電車で行ってました、ビートルズも電車だったのでそれに倣ってだと思うんですけど、今はデリーから国内線の飛行機で行けます。ジョージの「デラドゥーン」って曲にもなっている避暑地。避暑地好きのジョージはリシケシュだけじゃなくて遊びに出かけたのかなぁ──とも思いました。毎晩リシケシュではプージャっていうヒンズー教の儀式をするんです、シタールやタブラの演奏で松明で火を灯して宗教的な歌を唄う中で「ハレ・クリシュナ・マントラ」を毎回盛り込んでいて。ジョージ・ファンとしてはめちゃくちゃ嬉しかった。

藤本:

町にはどんな人が来てるんですか?

本:

一般開放されていた50周年のときは僕がバンガローに1日居ると20組くらいの人が来て、だいたい白い修行服を着た白人で、そんなにビートルズ・ファンじゃなかった。だからあそこはビートルズの町ではないですね。ヨガ、メディテーションの修行の町です。そういったものが好きな自然志向の白人がいっぱい来ていてビートルズ関連の施設があるから入ってみよう──というライトな感じでした。

藤本:

本さんは修行はしなかったんですか?

本:

この映画を見て、修行をすればよかったかなと思いましたけど。たまに疲れて泊まった高級ホテルでは朝、ヨガとメディテーションがサービスで付いているのがあって、一応形だけやっておこうと思ってやったことはありましたけど。

藤本:

心は洗われましたか?

本:

ちょっとビートルズに近づけたかな──って気はしました、今はポール・サルツマンみたいにしっかりやるべきだったなという気はしてます。

藤本:

ビートルズへの近づき方としてインドはあまり語られてなくて、実際そこで何があったのか具体的にはあまり知られてないですよね。

本:

彼らもやることは限られてたと思うんです。そこに同じ期間居れば、自ずと同じことをできるんじゃないかなって気がします。だってビートルズがあんなに自由に生活できた期間ってないと思うんです。

藤本:

マネージャーのブライアン・エプスタインが亡くなった後ですから、その影響も大きいと思いますね。さっきの話じゃないですけど、解放された部分と解散に近づいた部分の両方がある。

本:

ビートルズのリシケシュ行きは、重要なエピソードだったんじゃないかな──と僕は思います。

藤本:

この映画も新たな個人的な回想録として楽しめたし、今日来られた方も二度三度ご覧いただければ。またポール・サルツマンの新装版の『THE BEATLES IN INDIA』という写真集も出ています。

本:

僕は、この映画のパンフレットに文章とイラストを描いてます。久々に描いたビートルズですけど、インドのビートルズっぽい絵になってると思います、ぜひ見てください。そしてリシケシュに行ったときのことを割と詳しく書いているので、この映画を観てもしリシケシュに行きたい方がいらしたら、そのガイドとしても読めると思うのでチェックしてください、お願いします。ありがとうございました。

──場内大拍手

© 有限会社ルーフトップ