過激な信仰の末路 Netflix『母は殺人者になった -終末カルトが生んだ家族の悲劇-』最悪の結末に衝撃!

Netflix『母は殺人者になった -終末カルトが生んだ家族の悲劇-』独占配信中

タイトルずばりな胸糞ドキュメンタリー

Netflixのドキュメンタリー『母は殺人者になった -終末カルトが生んだ家族の悲劇-』は、コルビー・ライアンという青年の証言から始まる。あるとき自宅を訪ねてきた刑事に「タイリー(妹)かJJ(弟)はいるか?」と聞かれたコルビーは、母ロリーに電話。しかし「心配ない。こっちで対処する」と言われたきり、音信不通になってしまった。

幸せそうな家族写真、子供の失踪を報じるニュース映像、終末思想的モチーフ、複数の不可解な死、謎の男との出会いによって変わってしまった母……。作品のテーマが矢継ぎ早にカットアップされるプロローグから漠然とした不安を醸し出し、暗澹たる結末を予想させられる。

邦題からして内容はある程度想像できるかと思うが、本作は“カルトの危険性”を訴えるというよりは、独善的な人間による恣意的な宗教利用がある家族にもたらした、理不尽な悲劇を淡々と映し出すドキュメンタリーだ。

なぜ母は終末思想にのめり込んだのか?

この恐ろしい物語は、ひそかに息子を虐待していた3番目の父親から母子(ロリーとコルビー、タイリー)が逃れたところから始まった。ロリーは既婚女性のミスコンやクイズ番組に出場するような美しくバイタリティのある女性で、すぐにチャールズという子連れの男性と4度目の結婚。親類の孫であるJJを養子に迎え、家族は一気に大所帯となった。

チャールズも家族に倣ってLDS教会(末日聖徒イエス・キリスト教会/The Church of Jesus Christ of Latter-day Saints ※いわゆるモルモン教)に所属し、その後ハワイに3年間移住。チャールズは良き夫/父であろうとし、断酒などポジティブな効果もあったようだが、LDSの教えを深く理解するのは簡単ではなく、それに対しロリーは“彼は霊的に対等な存在ではない”と不満を抱くようになっていた。

本土に戻った後、コルビーの結婚(=息子の喪失?)を悲観し終末的な思想にのめり込むようになったロリーは、弟アレックスらと共に新たな信条を掲げるグループを立ち上げる。さらに、自身の臨死体験を綴った「天国の縁を生きる」という自伝をベースに“備える人々”と呼ばれる集会を催していた、チャド・デイベルと邂逅。同じく終末思想を標榜する二人は急接近し、これが地獄の階段への第一歩となる……。

信仰による献身が利己的願望に置き換わる瞬間

監督は、同じくNetflixのドキュメンタリー『白昼の誘拐劇』(2017年)、『ガール・イン・ザ・ピクチャー:写真はその闇を語る』(2022年)のスカイ・ボーグマン。テーマがはっきりしているので『ガール・イン・ザ・ピクチャー』のようなミステリ風の緊張感こそないが、全3話構成のタイトさで最悪の事態に向かってずんずん突き進む。

言わずもがな邦題にある“終末カルト”とは、自分は神と対話しているなどと嘯くチャドが勝手にぶち上げた宗教的グループのこと。彼はLDS教会の会員ではあったものの教義に反する行為が問題視されていて、元友人の信者からも“闇堕ちした変人”扱いされているような人物だった(後に破門されたそうだ)。そんな男と“選ばれし者の秘密の集まり”に吸い込まれてしまったロリーも、かなり早い段階で「家族を守りたい」という想いが「生き直したい」という願望へと置き換わってしまっていたように見える。

登場人物の相関図がないと若干混乱するかもしれないが、イッキ観は不可避な衝撃的内容なので、巨大カルトと政権の癒着が大問題になっている今こそ観ておくべきドキュメンタリーだろう。

Netflix『母は殺人者になった -終末カルトが生んだ家族の悲劇-』独占配信中

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