「最長片道切符」新大村が終点駅に 1万1000キロの旅 東京の伊藤さん 達成者第1号

「最長片道きっぷの旅」の達成認定書を手に笑顔の伊藤さん=大村市、新大村駅

 全国の鉄道路線を一筆書きで結んだときに最も長いルートとなる「最長片道切符」の終点駅が、西九州新幹線の開業に伴い長崎県大村市のJR新大村駅に変わった。市によると終点駅が変わるのは33年ぶり。9月24日には東京で鉄旅タレントとして活動する伊藤桃さんに「最長片道きっぷの旅」達成者第一号の認定書を贈った。

 市によると、最長片道切符は、同じ駅や区間を通らずに最も長いルートとなる切符を指す。路線の開業や廃止などで途中の経路は変わるが、西九州新幹線開業前は北海道の稚内駅を始点駅に、佐賀県の江北駅(旧肥前山口駅)が終点駅となるルートが最長だった。今回、早岐駅を通過して武雄温泉駅で新幹線に乗り換え、新大村駅に向かうルートが18.5キロ長い最長になったという。
 JR九州によると、「最長-」の終点駅は公式に認めているものではないが、「そういった楽しみ方をしているファンがいることは把握しており、切符が発行された実績もある。これをきっかけに大村の町が盛り上がれば」とする。
 大村市も「ゴールとなる地点は特に印象が強い。交流サイト(SNS)でも発信してもらえる」と、大村車両基地に加え鉄道ファンが同市を訪れる動機の一つになると期待を寄せる。

 第1号となった伊藤さんは、SNSや雑誌連載などで鉄道や居酒屋などの話題を発信している。今回の旅では8月29日に稚内駅を出発。1カ月近くかけてJR在来線や新幹線を乗り継ぎ、西九州新幹線が開業した9月23日午後9時前に新大村駅に到着した。切符の値段は特急料金を除いて約9万4500円。総移動距離は長崎からポルトガル・リスボンぐらいまでの距離に相当する約1万1千キロに上る。

伊藤さんが購入したきっぷの九州内ルート

 旅の途中では駅近くの宿泊施設に泊まり、ご当地のグルメや酒を楽しんだという。台風14号の影響で足止めされたり、振り替えバスになったりしたこともあった。そうしたトラブルを乗り越えたどり着いた最終日の大村線では、大村湾に沈む夕日を目の当たりにし「『これで旅が終わってしまうんだ』と寂しさを感じた」という。旅の最後を飾った新幹線かもめについては「乗り心地が良く、機能性だけでなく旅を楽しんでほしいという雰囲気を感じた」と振り返った。
 24日は新幹線開業イベントの一環で市新幹線アクションプラン推進協議会会長の園田裕史市長が、伊藤さんに達成認定書を交付。伊藤さんは「(鉄道に乗って楽しむ)『乗り鉄』にとってあこがれの『究極の切符』。変わりゆく車窓や駅弁など、時間がぜいたくに過ぎていく旅だった」と喜びを語った。

伊藤さんの切符(右)と時刻表。切符は別紙にルートが記載され、途中下車印が押されている。時刻表は何度も読み返してぼろぼろになった


 一方、「終点駅」の座を譲ることとなった江北駅のある佐賀県江北町。同町では2004年にNHKで放送された番組をきっかけに記念碑を江北駅前に設置していた。同町によると、記念碑の前で記念撮影する鉄道ファンも多く「終点駅が変わる前日の22日には、『最後の記念に』と訪れる人もいた」という。

江北駅に設置されている記念碑(江北町提供)

 記念碑は「番組放送を記念した物なので」と、今後も残す方針。同町地域振興課の担当者は「肥前山口駅(江北駅)も初めから終点駅だった訳でなく、他駅から譲られたもの。鉄道ファンの“聖地”だったことに変わりなく、本当に多くの人に愛してもらった」と話した。
 大村市では今後、申請があった場合、始点、終点駅や日数などを確認した上で認定書を交付する。園田市長は「市の新幹線アクションプランでは『素通りからストーリーのあるまち』を掲げており、そのシンボルの一つとなる。大村が目的地となる取り組みを進めたい」と語った。


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