為替介入の効果と生活への影響とは?日本がトリプル安となった英国と異なる点

急速に円安が加速したことで、輸入物価であるエネルギーや食糧価格が上昇し、私たちの生活に影響を及ぼしています。

そこで、政府・日銀は24年ぶりの為替介入を2.8兆円規模で実施しました。9月22日(木)に1ドル=146円手前まで円安が進みましたが、伝家の宝刀である為替介入を実施後は140円台まで、およそ5円の円高と円安に僅かながらブレーキをかけたようです。

しかし、数日後には144円台で推移していることから、年後半も円安基調に変わりはなさそうです。また、為替介入の原資となる外貨準備は185兆円程度ですが、当然、その全てをすぐに使えるわけではないため、機動的に買える枠は17~20兆円程度と推測されており、為替介入の効果は限定的だとも言われています。

円安基調に変化はないことから、物価上昇率は3%を越えてくることが予想されます。まだまだ私たちの家計に値上げの打撃が続きそうですが、為替介入の効果=ゼロではないと考えます。


視点は「円売り」から「ポンド売り」へ

為替介入の効果は限定的かもしれませんが、145円台での為替介入はマーケットに対して、水準感を示したことになります。

米国やその他の国が続々と利上げを実施する中で、9月22日(木)に日銀が「金融緩和継続」を表明しました。日銀の金融政策の発表と同時に抱き合わせのタイミングで「為替介入」を実施しなければ、円安に歯止めがかからなかったでしょう。

また、一時的かもしれませんが、短期的な売買での利益を狙う投機筋の目をそらすことに繋がったと考えるのが妥当です。投機筋は「ドル買い・円売り」のポジションを取っていましたが、為替介入により22日以降は「円売り」をしづらい状態になりました。ドルに対して、円以外に売れる通貨を探していたタイミングで、イギリスの政策に隙を突いた格好となりました。

9月23日(金)、英国のトラス政権が発表した経済政策は、エネルギー高騰対策のために、7兆円を超える大規模減税を行い、5年間で25兆円の財政負担が増えるという内容でした。しかも、財源を「国債発行」で賄いますので、英国の財政懸念から金利は上昇し、債券安・ポンド安・株安のトリプル安になりました。

世界のマネーの動きや流れはつながっていることから、日本の為替介入で「円売り」がやりづらい中、投機筋からポンドが格好のエサとなったのです。逆に、ポンド安を増幅させたのは、日本の為替介入が遠因だとも考えられます。

このように、政策の整合性が取れないと、無残にもマーケットから売り浴びせられる厳しさがあります。英国は大規模減税という「緩和」政策を打ち出しましたが、減税でイギリス経済が成長するかは懐疑的であり、むしろ財政懸念の方が先立つと受け止められたことになります。

日本も「総合経済対策」を発表

日本も「緩和と引き締め」を同時に行っている英国と状況が似ているため、「日本は大丈夫か?」「一段と円安が進むのではないか?」と質問をよく受けます。

岸田総理は「総合経済対策」を打ち出し、国民の生活をサポートしています。財政出動は国の財政状況を悪くすることがありますが、現状、日本政府は国債発行ではなく、主に予備費の範囲内で、物価対策を行っています。また、所得税・法人税の減税も行っていない点は英国とは異なります。

最後に、英国と日本を比較した際に最も異なる点に言及します。

日米の金利差拡大による円安基調はまだまだ継続ですが、イギリスのような財政状況懸念からの円安には限界がありそうです。なぜなら、英国はアメリカに次ぐ世界第2位の「対外純債務国」で、債務残高は2021年末時点で113兆7,000億円、つまり借金国です。

一方で、日本は世界第1位の「対外純資産国」で、日本の対外純資産は2021年末時点で411兆1,841億円です。簡単に言えば、英国は借金(債務)が多く、日本は貸金(債権)が多いため財政状況は全く異なります。

単純にイギリスと日本は似ているから−−しかも、なんとなくやっている政策が似ているから、という感覚だけでは、本質的な状況は把握が難しいです。

国の債権・債務のバランスや、経常収支が「黒字」であることなどを踏まえて国の力を考えると、意外と日本の財政状況は強固だということが分かります。

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